第6話 日向家、襲来。
諸々を片付け、ホッと一息ついていたところへ、ノックの音が響く。
そろそろ、日向さんが戻ってきたのだろうか。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアが開き、日向さんを先頭に、その後ろから二人が部屋へ入ってくる。
ベッドの斜め前で立ち止まると、彼女の横に二人が立ち並ぶ。
「この度は、娘の命を救ってくださり、本当にありがとうございました」
「なんとお礼を申したら良いのか・・・」
深々と頭を下げ、礼の言葉を口に出す二人。
彼女の両親だろう。
年の頃はパット見、どちらも40代といった所。
父親はグレーのスーツを着用しており、上流階級とまではいかないものの、品の良い雰囲気。
母親の方は紺色のパンツスーツスタイル。
二人揃って、決して嫌味ったらしくない上品さを纏っていた。
こちらもしっかりと対応しなければなるまい。
「頭を上げてください。とにかく、娘さんが無事でよかったです。私の方も、軽症で済みましたから」
「重ね重ねになりますが、心から、感謝いたします」
少しだけ頭を上げ、また深く下げる。
それからしばらく話し合いが続いた後。日向家側からの申し出もあり、裁判に関係する複雑な事務手続き等を引き受けて貰えることになった。入院費用等全てこちらが支払うと言ってくれたが、それは固辞し、代わりにといった形で提案すると快く受け入れてくれた。
どうしても俺本人が必要な場合以外は日向家にお任せできると言うわけだ。やったぜ。
「それでは、私と妻は先に失礼いたします。
「うん、大丈夫。わかってるから」
日向さんの両親が部屋を出て、残されたのは俺と彼女の二人。
なんで一緒に連れて帰ってくれないのん? 恩人フィルターかかってるからかは知らんが大事な娘をこんなアラサーのおっさんと二人にするの怖くないのかな。
「すみません、両親がどうしてもお礼だけはって聞かなくて・・・」
「気にしないでいいよ。 良い親御さんだね」
「はい! お父さんはちょっとガミガミ言ってくるけど、ふたりとも優しくて、どっちも大好きなんです!」
思春期ど真ん中だろうに、自分の親を好きって真っ直ぐ言えるなんて、よっぽど育ちが良いんだろう。
この子がいい子であればあるほどこっちは罪悪感に苛まれるからちょっと勘弁してほしい所ではあるが。
あぁそうだ、帰らなかった理由を聞いておこう。
「それで、日向さんだけが残ったのはどうして? 何か他に用事でもあった?」
「いえ、あの、その、連絡先・・・」
「え?」
「鈴木さんの、連絡先を教えて欲しくて・・・。お見舞いの時間とか、いきなり来ると迷惑かなって思って・・・。駄目、ですか?」
駄目です。
なんて言えるか! そんな目で見ないでくれ!
ここまで来て尚みっともなく逃げ回ろうとしてる俺が情けなく見えちゃうでしょ! 実際みっともないし情けないんだが。
そもそも彼女の両親と連絡先を交換してる時点で、もう逃げ道は塞がれているようなもんだし。
学習しねえな俺は、観念しよう。
「ああ、構わないよ。」
「ありがとうございます!」
スマホを差し出し、二次元バーコードを読み取ってもらう。
JKにアラサーのおっさんがトークアプリの連絡先教えるってこれもう犯罪だろ・・・。何かしらの罪に問えそうだなぁ・・・。
彼女に視線を向けると、何やら少し真剣な表情でスマホと向かい合いたぷたぷと操作していた。
と、すぐにピロン、と俺のスマホから通知音がなる。
視線を落とすとそこには『茜』からのメッセージ。
『よろしくお願いします!』
といったメッセージに、可愛らしいクマのキャラクターがお辞儀をしているスタンプ。
顔を上げ彼女を見やると、どこか照れくさそうに、上目遣いでこちらを見ていた。
目と目があった瞬間、彼女の頬に一気に朱が差し、俯いてしまう。
あ・・・あざとい・・・。あざとすぎる・・・。アザトース・・・。
狙ってやってるんだとしたら小悪魔にも程がある。
天然でこんな事やってるとしたらそれはもう初恋キラーだろう。
彼女に惚れた人間の数は両手の指を使っても数え切れるものではないだろう。
ただでさえ整った容姿だ。
綺麗に染められた明るい茶髪のミディアムヘア。
小さく、丸めの輪郭に綺麗にパーツが収まっている。
大きく、くりっとした愛らしい瞳。少し垂れ目がちなのも、見る者に優しそうな印象を与えている。
すっと通った鼻筋に、ぷるんとした艷やかな唇。
平均よりは多少低めであろう身長に似合わない凶悪な武器。
出るところはしっかり出ていて、引っ込むところはしっかり引っ込んでいる。
本当に今更だが、控えめに言って無茶苦茶美少女だ。
だからこそ、この子が三次元だというのが悔やまれる。
三次は惨事。いいね?
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