第4話 《音の成るほうへ》

先生が書いてくれた曲。大切にしたい。

僕は耳コピでギターを弾いていると先生が楽譜をくれた。

そこからは先生とマンツーマンの練習が始まった。

大学の講義が終わったらすぐに家に帰り、楽器に触れる。

そんな日々を過ごしていた。

「よし、ギターはいいな」

先生のおかげで、ギターも上達した。

「次はピアノだ」

「ピアノですか!?」

先生は楽譜を僕の前においた。

「ここにピアノとフルート、ヴァイオリン、トランペットがある。そもそもお前がしたいといったんだろう」

確かに、普通の音楽は先生が作ったソフトみたいなので音を入力をしたらすぐにできるが僕が生の音にしたいと言ったから先生は楽譜まで作ってくれた。

でもここまでするのか。

僕はあの音を思いだした。

「そしたら、電子音みたいなのも必要ですよね」

「そう。だから電子音とトランペットは私がする」

それだったら、僕はヴァイオリンとフルートをするのか。

頑張ろう。想さんの音を僕が世界に届けるんだ。

そこからはハードスケジュールだった。

大学でもずっとピアノの鍵盤を叩くイメージを持っていた。

フルートもそのイメージを持ち続けた。

「作真、お前最近忙しそうだな」

大学の友だちの悠真がと千歳が声をかけてきた。

「ああ、最近曲を作ったんだ」

「作真がギターも微妙だった、作真が!?」

「それ、失礼だからな。千歳」

僕はピアノのイメージを持ちながら、二人と喋った。

「僕は作っていない。作ってくれた、人がいるんだ」

僕はスマホを出して想さんのチャネルを見せた。

「まじかよ、この人かよ」

悠真はびっくりしていた。

「デモとかないの?」

「あるけど、家」

「んじゃ、今日お前んち行くわ」

千歳は決めたように言った。

「ちょ、それは先生に聞いてみないと」

僕は先生に連絡を取った。

「いいぞ」

この一言だけだった。

てことで、大学終わり三人で家に向かった。

家に近づくとピアノの音が聞こえる。

先生が弾いている。音で分かる。

「先生、今帰りました」

「遅いぞ、作真」

先生はピアノを弾いていた。

「紹介します、友達の悠真と千歳です」

二人は頭を下げた。

「奏。よろしく。ところで何か楽器弾けるか?」

「俺は鍵盤系全部いけます。千歳はフルートとヴァイオリンができます」

先生はピアノから離れ、悠真に近づいた。

「二人とも楽譜を渡すからちょっと弾いてみてくれないか」

先生は、悠真にピアノ、千歳にヴァイオリン、僕にギターの楽譜を渡した。

そこからは大変だった。

2人ともこの曲が気に入ったらしく、三人で何回も合わせた。

先生が所々アドバイスを入れて、三人で音を奏でていた。

「遅くまで付き合わせてすいません、先生」

先生は、麦茶を飲んで一呼吸おいた。

「これからはあの二人と一緒に演奏しな」

「なんでですか!?僕は先生と」

先生は僕の手を取った。

「音を伝えるのはお前の役目だ。音楽はいつでも作ってやる」

僕はそっと胸をおろした。


そこからは三人で収録して先生が編曲したりして、やっと先生と僕達の音が世界に伝えられる日が来た。

「すいません。今日に限って出席しないと行けない講義がありまして」

「ああ、別にいいさ。17時までに帰ってきな」

先生はそう言って僕を送り出してくれた。

正直今日の講義は頭に入らなかった。

それは二人も同じのようだ。

講義が終わると三人で家に向かった。

「先生、帰りました!」

無音だった。

心が締め付けられるほどの静寂だった。

「作真、動画」

悠真がスマホの画面を見せてきた。

動画が上がっていた。

僕達の先生の音楽が世界に広がった。

「先生、どこですか?」

動画は正直どうでも良かった。先生と一番に喜びを分かち合いたかった。

先生の部屋に入ると、USBと手紙が置いてあった。

『作真、一緒に居れなくてごめん。

でもお前なら、いや、今はお前たちだな。お前たちなら私よりも綺麗で響くような音が音楽が奏でられる。安心しろ、私が保証する。

このUSBに何曲か曲を入れておいた。安心しろ楽譜もだ。これでしばらくは大丈夫だと思う。これからは、作真お前が書け。私の音を伝えたいことが分かったお前ならきっとかける。これからも応援している。

そうだ、あの曲のタイトル決めていなかったな。勝手だが作曲者の権利で決めた。

《音の成るほうへ》

じゃあな、作真』

息の仕方を忘れた。

先生がいない。先生の音がもう聞けない。あのピアノの音もトランペットもギターもヴァイオリンもどうしたらいいんだよ。

「奏さん」

一度も呼べなかった、先生の名前。

もう一度会いたい。先生。

奏さん、あなたに伝えたい音楽がまだあります。


そこから2年たった。

先生の書いた曲が爆発的人気が出て僕達はメディア露出が増えた。

僕は必死に曲を書いた。先生の思いを紡ぐように。

そして、とあるオフの日にコンビニに向かった。

街なかの大画面から僕の歌が聞こえた。

そういや、この前ドラマ主題歌書いたっけ。

コンビニの中に入っても僕達の音楽が聞こえた。

この曲は《音の成るほうへ》だ。

僕はこの曲が一番好きだ。

先生って感じがするから。

先生今何をしているのかな。

まだ、音楽しているのかな。

コンビニを出た。

信号を待っていると向かい側の歩道にヘットホンをした少女がいた。

あのヘットホン。

信号が青に変わると同時に走り出した。

身バレ防止のためにつけていた、サングラスが落ちた。

何も気にしなかった。周りがざわつき出した。

先生!

声が出ない。違う。足りないのだ。

「奏さん!!」

聞こえてない、もっともっと声を出せ。

「待ってください」

あの時と同じくらいの声量で叫んだ。

少女は振り向いた。

あの時より少し髪が伸びており、大人っぽくなっていた。

「先生、いや。奏さん」

僕は頭を下げた。

「僕に音楽を教えてください」

ずっと頭を下げていた。

周りがざわついていた。どうだっていい。

「いい加減、頭を上げろ」

恐る恐る、顔を上げると奏さんは泣いていた。

「先生」

「作真、ずっとみてたよ。成長したな」

「いいえ、先生の。奏さんのおかげです」

僕はハンカチで涙を拭った。

先生はそのまま僕を指さした。

「また、曲作ってやるよ。作真」

「ありがとうございます、先生」

どこかで音楽が聞こえた。

この曲は《音の成るほうへ》だ。

「花が散ったらすべてなくなるがそれが始まりと言える」

このフレーズが聞こえた。

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《音の成るほうへ》 nanaco @__miya__

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