第3話 向き合う
「先生はこちらの部屋を使ってください」
作真に案内された部屋は日当たりの良い部屋だった。
「一応ピアノはこの部屋にありますけど、他の楽器がほしければいつでも言ってください」
私は椅子に座り、窓の外を眺めた。
「いや、何も用意しなくていい」
私はかばんからPCをだした。
「もしかして、」
「そうだ、これで全部作る」
作真を部屋の外に出した。
「とりあえず、簡単にメロを作る。終わったら一回聞かせるからそれまでは絶対に開けるな」
「それじゃ、食事はドアの前に置いときますね」
作真はそう言って部屋を出ていった。
部屋を見渡した。
何も縛るものはない。
好きな曲を作る、届けたい音楽を作る。
あいつだったら、きっと伝えてくれる。
PCの電源を入れて、専用のソフトを開いた。
「久しぶり」
ヘットホンを片耳にあて、左手にペンを持った。
この音に集中しろ。
「よう、できたぞ」
「本当ですか!?」
作真は大学のレポートしていたのだろう。
リビングでパソコンとにらめっこしていた。
「遅くなった。調子でて、全部かけた」
作真は立ち上がった。
「一週間ですよ。めっちゃ早くないですか」
正直、体力が限界だ。
飯はちゃんと食べたけど、流石にだ。
「歌詞まで。本当に1人でしたんですか」
作真は歌詞を読んでいた。
「右脳に潜んだ闇は忘れない。左脳に出さないようにいつも気を張る。」
「ヒモゲイトウを見るために生きる。」
「花が散ったら全てなくなるがそれが始まりと言える」
「歩き疲れたら立ち止まって、周りを見よう。みんな一緒」
作真は気になったとこだけ読み上げたのだろう。
「先生、この詩めっちゃ好きです」
「それは良かった。それじゃ、肝心の音を聞いてみてくれよ」
作真にイヤホンを渡した。
真剣に歌詞を見て、一度。音だけを聴くように一度。歌詞をもう一度見て聞いてイヤホンを外した。
「どうだった」
「歌詞だけ見たときは、みんな辛いよね。分かるよ、でも一緒に生きようよって感じました」
そうだ、歌詞だけ見たり、初見だとそう思うだろう。
でも、作真の顔を見ると歌詞と音の意味が汲み取れた表情をしている。
「音を聞いたあとに歌詞を見るとこの曲は、生きるのが辛い。それでも生きないとって感じですかね」
よく分かっている。やっぱすごいよ
「最後はどう思った。」
「最後だけ転調して少し明るくなっていましたよね。そこでみんな一緒って言っていて、やっぱ先生は音と向き合ったんだなって、最後にちゃんと寄り添ってくれた感じがします」
そうだ。この曲は私の覚悟の曲だ。この曲は確かに音と向き合った。
作っている最中に昔のことを思い出すこともたくさんあった。
でも、作真がずっと自分の曲を弾いている音が聞こえた。
作り続けたら誰かに届く、届くんだ。
それを知ったら、もう書くしかない。
作真は早速耳コピでギターを弾いている。
その様子を見ながらホッとした。
この曲は最初にいった通り、作真のために書いた。
もう、大丈夫だな
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