オカエリかな?
sora_kumo
オカエリかな?
「ミツばあ、ただいま〜」
「おかえり……て、ユウタ! あんた、何その格好!」
玄関を元気よく開け放った若者の姿に私は驚愕する。
外は猛暑、暑いのは分かる! 分かるけど、Tシャツは襲われたのか、と思うくらいビリビリに破れ、履いているジーンズもこれでもか、というくらいズタズタ。風通し良くてさぞや涼しいだろうが、もう少しマシな格好はないのか?
「お盆でみんな集まるのに、そんな格好で帰って来て! 恥ずかしくないの?」
昭和生まれ、来年古希を迎える身からしたら若者ファッションは理解できない。
「え〜? 流行りだよ。クールビズ?」
と悪びれもせずニカッと笑って、サッサッと玄関を上がり、冷蔵庫から牛乳をパック飲み。
「ぷはーッ! うまっ!」
「コップを使いなさい!」
慌てて牛乳パックを奪い取る。
「えー、いいじゃん、洗い物出なくて楽でしょ? SDGsだよ」
「何でもかんでもSDGsって言って許されると思うな! まったく……」
牛乳を冷蔵庫に片付けて、ユウタを見ると、ぷく〜と頬を膨らませてカワイコぶる……。
「……てゆーか、そんな黒い服着て、そっちこそどうなの? 見てるこっちが暑苦しいよ」
ため息交じりにユウタに言われ、
「黒色でも涼しい素材だよ」
と軽く流して時計に目をやる。
……午後4:50。
皆もそろそろ到着するかな?と思いつつ、仏壇のお供えと遺影を軽く整えて、お線香もあげる。故人の友好関係が広いからか、今年もたくさんのお供えやお花で華やかだ。
ありがたいなぁ、と思いつつ横を見るとユウタがお供えの缶ビールをいつの間にか1本持っていた。
「こら! 未成年!」
ピシャリッと手を叩くと
「え〜? 成人してるよ」
とすっとぼけた顔をする。
「私の記憶が正しければ、あんたのその顔はまだ17歳。鏡見といで。悪ガキ」
ちょっとくらいいいじゃん、とかブツブツ言ってるが、どこから見ても未成年なのでダメなものはダメ。元教育者として見逃せない。
「……前から思ってたんだけど、そのジイの写真、なんかイケてないよね〜。なんでそれ選んだの? 他に良いのあったのに」
みんなで食べるために用意した夕食用の品々を、ヒョイヒョイ摘みながら不満気にユウタが言う。指が唐揚げの油でベタベタだ。その辺を触らないで欲しい。まったく。
額縁の中では62歳で亡くなった旦那が、大口開けて笑っている。
「うーん、毎日仏壇に手を合わせるから、畏まった写真よりいつも通りのアホっぽい方が良いと思ってね」
「ひどっ! ジイがかわいそう!」
ユウタはオーバーに涙を拭うふりをする。
やれやれ……。
私と亡くなったジイこと旦那は歳の差婚だ。
出会ったのは私の教育実習先の高校……。
そう、私が実習先で悪戦苦闘することになる原因が、当時高校2年生の旦那だった。
サボる、チャラい、成績も良くない、けどいつも彼の周りには人が集まっていた。
真面目一辺倒の実習生の私は、彼にとっていいおもちゃだったのだろう。しょっちゅう絡まれていた。
「みっちゃん! 眉間にシワ寄せてると消えなくなるよ!」
と額に指をグリグリやってからかう奴で、「みっちゃんて呼ぶな! 先生と呼べ!」
と怒鳴ることしばしば。
彼の友達もグルになって、階段下からスカートの中を見ようとしていたり、靴にカエルを入れられたり、「小学生か!」というようなことをやっては笑いながらダッシュで逃げる。
……ホント、どうしてあんな奴と結婚なんかしてしまったんだろう?と今でも謎。
実習後、大学まで押しかける猛攻撃に疲れたからかも?
……でも、まあ、何だかんだと楽しい生活はできてたんだと思う。
今では息子夫婦と生意気で可愛い孫達もいるしね、といつの間にか扇風機の風で宇宙人ごっこしているユウタを見る。
……こいつ、向こうでもこんな感じなのか?
ピロン♪ とスマホが鳴る。
「あ。そろそろ、みんな来るんじゃない?」
スマホを確認すると息子からだった。
「タクシー乗ったって」
画面から顔を上げると、ユウタがいない。
慌てて玄関に行くと、靴を履いていた。
「ちょっと! また皆に会わずに行くの? 今日くらい泊まっていきなさいよ!」
ユウタはへらへら笑いながら
「だって、みつきちゃん怖いし」
みつきは可愛い孫のひとりだ。
「なんでよ。私に一番似てるのに。失礼な!」
「だからだよ。絶対ミツばあと2人で説教される」
ユウタはまた大げさにしょぼんとしてみせる。
「でも、まだ送り盆じゃ……」
ないのに、と言葉が続かない。
話を遮って、チュッと頬にユウタが素早くキスをしてきたからだ。
「じゃあ、またね! みっちゃん!」
ニカッと笑ってダッシュで出て行く。
「〜ッ!」
一気に血圧が上がる。
こっちは高齢者だぞっ! 殺す気かっ!
アイツめっ!
玄関で地団駄していると、連絡をくれた息子達家族がやって来た。
「ミツばあ! ヤッホー!」
「ユウ! ちゃんとご挨拶!」
小学3年生の孫のユウと、母親より母親らしい小学5年生のみつきが玄関に入って来る。
遅れて息子のユウダイとお嫁さんのカオリさんも笑顔で入って来た。
「ただいま。母さん」
「お義母さん、ご無沙汰しています」
ひとり住まいも慣れたけれど、やっぱり賑やかなのは嬉しいものだ。
「おかえりなさい。みんな、いらっしゃい」
「ユウじい、こんにちは! あれ? こんばんはかな?」
ユウは首を傾げながら手を合わせている。
その後、ユウは居間を笑いながらグルグル走り回り、喉が渇いたと冷蔵庫から牛乳を出してパック飲みをし、それをみつきが叱っている。
何だかどこかで見たような……、と苦笑していると、荷物を部屋へ運びながらユウダイがこそっと聞いてきた。
「……で、父さん、今年も帰って来たの?」
「来たよ。またすごい若作りで。高校生くらいだった」
「……なんで、俺より若い姿で帰って来るの?」
もうすぐ40歳になる息子は呆れ顔。
「ホントそれっ! 今度聞いとくわ!」
私が鼻息荒く言うと、
「なんか死んだ気がしないね」
と笑うユウダイの顔がまたユウタそっくりで……。
ちょっとだけ、じわッときたのが悔しい。
来年は、みつきと待ち構えて説教してやる。
―――早く帰って来い! ユウタ!
オカエリかな? sora_kumo @sora_kumo
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