春風に吹かれて
菜乃ひめ可
桜舞う季節に、僕は君を初めて見かけた。
真新しく、まだ馴染んでいない制服に身を包み嬉しそうに歩く姿と、時折り見せる不安そうな表情が初々しい。はずかしいのか、ふわりと吹くそよ風になびくサラサラの髪に手櫛をして、顔を隠すようにくるくると人差し指で巻く。
その愛くるしい仕草に目を奪われた僕は、まるで周囲の景色や雑音から切り離された世界へ飛ばされたかのように、視界は君しか見えない幻想空間に感じられた。
そうさ僕は、君に見惚れていたんだ。
しばらくすると桜の木の下で立ち止まる。誰かを待っているのだろうか? 背筋を伸ばし凛と立つ君はそう、いわゆる芍薬のように美しく、僕なんかは手の届かない存在に思えた。
“ふわぁ”
春風だ――。
あたたかな風が頬を撫で通りすぎ、僕は思わず青空を見上げた。眩しい太陽を手で遮りながらも、その穏やかさに笑む。
新たなスタートを祝うように、ひらひらりと桜の花びらは光と共に地上へ降り注ぎ、一面を桃色の絨毯へと変化させてゆく。
微笑む君と目が合った瞬間――。
「天使だな……」
無意識にでていた言葉と、胸の高鳴り。
僕は自分が恋をしているのだと、気付いた。
春風に吹かれて 菜乃ひめ可 @nakatakana
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