第2話 デスゲーム
『おめでとうございま~す! あなたたち2-1は、この王たるわたくしの主催するダンジョン型デスゲーム〈ディスクライド〉の参加者に選ばれました~!』
やけに明るい中性的な声が教室内に響き渡る。
ディスクライド……?
初めて聞く単語に思わず思考が停止する。
そもそもダンジョン型デスゲームとは何か。
ダンジョンなんてものはゲームとかラノベの中のもので、現実にはありはしない。
さてはテレビのどっきり企画か。
一瞬そう思ったものの、俺はふと思い出して窓の外に目を向けた。
そこには相も変わらず巨大な塔が遠目に聳えている。
もしかしてあの、先ほど突如として窓の外に見えるようになった巨大な塔がダンジョンなのか。
俺がそう思考を巡らせている間、クラスメイト達は阿鼻叫喚の図となっていた。
「なんなのよ、ディスクライドって!」
「ふざけんなよ! ここから出せ!」
そんな喚きたてるクラスメイト達にスピーカーから聞こえる声はどこか小馬鹿にするような声で言った。
『叫べば、大声を出せば、何でも自分の要求が押し通せると思ってるなんて、乳幼児じゃあるまいし、君たちはそんな馬鹿じゃないよね?』
クラスメイト達はその台詞に虚を突かれたのか、一瞬押し黙ってしまった。
その隙を逃さずスピーカーの声は会話の流れを自分のペースに戻す。
『さて……気を取り直して〈ディスクライド〉のルールを説明しようか。といっても勝利条件……解放条件とも言い換えられるけど、ともかく君たちが助かる方法は二つある。一つはダンジョンを百層までクリアすること。もう一つは黒幕が死ぬこと。この二つだ』
サラリと重要なことを言われた気がする。
しかしクラスメイトたちは気が動転していて上手く話を飲み込めていないようだ。
その中でも際立って冷静なクラスメイトが一人いた。
四宮雪葉だ。
彼女はクラス中があれほどパニックになっていたにも関わらず、一人席に座って黙々と本を読んでいたが、スピーカーの声がそう言い終わると同時にパタンと本を閉じ、こう尋ねた。
「聞こえているのか分からないけど……一つ質問良いかしら?」
その四宮の問いかけにスピーカーの声はどこか嬉しそうに答えた。
『もちろん聞こえてるよ! このデスゲームに関する質問ならいくらでも受け付けるよ!』
「じゃあまず……ダンジョンを百層までクリアと言うけど、何を以てしてクリアになるのかしら?」
『おっ! いい質問だね! クリアの判定は簡単さ! 五層ごとにボスと呼ばれるエリートモンスターが待ち構えていて、そのボスを討伐できれば、次の五層への切符を手に入れることが出来る。そしてもちろん百層にもボスは待ち構えていて、そのボスを討伐できれば、クリアとなる』
「……なるほど。エリートモンスターが待ち構えていると言うけど、そんなものと戦う術は私たちにないわ。そこら辺はどうなっているの? 一方的な惨殺だとデスゲームにならないでしょう?」
『そうだね! そこら辺ももちろん考えてあるよ! 君たちには、レベル、スキルと呼ばれる特殊能力を授け、それで戦って貰う。それとは別に、君たち一人一人に特殊な役割を与え、ユニークスキルも与えるから、それは後でのお楽しみってヤツだね!』
それを聞いて、四宮は足を組み直し、思案顔になる。
しばらく彼女は黙って考え事をし、俺たちクラスメイトは一言も発することが出来ずに、異様な空気が教室内を支配した。
しかし四宮は考え事が終わったのか、もう一度足の組み替えを行うと、スピーカーの声に尋ねた。
「一つ目の条件に関しては分かったわ。で、もう一つの条件なんだけど、黒幕が死ぬこと、って言ってたわよね?」
『うん、言ったね』
「ってことは、このクラスメイトの中に黒幕がいるってこと?」
『そうなるね』
「じゃあそれを見つけて殺せば良いってこと?」
四宮のその問いに、スピーカーの声は不意を突かれたように一瞬の間を置き、その後ケタケタと笑い出した。
『君、面白いことを言うね! 血も涙もないのかな!?』
「血も涙もないのはこんな状況を作り上げた貴方なのでは?」
『それは間違いないね! ――で、君の質問の答えなんだけど、単純に殺すだけでは駄目だ』
「……じゃあ、黒幕を断罪するシステムがあるってことね?」
『察しが良いね! そう。このダンジョン型デスゲームの最大の特徴は二つある!』
そう話すスピーカーの声はテンションが高めで、とても楽しそうだ。
まるで自慢のオモチャを見せびらかす子供のような。
彼(彼女かもしれないが)は、心底楽しそうにルールの説明を続けた。
『一つは円卓議会というルールだ! これは月に一度、君たちを円卓議会場に召喚し、一時間の話し合いの場を設ける。そこで自分以外のクラスメイトで黒幕だと思う人に投票をするんだ。その中で最も投票数が多かった人が、処刑されることとなる』
――ゾッ、と悪寒が走るのを感じた。
処刑。
サラリと、なんてことないように言われたその言葉に、ヒドい真実味を感じてしまったからだ。
辺りを見渡してみると、小馬鹿にしたような表情をするクラスメイトの中で、俺は一人恐怖を感じていた。
でも、クラスメイトたちの反応が当然だと、俺は思う。
こんな唐突な場面で、いきなり処刑と言われて、真っ先にそれを信じるのも変な気がする。
普通に考えたら、ハッタリか冗談か、冗談だとすれば本当に質の悪いものだと思うけど、そう考えるのが自然なはずだ。
なのに、俺はその言葉に真実味を感じざるを得なかった。
『そしてもう一つは人気投票というルールだ! これは、君たちのダンジョン攻略の様子を世間に公表して、全世界の人間たちに人気投票をして貰うんだ。彼らには一人二票与えられ、プラス票とマイナス表になっている。その中で一番得点の低い人が処刑される、という仕組みだ』
その言葉を聞いた四宮はすぐに再び質問を投げかけた。
「それは投票して貰って成り立つものじゃない? そもそも認知される必要があるし、認知されたとしても、その処刑というのが本当なら、自分たちの投票で私たちの誰かが死ぬことになる。トロッコ問題と一緒で、人は自分の意思や行動が他人の死に関わりたくないという思いがあるはず。誰も投票しないのでは?」
『それに関しては問題ないよ! ちゃんと事前に全ての動画配信サービスで広告を出すように仕組んでるし、もし誰も投票せず、一票も入らなかったら皆等しくビリとなり、みんな処刑されて終了、ってことになるだけだからね。まあ、最初は誰も処刑なんて信じないだろうし、人類は八十億人近くもいるんだしさ、ちょっとくらいは票が入るんじゃないかな?』
そこまで言ってスピーカーの声の主は質疑応答に飽きてきたのか、投げやりな感じでこう続けた。
『というわけで、そろそろ質疑応答も長くなってきたし、早速君たちをダンジョンに案内しま~す!』
その言葉を言うや否や、俺の視界は一瞬でホワイトアウトした。
慌てふためく間もなく、徐々に視界が戻り始めて、視界が完全に戻ったことには俺たちはだだっ広い草原の中にいた。
周囲を見渡してみると、見慣れたクラスメイトたちの顔ぶれがあった。
しかしその姿は見慣れた制服姿ではなく、どことなくファンタジーに出てくる村人を思わせるような装いになっていた。
そしてすぐに先ほど聞こえてきたスピーカーの声が草原に響き渡る。
『ようこそ、〈ディスクライド〉の世界へ! 僕からの説明はもう終わりだよ! 精々頑張って生き延びてね~』
スピーカーの声はそれだけ言って、その後、何も聞こえなくなった。
何かもっと説明はないのか、というか、ドッキリでしたという種明かしはないのか。
そういつまで待っても再び声が響くことはない。
固まってしまった俺たちだったが、真っ先に口を開いたのは新城怜だった。
彼は普段通りのリーダーシップを発揮して、クラスメイトたちを引っ張っていくつもりらしい。
パンッと手を叩いて視線を集めると、みんなを励ますように明るい声で話し始めた。
「とりあえず、こうして固まっていても仕方がない。どうにかしてここから出られるように手がかりを探さないか?」
その言葉と同時に、突如俺たちのポケットから一斉に通知音のようなものが鳴り響くのだった。
最弱スキルでダンジョン攻略 @92747
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