僕のなつやすみ

なお

ある小学生の夏休み

 僕は賢い。物心つくころには日本語も話すことができ、九九を覚えたのもクラスで一番最初だった。だから僕は小学3年生の夏休みに日曜のお昼の新作アニメ「転生したら異世界に最強の魔剣士として生まれ変わった」を見てあることに気が付いた。


 子供を助けてトラックにひかれると異世界へ転生することができる。


 とんでもないことに気付いた僕は自分以外にこの秘密を知る人間がいないか両親に確認した。すると両親とも凄いねと僕を褒めてくれた。やはり僕は賢い。


 自分の賢さに確信を得た僕は。異世界に行って冒険することを決意した。両親と別れるのは辛いが、アニメの最後には魔法で元の世界に戻ってこれたので戻ってこれるだろう。


 事故にあう直前の子供がいないかしばらくの間はずっと交差点で道を眺めていた。すると車を好きだと誤解した両親が沢山のトミカを買ってくれた。やはり僕は賢い。しばらくの間は友達の中島を誘いトミカでアホほど遊びつくした。


 翌年の夏ごろ、アニメの再放送が始まった。異世界のことを思い出した僕は中島とトミカに別れを告げまたしても交差点で事故待ちを始めた。

 やっぱり実物がいいのかと謎の納得をした父が新しいキャンピングカーを購入。夏にキャンプに出掛けた。

 川でおぼれかけたところを全身緑で頭にお皿をのせたおじさんに助けられたが、自分をカッパだと訳の分からないことを言い出した。いい年して痛い事を言っているおじさんが可哀そうになり、おじさんと遊んであげることにした。

 尻尾が9本生えているキツネのお姉さんや、鼻が長くてうちわをもってるおじさんも紹介してくれ、最終的には来年の夏も遊ぶ約束をしてさよならした。たった1日遊んだだけなのに両親からは1ヵ月いなくなっていたと大泣きされた。

 僕はたった1日で夏休みが終わってしまった悲しさから、日中からコスプレをしている暇な大人とは遊んではいけないことを知った。


 翌年の夏。僕は5年生になった。両親から交差点に行かないのかいと聞かれて思い出した。そうだ、異世界に行くんだと。居ても立っても居られず交差点で事故待ちを始める。3日ほどたっても事故に合いそうな子供は現れない。

 やはり僕は賢い。いなければつくればいいと気づいた僕は中島を呼び出し、道路へと突き飛ばした。残念ながら助けが間に合わず中島がトラックにはねられて終わってしまった。

 事故の衝撃で直前の記憶がなくなった中島をだまし、自分で飛び出したことにすると親からのちょっとした注意で終わった。ただ今年の夏休みは交差点に近づくことを禁止されてしまった。


 小学校最後の夏休み。やはり僕は賢い。前回の反省を踏まえて、僕は道路の反対側からギブスの取れたばかりの中島を呼び出し、トラックにひかれるように誘い込むことにした。ただ僕の呼びかけだと弱いと思い、クラスで1番の美人である花沢さんに声掛けをお願いする。案の定、馬鹿な中島は喜んで駆け寄りトラックに気付かず飛び込んできた。

 その隙を逃さず反対側から助けにかけよった僕は中島と一緒にトラックにはねられた。

 気が付くと病院で目が覚めた僕は両親から喜びの言葉を受けるのと同時に強く叱られ、トラックに引かれても異世界には行けない。死んでしまうだけだと伝えられた。衝撃の事実に僕は呆然としたまま病院生活で夏を終えた。


 小学校を卒業し僕は中学生になった。トラックに轢かれた後行方不明になっていた中島と再開する。

 中島はトラックに引かれたあと別の世界で目が覚めたと言う。その後はお姫様を救い、魔王を倒した魔剣士になって帰ってきたのだと妄想を話し始めた。

 馬鹿な中二病野郎の話しに僕はドン引きし、中島にビンタをして友達をやめた。


 翌日、トラックに轢かれた中島が病院送りになったと聞いたが僕は何も知らない。

 


 


 




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