2話:悪魔に魂を捧げる契約までしたのに、何も成果が出なかったんだが?

「え?それ無理って、さっき言いましたよね?」


分かっていたことだが、天使からの返答はより辛辣に感じられた。


「っ……じゃあ、俺以外の誰かを連れてくれば、そいつに力を渡せるのか?」


天使は黙って口に人差し指を当てていた。


「……別の人を連れてきましたら祝福をいただけるのでしょうか?」


「可能性はありますけどねー。でも、そろそろティータイムなので帰りたいのですが……」


「すぐ戻るから待ってろ!……ください!」


教会の窓から外に飛び出し、みんなが籠城戦をしている屋敷に向かう。

“首しか無い狼”は頭部が這うか跳ねるくらいしかできないから、囲まれなければ追い付かれはしないだろう。


早くだけかを連れて教会まで戻って来なければならない。

急ぐ頭上から「キィィィ」と鳥の鳴き声が響く。


“頭と羽だけの鷲”達が上空から接近し、嘴で攻撃をしてきた。


「急いでんだ!どけよ!」


闇雲に剣を振り回すが敵に血を流させることすらできず、後ろからは“首しか無い狼”が迫っていた。


天使が自分を蘇生したのは、祝福をできなかった謝罪だった。

つまり、もう蘇生はされないだろう。

そして、村のみんなも遠からず全滅になることは容易に想像できた。


「ハッ……(素直にみんなと一緒に戦った方が助かる可能性があったってことか)」


最早、自分の愚かさを笑うしかない。


「俺が死んでもみんなには助かってほしいのに、死んでも意味が無いなんてな……」

剣を持つ手から力が抜け、諦めて死を受け入れようとした時、頭の中に声が響いた。


「君の魂の嘆き、ちゃんと聞いていたよ。弱き友よ」


声が聞こえるのと同時に、俺の周囲を炎が取り囲み、魔物達を遠ざける。

血を連想させる鮮やかな赤い炎だった。


「戦う力をあげようか?代償は君の魂だ」


いつの間にか、目の前に銀髪の女性が立っていた。

頭の両側面に黒い角、背中には蝙蝠のような黒い翼が生えていた。


「死後、君の魂は永遠にボクのものになる」


目の前にいるのは悪魔だった。

天使に代わって、こいつが力をくれるらしい。

だが……


「天使からは、魂が低ランクだって拒否されたんだけどな」


同じ間違いを繰り返すわけにはいかなかった。

力を貰えたつもりになって死んでしまったら、もう生き返れないのだ。


「分かってないなぁ」


俺の質問に、悪魔はあきれたようにヤレヤレと首を振った。


「ボクは天使に見捨てられるような人の為にいるんだよ?そんな心配しないで欲しいな」


「じゃあ、俺でも……」


「うん。君には業火の力あげようかな。剣を振ると炎が出て、相手を焼き尽くすまで消えない。分かりやすくて良い能力だと思うよ」


天使と違って、俺でも使えて、さらに使用方法も分かりやすく簡単だった。

これなら、みんなを救えるかもしれない。

俺が乗り気だと判断したのか、悪魔が笑みを浮かべて話を続けた。


「能力には満足して貰えたかな?あとは君の覚悟だけだ。」


悪魔と魂の契約を交わした者は、死後に永遠の苦痛を味わうと聞いたことがある。


「今日助かるために、将来の永遠を捨てるかい?」


答えは決まっていた。


「契約だ!俺に力を!」


「良い答えだ。契約に従い、君に力を」


周囲を囲っていた炎が狭まって俺を包み込み、体内に収まるように消えていった。

今度こそ、戦う力を手に入れたのだ。


炎の壁が無くなったことで、周囲の魔物達が襲い掛かってきた。

けど、さっきまでの俺とは違うんだ。


「悪いな。もう負ける気ねぇんだわ!」


勢いよく剣を振り、発せられる炎で魔物達を焼き尽くすはずだったが。

剣からは何も出てこず、“頭と羽だけの鷲”に加えられた俺は、上空から地面に落とされ、命を落とした。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「はっ!?」


俺は仰向けの状態で目を覚ました。

確かに死んだはずだが、五体は満足で、落下時の損傷は残っていなかった。

また、周囲は再度炎の膜で囲まれていて、魔物達は外に追いやられていた。


立ち上がると、先ほどの悪魔が気まずそうに頬をかいていた。


「おい」


魂を捧げる契約までしたのに、何も成果が出なかったんだが?


「あー、おはよう?」


「……剣から炎が出るんじゃ無かったのか?悪魔は契約だけは守るって聞いたことがあるんだけどな」


「もちろん!そのつもりだったさ。けどね、いざ契約をしようとした時にこう思ったのさ。」


悪魔は両手で自らの口を隠すようなジェスチャーを取った。


「うわっ…君の魔力、低すぎ…?これじゃ契約できないよ」


「またかよ!さっき確認しただろ!」


非難するように声を荒げると、悪魔は心外であるかのようにムッとした表情になった。


「いやいや、こっちだってさ?平均よりいくらか魔力が低いくらいの魂なら喜んで契約するとも!でもさぁ、これはちょっと低すぎるよ」


平均とか取ってるんだ。その平均に俺は含まれているのだろうか。


「魂は永遠にお前の物になるんだろ?いくら魔力が低くてもよ、待ってればいつかは割に合うんじゃねーのか」


「無理無理、維持費とかあるからさ。君の魂は持ってるだけで魔力の採算がマイナスになってしまうよ」


「維持費……」


「負の遺産(笑)」


こいつら何なんだよ。天使といい悪魔といい。


「まぁ、騙すような形で死なせてしまったからね。お詫びの気持ちで生き返らせたのさ。蘇生コストもバカ安かったしね」


“バカ安い”って表現、流行ってんのかな。


「結局、自力で何とかするしかないってことか。」


2回も希望を打ち砕かれたことで、むしろ目が覚めた思いだ。

人間の力で生き残れということなんだろう。

さっきの天使だって、どうせティータイムで帰っているだろうし。


「行くのかい?すぐ死ぬと思うけど。」


「だとしても。出来るだけやってみるしかねーだろ。じゃあな。生き返らせてくれてありがとよ。」


別れを告げるが、悪魔は顎に手をあてて考え事をしており、炎の膜が依然として周囲を取り囲んでいた。


「悪い。これどけてくれ。外に出られねー。」


「待ちたまえ。安き友よ。」


変な呼び方するな。


「君の魂は、安い」


何回言えば気が済むんだ。


「生き返らせる時も、信じられないくらい低コストだった。」


「悪かったな!価値が低くて!もう散々聞いたんだよ!」


「そうじゃない。むしろ楽だったよ。何回蘇生しても全然疲れないくらいにね。」


これは、褒められているのか?褒めるのが下手クソなのか?


「だとしても、もう蘇生する理由がねーだろ。」


魂の契約だって出来ないしな。


「逆に金でどうだい?」


逆ってなんだ?魂の対義語は金なのか?


「……蘇生だけしてもらっても、勝てねぇよ。見てただろ?」


2回死んだことで、自身は完全に無くなっていた。

村のみんなと一緒に足掻あがいて死ぬならまだ良いが、自分だけ生き残ろうとも思わなかった。


「何回でも良いって言ったら?」


「……あ?」


悪魔「勝つまで死に続ければ、いつかは勝てるよ。そうだろう?」


そう言って目を細めて笑う女性からの提案内容は、まさに悪魔の発送だった。

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低コスト勇者の無限自爆旅 ~天使と悪魔から自爆特攻を強要されています~ あいはら阿人 @AbitoAihara

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