第3話 もう一人のJK
「救急隊の人が家族に連絡を取るためにって、お財布から身分証を取り出した時、私も聞いてました」
やっべ・・・。
極力接点を作らないようにって咄嗟に偽名使ったのは不味かったか・・・。というか山田太郎は流石に安直すぎたか。すまねぇ全国の山田太郎さん・・・馬鹿にしてるわけじゃないんだ!信じてくれ!
とにかく、弁解しておこう。
「ごめんね、俺なりのジョークというか、まぁその、気にしないで。えっと・・・日向さん、で良かったよね?」
「はい・・・」
得心が行ってないのか少し訝しげな表情でこちらをみる日向さん。(嘘を吐いた理由までは流石にバレはしないだろうが)
まぁ初対面で偽名を使う冗談なんか意味わからないよなぁ、俺もわかんねえもん!
「それじゃあもう知ってるとは思うけど、俺の名前は
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」
いい笑顔だなぁ・・・。これが若さか。キラキラしたオーラに勝手に俺のメンタルが削られるんだが?
なに? 山田も鈴木も大差ないだろって? 鈴木の俺が咄嗟に出てくる苗字が山田って時点で山田さんの偉大さを知れ。
・・・・・・出来ればよろしくしたくねぇなぁ・・・。まぁこの先黒ずくめの男の裁判やらなんやらあるだろうし、結局連絡は取らなきゃ駄目なんだろうけど・・・。
病院の治療費やら入院費やらの支払いもあるし、会社にも連絡しなきゃいけないし、やること多くて頭が痛くなってきたな・・・。
あぁ、そうだスマホがねえと話にもなんねえや。
「日向さん。俺の持ち物、っていうかスマホなんだけど、どこにあるかわかるかな?」
「えと、そこのテーブルの上に置いてあります。」
そう言って俺の左手の方に指を差す。
「あぁ、ありがと・・・うっ!」
礼を言いつつ、スマホを取ろうと体を捻った途端、腹部に鋭い痛みが走る。体を動かしていなかったから失念していた。腹に思いっきり包丁が刺さっていたんだ。そら痛いわ。
「あの! 動かないでください! 私が取りますから!」
「ありがとう、助かるよ」
一度しっかり痛みを認識すると、声を出すときにも多少気を使うな。
会話が出来ないほどではないが、歌ったり大声は出せなさそうだ。どちらにせよ病院でそんな事をするつもりはないが。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
とりあえずは上司に報告しておこう。一番初めに会社関係の人間に連絡を取るなんて、なんて立派な社会人なんでしょ。当たり前か。
『JK庇う、腹部刺される、会社休みます。』
こんなもんでいいだろ。さて、次は・・・っと。
アイツにも連絡しておくか、一応。
トークアプリには何件かの未読メッセージ。開いてみると、
『なんで帰ってこないの?』
『朝まで仕事?』
『どうしたの? 大丈夫?』
『やっぱアンタも捨てるんだ』
『勝手にすれば』
うへぇ・・・。大変怒ってらっしゃるなこれ。
あんま刺激しないようにしなきゃ・・・。
『入院なう笑』
流石にふざけすぎたか? 2日も家に帰らずにメッセージも既読すら付かない状態だったのだ、心配を掛けてしまったかもしれない。
なんて思った直後に鳴り響くスマートフォンと、そのディスプレイに浮かぶ『
一応、断りを入れておこう。
「ごめんね日向さん、ちょっと電話、いいかな?」
「あ、はい。私もちょっと、出てきます」
そう言い残して退室してくれた。
ふぅ・・・。少し覚悟を決めて通話ボタンをタップする。
『大丈夫なの!? 何があったの!? どこにいんの!? 事故!?病気!?事件!?』
「大丈夫。大丈夫だから、ちょっと落ち着けって」
『落ち着いてられるわけがないでしょ!? 入院なうってふざけんな!! どんだけ心配したと思ってんの!!』
やっぱ入院なうはやり過ぎだったらしい。反省。
「すまんすまん、ちょっとふざけすぎたな、悪かったよ。とりあえず、話聞いてくんね?」
深呼吸の音だろうか、すぅ、はぁ、と何度か聞こえた後、不機嫌そうに言葉を切り出してきた。
『はぁ・・・。ほんとに何もないの?』
「おう、ちょっと包丁で腹をぶすっと刺されてな。それで・・・」
『はぁ!!?』
「うぉっ!?」
予想以上の声量にびっくりしてしまう。おかしいな、通話音量結構下げてるはずなんだが・・・。
『全然大丈夫じゃないじゃん!!』
「いやいや、だからちょっと落ち着けって、な? こうしてしっかり会話出来てるだろ?」
『アンタがお腹刺されたなんて言うからビックリしてんの!』
「それも含めてちゃんと説明するから、聞けって」
『わかった、わかったから。もうふざけんのは無しね。ちゃんと説明して』
それから茨乃に事の経緯を説明した。
もちろん、俺の内心については一切触れなかったが。
茨乃の自殺を引き止めた俺が死のうとしていたなんて流石にダブスタにも程があるだろうし、厳密に言えばこれは自殺じゃないし。
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