第4話 ――それが、魔女なのでしょう?
「――ほら、ヨハン。お昼ご飯の時間だよ」
「……本当に、いつもすみません、ヘレナさん」
「……もう、それは言わないでって、いつも言ってるでしょ? それから、ヘレナでいいから」
――それから、およそ三ヶ月が経過して。
穏やかな陽の光が優しく射し込む小昼の頃。
心底申し訳なさそうに謝意を述べるヨハンに、少し呆れてそう伝える私。……ほんと、なんにも変わってないなあ。私のことを覚えていた、あの頃と。
あの日――あの夜のこと。鮮血を流しバタリと倒れたアンナさんを目にしたヨハンは、ほどなくして卒倒――そして、記憶を失ってしまった。
医師の話によると、意味記憶――即ち、物事の一般的な知識などだけでなく、手続き記憶――即ち、身体で覚えた動作の記憶なども大半が失われているため、日常生活にも大きな支障が生じるとのこと。例えば、フォークとスプーンの使い方さえ分からなかったり。
そういうわけで、一人では日常生活すらままならないヨハンを私が手助けしている――それが、今の状況だ。だけど、そこに関しては何ら苦痛はない。私のせいでこうなったのだから、そもそも不服など言えた義理ではないけど……それ以前に、今までずっと支えてくれた恩人を今度は私が支えられるのだから、これほど嬉しいことはない。
そして、エピソード記憶――即ち、個人的な経験に纏わる記憶に関しては、完全に失われてしまいもう二度と戻らないだろうとのこと。つまりは、思い出の消滅――出逢ってからおよそ六年間の私は、もう彼の中のどこにもいない。
「……天罰、なのかな」
「……ヘレナさん?」
そっと呟きを洩らすと、不思議そうに少し首を傾げて尋ねるヨハン。私は首を横に振り、何でもないよと伝える。
……いや、そんなわけないか。そもそも、私は何の罰も受けていない。被害者はあくまでアンナさんとヨハンであり、私は加害者でしかない。ヨハンを手に入れるため、理不尽に命を奪われた家族さえも利用する――そんな、身勝手で醜い
……だけど、それでもいい。悪魔に魂を捧げることで
柔らかな
――貴方のそばに、いさせてください。
愛情の行く末 暦海 @koyomi-a
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