低コスト勇者の無限自爆旅 ~天使と悪魔から自爆特攻を強要されています~
あいはら阿人
1話:魂がしょぼすぎて祝福できませんでした(笑)
「はぁっ、はぁっ……クソ、間に合ってくれ!」
寂れた道を教会に向かって走る。
見たことも無い魔物の群れが、突然村を襲ってきた。
首しかない狼、頭と羽だけの鷲、中身のない巨大な鎧。
村にも兵士は居るが、初めて目にする魔物を相手に苦戦を強いられ、村のみんなを村長の屋敷に避難させ、そこで籠城戦をしていた。
この村の兵士は半隠居の老兵が多く、守りを突破されるのは時間だ。
俺は屋敷には行かず、魔物から逃げつつ村はずれの教会に向かっていた。
「ここ…だよな?」
幼いころに祖父母と一緒に教会に行った記憶を頼りにたどり着いたが、目の前にあるのは記憶よりも数段古ぼけた建物で、車輪を
祖父母が若かった頃には、天使から”祝福”を受け特別な力を発揮する人達がいて、その頃はこの教会も
しかし、父母の代には祝福を受ける者がいなくなり、次第に信仰は薄れ人が寄り付かなくなっていったそうだ。
建付けが悪くなりガタガタと揺れる扉を何とか開き、教会の中に入る。
正面奥にはひび割れた天使像が置いてあった。
昔はひびなんて無かったが、今では修繕も交換もされずにそのまま置かれているようだ。
俺は、天使像の前で
「頼む!みんなを助けてくれ!」
教会の老朽化した様を思うと、自分が天使でも村を助けはしないだろう。
それでも、他にすがるものが無かった。
「教会がこんなになるまで放っておいて、今更助けてくれなんて言われたくねぇのは分かってる。けどよ…このままだと全員殺されちまうんだ!せめて、この像を掃除したやつとか、少しでもあんたを信じてた奴だけでも助けてくれないか?」
返事は無い。有るはずも無い。
「……」
「…………」
「………………」
何秒待ったかは数えていないが、もし聞いていたなら返事をするには充分すぎる時間が経過したことは確かだった。
「そうだよな、当然だ……」
ようやく諦めがついて立ち上がり、扉へ向けて歩き出した時、眩い光が教会内に広がった。
「弱き者よ。あなたの魂の叫び、しかと聞き届けましたよ。」
振り返ると、天使像の前に翼の生えた女性が降り立っていた。
腰まで伸びた神々しい金色の髪、三対六枚の翼、全ての翼を覆うように広がった光の輪。
教会のシンボルである車輪のマークは、天使の翼と光輪を表していたのだと分かった。
「あんた、天使か?本当にいたんだな…」
俺の言葉を遮るように、天使が声を発した。
「話し込んでいる時間は無いはずですね?あなたに祝福を授けます。すぐに戻り皆を救ってきてください。」
天使が手をかざすと、俺の体に光が集まり、吸収されるように消えていった。
かつて教会が
だとしたら、今の俺には、あの魔物たちを倒す力が宿ったはずだ。
「ありがとう!その天使像、後で絶対に直してやるからな!」
天使へと背中越しに感謝の言葉を述べ、扉を蹴破り飛び出す。
教会の外には”首しか無い狼“達が這い回っていたが、負ける気がしなかった。
「みんな無事でいてくれ!こいつら倒して、すぐに助けてやるからな!」
腰の剣を抜いて敵に切りかかった俺は、無数の狼の首に飛び掛かられ、体中を噛み砕かれてあっけなく死亡した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はっ!?」
俺は仰向けの状態で目を覚ました。
確かに死んだはずだが、五体は満足で、噛み傷は残っていなかった。
立ち上がり正面を見ると、先ほどの天使が微笑みをたたえていた。
天使に会ったところまでは夢ではなく現実のようだ。
「そうだ、狼は……?」
狼達が教会に入ってくるのではないかと思い立ち扉の方を振り返ると、蹴破った扉の外で”首しか無い狼“達がこちらを見ていたが、教会には入って来なかった。
もし結界のような力が働いているのだとすれば、この天使の力は本物のはずだ。
そもそも俺を蘇生したのは天使以外には考えられない。
そうだ、俺が能力の説明を聞かなかったのが悪いんだ。
なんとなく筋力や剣技が強化された気になっていたが、使い方が分からないと発動しない能力だってあるはずだ。
「あ、あの……」
先走って駆けだして死んだ手前、声をかけづらかったのだが、恐る恐る天使に話しかける。
「はい?」
天使の態度は穏やかだったが、それが後ろめたさに拍車をかけてくる。
「俺がもらった能力って、どうやって……使うんですか?」
質問を聞いた天使は、2,3秒試案するような仕草の後に言葉を紡いだ。
「えっと、その……大変申し上げにくいのですが……」
気まずそうに顔をそらした後で、こちらに向き直って返答を述べた。
「あなたの魂がしょぼすぎて祝福できませんでした(笑)」
「…………は?」
「渡せる能力が無いっていうか……ふふっ」
何故笑いを
「皆を救うようにと言いましたが、無理でしたね。田舎者よ。」
天使って”田舎者”とか言うんだ。
自覚はあるけど、天使からは聞きたくない言葉だった。
「その謝罪としてあなたを蘇生したのです。感謝してください。価値無き者よ。」
どんどん口が悪くなるし、謝罪に対して感謝を求めるのはおかしいのではないだろうか。
「あっ!」
憮然とする俺の前で天使は両掌を合わせ、何かを思いついたように次の言葉を飛ばした。
「でも蘇生コストはバカ安いですね!魂がしょぼいから」
天使って” バカ安い”とか言うんだ。
というか、人生で初めて聞いたかもしれない表現だった。
俺より育ちが悪い天使なのかな。
天使に育ちってあるのか?
「例えば、この世界で一番ランクが高い人間の魂を蘇生すると、あなたの軽く1万倍以上はかかります。」
育ちが悪い天使は話すのが楽しくなってきたようで、人差し指を立てたり、両手を振り回したりして身振り手振りをまじえて話を続けていた。
「1万倍」
俺はあまりの言われ様にあっけにとられ、衝撃的だった言葉をそのまま返すことしかできなかった。
「そしてこれは、あなたがどれだけ鍛えても、1万倍の人がずっとサボっていても決して変わりません。こんなに低コストで蘇生できる人は見たことがありません!」
自分のことを”安い”とか”お得”とか言われても心に響かないのだと、今、身に染みて良く分かった。
そして、天使はこちらに近づき、両腕を広げて俺を称えるように笑みを浮かべる。
「ある意味Tier1ですよ?」
何が?
何回蘇生されても、あの魔物達を倒せる気がしなかった。
今から体を鍛える時間は全然無いし、いくらかバルクアップしたところで勝ち目があるようには思えなかった。
「生き返らせてくれたのには感謝するけどよ、結局、みんなを助けられないのか?」
俺が聞きたいのは、結局はそこなのだ。
目の前の奴に頼るのは今や
俺に能力をくれるのはできなくても、何か他に方法は無いのだろうか。
「……」
先ほどまで元気に人の魂のしょぼさを力説していた天使は、俺の言葉に少し驚いた用にきょとんとした後で、にっこりと笑顔を作って、人差し指を自分の口に当てた。
「……敬語」
「え?」
「だから、敬語。最初から気になっていたのですけど、敬語じゃないときが多いですよね?」
確かに、確かにな。
天使を相手にして礼儀が足りない口調だったかもしれない。
今や敬意はあまり残っていないが、なんとか敬語を絞り出した。
「……この度は、格別の厚意を
天使は満足したようにうなずいた後でこちらに向き直ると、困ったように首をかしげてこう言った。
「え?それ無理って、さっき言いましたよね?」
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