第4話 悪魔の降臨
その夜、私は地下室に篭り、悪魔召喚の準備を始めた。
「悪魔召喚の書」を手に取り、書かれた手順を一つ一つ丁寧に確認しながら、床に魔法陣を描いていく。
ろうそくを魔法陣の周囲に並べ、中央にはグラス1杯の水を置いた。
ろうそくの揺れる炎が壁に影を映し出し、地下室全体が異世界のような空気に包まれた。
「これで……本当に悪魔が現れるのか?」
自分自身に問いかける声が、ひどく頼りなく響く。
生贄は生の鶏肉と書いてあったが、そんなものを手に入れる手段は私にはなかった。
仕方なく司令部の食堂で配給されたフライドチキンで代用することにした。なんの鳥の肉を使っているかは知らない。これで悪魔が現れるのか疑問だったが、他に選択肢はなかった。
皿に載せたフライドチキンを魔法陣の中心にそっと置いた。わずかに揚げ油の匂いが漂い、緊迫した空間に場違いな温もりを添える。
深呼吸をして息を整えながら、私は「悪魔召喚の書」の呪文が書かれているページを開いた。
悪魔召喚の呪文に関する記述が続く中、「人の魂を媒介として力を引き出す」という一文が目に留まった。
背筋が凍るような感覚に襲われ、恐怖がじわじわと全身を覆い尽くしていく。
だが、この絶望的な状況の中、私が頼れるものは何一つない。
「……やるしかないか」
私の中で、思考が現実を飲み込んでいく。
私は軽く深呼吸をし、心を静めた。鼓動が落ち着くのを待ちながら、自分に言い聞かせる。
「もう後戻りはできない。」
覚悟を決め、呪文の最初の一節を口にした。
その瞬間、地下室の空気が冷たく変わっていくのを感じた。ろうそくの炎が不気味に揺れ、壁に映る影が歪んで踊り出す。
声を震わせながら呪文を続けると、頭の中にざわざわとした声が響き始めた。正体のわからないその声は、囁きのようであり、叫びのようでもある。何かがこちらを伺っている――そんな気配が背後に広がる。
さらに呪文を唱え続けるうち、突如として体に温かなぬくもりが押し寄せた。同時に、頭の中には数え切れない声が流れ込み、まるで私に何かを語りかけているかのようだった。だが、その言葉の意味は曖昧で、ただひたすら混沌とした感覚だけが私を包み込む。
温かさと冷たさが同時に押し寄せる奇妙な感覚。ろうそくの炎はさらに激しく揺れ、まるで何かがこちらに迫ってきているように思えた。
しかし、ここで止めるわけにはいかない。それが唯一、私に残された選択だ。震える声を必死に抑えながら、私は呪文を最後まで紡いだ。
その瞬間、ろうそくの火が一斉に消えた。辺りを覆っていた揺らめく光が消え去り、地下室が闇に包まれた。
目が慣れる間もなく、視界の中心に異様な光景が現れた。
闇よりも暗い霧が魔法陣の中心から立ち上る。闇よりも暗い存在。闇を飲み込むような深淵のようだった。その中で、ぼんやりと浮かび上がる赤い光に目を奪われる。それが瞳であることに気づいた瞬間、全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
祖父がよく話していた冗談じみた悪魔の話。それは、ただの作り話ではなかった。目の前のこの光景が、それを証明している。
「……望みを言え」
地下室全体に響き渡る低く重い声。その音が空気を振るわせ、私の胸を圧迫する。目の前の黒い霧の中には、赤い炎のように光る瞳が浮かび上がり、私を見据えていた。その存在感は圧倒的だったが、なぜかその闇には奇妙な懐かしさすら感じた。
――悪魔はこうやって人を安心させて騙すのだろう。
湧き上がる恐怖を押し殺しながら、ほんの少しの期待を胸に、震える声で言葉を紡いだ。
「侵略者から……地球を守ってほしい。」
自分の言葉が闇に吸い込まれていく。
漆黒の霧は短い沈黙の後、赤い瞳が微かに揺れ、不気味な笑みを浮かべるような雰囲気を漂わせた。まるでこの状況を楽しんでいるかのようだ。
「ほう……なかなか面白い望みだ。」
その声は低く、地下室全体に響き渡った。黒い霧が揺れ動き、部屋の温度がさらに下がる。肌を刺す冷気が恐怖を一層際立たせた。
「契約が必要だ。」黒い霧は、じっくりと私を見据えた。「私の力を使う代わりに、お前の魂をいただく。それが私の条件だ。」
「魂を……」その言葉が耳に届いた瞬間、私は息を飲んだ。言葉が現実となったその重みは、想像を遥かに超えて私を圧倒した。
「魂……命を捧げろというのですか?」
「そうだ。」
私の悪魔とエイリアン 苔葉 @kokeha
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