『帰宅調査』
常闇の霊夜
帰路
『
「クソッあの時あそこで相手の会社が倒産しなければ……。いや、過ぎた話か……」
そんな時、彼は一枚のチラシを発見する。そこにはアルバイトの情報が載っていた。なんでも帰宅調査をするだけで20万もの大金が貰えるとの事である。あまりに胡散臭いチラシだが、それに飛びついてしまうほど今は金が欲しかった。
「20万あればなんとか今月分の借金は返せるな……」
と、言う訳でチラシに乗っていた住所までやってきた彼だが、そこはビックリするくらいボロボロのビルであった。本当に人がこの中にいるのか?と言いたくなるほどで、中に入ると壊れて落ちてきたらしい破片がそこかしこにあった。
「……」
もう引き返したくなってきたが、家族の為に引くわけにはいかない。恐る恐る中へ入っていくと、最上階にそのバイトを募集したであろう男が立っていた。その周りには、このバイトに参加した他の人間も集まっていた。彼を含めて合計六人である。
「これで最後だね。初めまして。私は『
そいつは中肉中背のどこにでもいそうな雰囲気の男だったが、なぜか目の中に縦線が入っていた。男は周りにいるバイト達に今回調査してほしいという少女の写真を渡すと、依頼内容を説明していく。
「今回のバイトは『
「ルール?」
「まず第一に、彼女のことを見失わないでください。そして第二に彼女に調査している事を認識されないでください」
「……それを破ったらどうなるんですか?」
「私の口からはとても言えないようなことが起きます。……あぁ心配なさらず、あなた方が仮に死亡したとしても、我々は一切の責任を負いませんので」
とてつもなくロクでもないことがシレっと言われたが、ここまで来たのならやるしかない。そう意気込んでいると沈から前金として20万を手渡される。現ナマである。
「こちらは前金です。帰宅調査が終わりましたら、こちらで50万を報酬として渡しますので」
とりあえず金を受け取ってしまった一行は、何はともあれその少女が無事に帰宅するだけでいいのだと無理やり安心させてビルの前に待機されていた車に入る。
20分以上?30分以下?の時間、車に揺られていると運転手からその少女が返っていく道に案内される。特に特筆すべき点もない、商店街といった感じの場所だった。
「彼女のことを見失わないでくださいね。絶対ですよ」
そう念を押され、カイと言う少女らしき人物が見えたところで六人はそれぞれ尾行を始める。直線状に進んでいく少女の後ろを追いかけていくが、ここで一人が前金だけで十分だと逃げようとする。
「へっ、20万あればしばらく遊んで暮らせるぜ!こんなふざけたバイトに参加してらn」
と。一瞬のことだった。
「……は?」
彼の頭部が突如として爆散した。
「えっちょっとコレ……」
そのまま地面に倒れると地面へと肉体が還っていった。
だというのに、商店街にいる誰も反応を示さない。まるでそれが当然の事のように、見向きすらしない。ここでいよいよ彼らは自分たちがどれだけヤバい案件に首を突っ込んでしまったのか察してしまった。
「い、いや……あ゛ッ゛」
そして物陰に隠れていたが、その凄惨な現場を目撃して立ち上がった女はカイに見つかってしまった。
「ひ、ひぃっ!?」
何を見たのだろうか。女の表情は苦悶に満ちた表情へと変化し、そしてそのまま土へと還っていった。残された四人はミスればどうなってしまうのか、ここで大体を察した。
「……まだ見てる?」
「見られてたら死ぬのに見れるわけないだろ!?」
意を決し雅は顔を上げる。少女はトコトコと商店街を歩いていた。こちらに気が付いたそぶりも見せない。とにかく彼らの目的は金を貰うことから死なないことになってしまった。
「第一見られるってどういう条件なんだ?!仮にあいつが鏡からこっちを見てたら見られたって判定になるのか!?」
「とりあえずこっちの声は聞こえないっぽいよね。……もし聞こえてるなら初手で全滅だ」
しばらく追っていると、なんと少女が商店街を出て道を曲がろうとしているのが見えた。見失うと言う判定がどういうものなのかはわからないが、少なくとも最初のアレから察するに距離が離れたらアウトなのだろう。急いで後を追う四人。
「おいっ振り返るぞ!」
雅がそう叫ぶがもう遅い。一番後ろの男が隠れるのが間に合わなかったのか、それとも距離が離れていたのか。確認した瞬間には土へと還っていた。
「……」
道を曲がるカイ。追う三名。だがその先でこれからの追跡が地獄であることを悟った三名。そこには住宅街があった。
「……今あいつ、どこに曲がった?」
既に三人ともカイの姿を見失っていたのだ。このままでは全員死んでしまう。彼らは間違いなくこの道を曲がったのだから、この三つの道の先どこかにいるはずだと、三手に分かれてカイを探した。
いたのは雅が向かった右側の道であった。
「……」
おそらくもう二人は助かっていないだろう。とりあえずカイを隠れながら追い続けると、住宅街のある一軒家の前で立ち止まる。そして何かを確認するように表札を見ると、そのまま中へと入っていった。
「……これでいいのか?」
そう思っている雅のスマホに、非通知の電話が掛けられる。出てみると沈の声がした。
『お疲れ様です。報酬金の方はこちらで振り込んでおきますので、もう帰っていただいて結構です』
「……本当に大丈夫なんですよね?」
『もちろん。家へと帰っていただいて結構です』
「で、では帰らせていただきます……」
◇
こうして帰路に就いた雅だったが、足取りは重い。名前も知らないとはいえバイト仲間。それがゴミのように殺され土へと還って行ったのだから。とはいえ、他人は他人。早々に切り替えると家族が待っている家に帰っていく。
「……そういえば、あの家って誰の家だったんだ?」
帰り道を歩きながら、雅は疑問を口にする。最後にカイが入っていったあの家。アレは何なのだろうか。おそらくアレが彼女の家と言う訳ではないだろう。もしそうならば、わざわざ表札を確認する理由はない。
「……まぁ死神みたいなものだろう。多分」
だが、それ以上踏み込めば何が起きるのかわからない以上、この件は忘れてしまうことにした。そして遂に家族の待っている家に帰ってきた。住宅街にある一軒家に。
「ただいmmmmmmmmmmmmm」
家族みんなで還っていった。
◇
「ゲッ沈のオッサンじゃねぇか……。俺今月はクッソ運が良かったからバイトやらねーからなコラ」
「お構いなく。……あぁ少し失礼」
一か月後、沈はよくバイトに来る少年とバッタリ道で出会っていた。
しばらくバイトに関して話していると、彼の電話が鳴り響く。
「……で、カイはどうなりました?」
「成功者がいたっぽいですねぇ。今はアレで遊んでますよ」
「……そうですか。今後50年はこれで安泰ですね」
そういって電話を切る。
「おいオッサン。誰だよ今の?」
「私の部下からの電話です。あぁご心配なく、向こう50年この土地は安全になりました」
「……神案件?」
「神案件です」
少年はウゲーと言う苦虫を噛み潰したような表情をしながらも、犠牲になった人物に関しては興味がない様子であった。
「ま、俺らが安全ならいいけどさ」
そんなことがあった後、雅の家では雅らの家族が食卓を囲んでいた。
四人家族で楽しそうにしている。
「狂も死亊に逝って繰るね」
「逝ってらっしゃいお倒産。渡も學鶊に逝って繰るね」
「弐里とも逝ってらっしゃい」
「パパ行ってらっしゃい」
そして家を出た瞬間、それらは土へと還り。
「ただいま」
人の形を取り戻して家へと帰ってきたのであった。
『帰宅調査』 常闇の霊夜 @kakinatireiya
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