仮面バトラーフォワードvsシャドーフォワード

秋乃晃

 ボクには、ヒーローがいる。


 望月もちづき勝利しょうりは、2007年から2008年に放送されていた仮面バトラーシリーズの四作目である『仮面バトラーフォワード』の主人公だ。紋黄町もんきちょうで生まれ育った勝利は、紋黄高校を卒業してから地元企業の『COMMAコンマ』に就職し、仮面バトラーフォワードへの変身資格を得る。仮面バトラーフォワードは、秘密結社『apostropheアポストロフィー』が差し向ける怪人アイコンから、シンボリックエナジーという特殊な力を操る“お嬢様”を守らなければならない。

 望月勝利を一年間演じていたのは、新人俳優のさきがけ泰斗たいとだ。彼は、2010年に発生した事故により、すでにこの世の人ではない。


「ごはんできたよー」

「はーい✨」


 ボクはテレビのリモコンの【電源】ボタンを押しました。電源を消したら、その画面は真っ暗になります。ヒーローは、画面の向こう側。映像作品の中にしか存在しないのです✨

 この分厚い“第四の壁”を乗り越えることはできません✨できるのは、貞子さんぐらいです✨


 ――と、思っていた時期がボクにはありました。



「あれぇ?」


 サキガケ泰斗たいと(の姿をした侵略者のアッティラ)は、紋黄高校もんきこうこうの校門の前で首を傾げる。つい先ほど、ドア越しに同居人から呼びかけられて、テレビを消してリビングに移動しようとしていた。あまりにも日常的な行動なので、特に何も注意していない。自然な動きでドアを開けて、一歩進んだら、紋黄高校の校門があった。いきなりの場所移動である。


「ボクは夢を見ているのでしょうか?」


 ごしごしと目をこする。よくよく見れば、ドアを開ける前と開けて進んだ後で、サキガケの服装も変わっていた。屋内でははだしで歩いているのに、スニーカーを履いている。


「ああーっ!?」

『どうしたショー、んんっ?』


 急に大きな声が聞こえてきて、自然とそちらのほうを見るサキガケ。自分と瓜二つの背格好の青年と、その肩に乗せられた執事服のヤギのぬいぐるみ。


(ひょっとして、ここは『仮面バトラーフォワード』の世界なのでは✨)


 望月勝利と、仮面バトラーフォワードに与えられた指導役コーチのゴートである。勝利はサキガケに駆け寄ってきた。


「なんでっ!? ボク!?!?!?」

「こんにちは! ボクは、サキガケです✨」

「えっえっ」


 サキガケを名乗る自分とそっくりの存在を目の前にして、つま先立ちになってみたりしゃがんでみたり、ぐるっと周りを見たりする勝利。まったく同じ服装で、声も同じだ。


『おぬし、生き別れの双子がおったのか』

「いないよ!」

『ふむ?』

「ボクの兄弟は兄貴だけだってば」

『ならば、こやつはいったい?』

「ゴートさんこそ、ゴートさんの新型じゃないの?」


 ゴートはシンボリックエナジーによって生み出された“スケープゴート身代わりヤギ”のぬいぐるみ。過去に、勝利がフォワードとして戦わなければならない局面で、勝利の代役を務めている。


『知らぬよ』

「なら、ドッペルゲンガーってこと……?」

『ショーリに死なれてしまうのは困るのう』


 相手が混乱している。


 サキガケは、本来の名前をアッティラという。アッティラは、2010年の八月に宇宙の果てより巨大要塞で地球までやってきたのだが、その巨大要塞が東京湾のレインボーブリッジ付近で座礁し、直るまでは侵略行為をやめて、そのときのニュース番組で見かけた魁泰斗の容姿をコピーして生活している。魁泰斗を上で、魁泰斗の主演作『仮面バトラーフォワード』を見ていたのだ。


「キミは、サキガケくんって言うの?」

「サキガケです✨あなたは、望月勝利くんですね?」

「ボクの名前を知ってる!?」

「でも、本当は魁泰斗さんですよね?」


 ここが『仮面バトラーフォワード』という作品の世界なのか、あるいは、その『仮面バトラーフォワード』という作品を撮影している時間軸に飛ばされてしまったのか。そのどちらかを見極めるべく、サキガケは望月勝利を演じている魁泰斗に問いかけた。


「本当は……?」

『おぬし、真名があったのか』

「そんなかっこいいものはないってば。ボクは今も昔も望月勝利!」

「と、いうことは、ここは『仮面バトラーフォワード』の世界なのですね✨」


 一つの作品として楽しんでいた『仮面バトラーフォワード』の世界に入り込めた。サキガケは空腹を忘れて、目を輝かせる。


「フォワード……サキガケくんは、仮面バトラーフォワードを知っているの!?」

『怪しいのう。もしや、アポストロフィーの?』

「なんで知ってるのか、詳しい話を聞かせてもらえるかな?」

「いいですよ✨ボク、望月勝利くんとはお話ししたいと思っていました✨今後、魁泰斗として『望月勝利』を演じる可能性もありますからね✨」

「キミが、ボクを?」

「はい! ボクの世界では、仮面バトラーフォワードは毎週日曜午前八時に放送していた変身ヒーローの番組ですし✨」


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2025年1月8日 18:00

仮面バトラーフォワードvsシャドーフォワード 秋乃晃 @EM_Akino

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