第2話 気持ち
昔に動画アップロードサイトに弾き語りの動画をあげた。
その時は自分が一番うまいだろうと思いあげた。
反応はいまいちだった。
でも、コメントが一つついた。
どんなコメントかと見てみたら、辛口のコメントだった。
音が粗い。この曲はピアノが似合う。
こんな感じのコメントだった。
イラッとしてそのコメント主の動画も見てみた。
ちょっとでも悪かったら同じようなコメント書いてやる。
そのコメント主は「想」という名で活動していた。
「音楽作っているのかよ」
一番最新の真っ黒なサムネのどうがを開いた。
最初から最後まで黒の画面だった。
でも、曲は苦しかった。胸が鷲掴みされた気分だ。
こんなすごい曲をかけるのかよ。
「めっちゃいい曲。弾きたい、この人の音を届けたい」
僕はこの人の曲を古い順から聞き始めた。
最初はポップな感じからロックもあった。
ただ、どんどん最近になって行くと暗くなっていった。
ああ、苦しい。全部曲を聞くとその感情しか出てこなくなった。
この想さんはきっと最初は楽しかったんだ。でも、何かがきっかけで音楽を作るのが苦しくなったのだろう。
ギターを持ってきた。
とりあえず、耳コピであの曲を弾いてみた。
「違う、もっと暗闇を意識して」
「想さんはこんな音を出さない」
「もがかないと、もっともっと」
その日は寝ることを忘れ、ずっと弾き続けた。
それから、路上で弾いてみた。誰も見てくれなかった。
まずは見てもらわないと。
そこからは流行りの曲を弾き始めた。
少しは立ち止まって聞いてくれる人が増えたが少し聞いたら立ち去っていった。
ある日、路上ライブが終わった時に1人だけ最後まで聞いてくれた。
ヘットホンが特徴的、小柄な女の子だった。
その子に一礼して、片付けをし始めた。
「テンポが遅い」
その子は真顔で僕に言ってきた。
最初はとてもびっくりしたが、だんだん怒りが湧いてきた。
音楽を知らない少女が何を言っているのか
「この曲はギターよりもピアノが合う。可能だったらシンセだ。あとは、下を見すぎだ。前を見ろ、堂々としてろ。おどおどしていると聞いている方はイライラしてたまらない。最後に、この曲は今のお前には難しすぎる他の曲を選べ」
少女はヘットホンを耳にあてその場を去った。
あの感じ、あのコメント。想さんだ。
直感だ。あっている保証はない。でも、でも
急いで片付けを終わらせ、少女の背中を追った。
「想さん!!」
聞こえてない。もっともっと大きな声で
「待ってください」
人生で一番大きな声を出した。
少女はヘットホンを取ってこっちを見てくくれた。
僕は頭を下げた。
「僕に音楽を教えてください」
「無理」
「そこをなんとか」
教えてもらいたい、この人に僕に音楽の素晴らしさを教えてくれた人に。
そして、あなたの音楽は届いていたと。言いたい、伝えたい。
「分かった。いい加減頭を上げろ」
「ありがとうございます。先生」
手をとっさに握ってしまった。
先生、そうこの人は僕の師だ。
想さんは僕に音楽の素晴らしさを教えてくれた、先生だ。
先生に音楽を聞いてくれと言ったら、泊めることを条件でいいと言ってくれた。
先生に飲みものを出して、自己紹介をした。
「弓小屋奏。奏でるって字だ。高校2年。楽器はある程度弾ける」
とてもいい名前だ。この人は音楽を届けるために生まれてきたんだろう。
「なんで笑っている」
「いや、僕より年下なのにすごいなって。それに素敵な名前ですね」
先生は少し、耳を赤くした。
あまり、褒められ慣れてないのかな。
「そうか。そろそろお前の音を聞かせろ」
僕はギターを持って来て、椅子に座った。
先生の前であの曲を弾きたい。でも、まだ完璧じゃない。
「さっきの曲ではありませんけど、いいですか?」
先生は頷いた。
一呼吸おいて、先生をみて弾き始めた。
想さん、あなたの音楽、音僕には届きましたよ。
「どうでした?」
先生は僕を見つめていた。
ずっと、噛みしめるように。
「お前はこの曲をどう感じた」
「え、多分この人は辛いだろうなって。僕この人の曲が好きで追っかけていたんです。最初は音楽を作るのが楽しって感じでこっちまで楽しくなって、でもこの曲は作るのが苦しくなって暗闇の中で必死にもがいて光を見つけようとしている感じで、僕はその苦しさを表現したいんですがどうしても難しくて」
やばい、言い過ぎた。
感じたこと口に出し過ぎた。
先生の顔を見てみると
「先生!?え、なんで泣いているんですか」
泣いていた。静かに涙を流していた。
「ごめん、でもありがとう。思いを汲み取ってくれて」
僕はハンカチで先生の涙を拭き取った。
「やっぱり、この曲を作ったのは先生だったんですね。先生の音、僕は世界で一番好きです」
呟いた。先生に聞こえたかもしれない。
それでもいい。伝えたかった、この思い。
先生は手の甲で涙を拭って、自分のことを話してくれた。
音楽が嫌い。音を聞くと楽譜が頭に浮かぶ。
とても苦しいだろう。僕は感じたことがないからどれくらい、辛いかわからない。でも、あの曲を書くほど辛かったんだろう。
先生が僕を指さした。
「作真、お前に曲を書く。お前だけの。私の思いを汲み取れた、お前に」
嬉しかった。先生に想さんに曲を書いてもらえる。
「今でしたら先生の気持ち全部分かる気がします」
ギターを力強く握りしめた。
絶対に全部理解して、僕の音で先生の音楽を届ける
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