帰るべき場所、居るべき場所

大黒天半太

帰るべき場所

「お前の居場所は、この田島の家しかないのだ。もう、いい加減に観念しろ」


 田島家家長たる祖父・田島三侍は、ドラマの裁判長か時代劇の町奉行のように、一段高い所から座ったまま、私・田島賢二に言い放った。


 伯父達も、従兄弟達も、そして父と兄も、祖父の両脇に控え、ことの成り行きを無言で見守っている。

 祖母も、母も、姉も、妹も、伯母達も、従姉妹達も、女人は全員この場から外されているのが、田島家我が一族らしい。


「田島の直系男子は、覚醒すると同時に、術院霊山に上り、術師となって国に仕える運命さだめだ。お前のその異能力ちからは、田島の血筋が与えたのだから、田島家の一員として、その異能力ちからで、お国に仕えなければならぬ」

 祖父は『今すぐ高校を休学でも退学でもして、術師になって戦場へ行け』と言っているわけだ。


 家長たる祖父には従わねばならないと言う思考に、『何で俺が、このジジイの我が儘聞かんと行かんねん』という呆れたような思いが混ざって来る。後者は、明らかに私の思考ではない。

 まぁ、それでも私の考えと極端にかけ離れている訳でも無い。

 儀式を経て覚醒した私の異能スキルは、たかだか第三階柢3ランクの道士に過ぎないし、国のために出陣したとしても、術師としてはろくな戦果も上がりはしない。


 これが、第二階柢2ランク以下なら、もはや前線にも出られぬ男など田島家には無用と、最初からいなかったかのように放逐されていただけだろうし、従兄弟や伯父達、父や兄のように、第四階柢4ランク、いや第五階柢5ランク以上なら、但馬家(田島家の本家筋)に頼み込んで、術者としての更なるグレードアップを図り、より活躍できるよう、いろいろとお膳立てされたことだろう。


 つまり、第三階柢中途半端の私に求められているのは、田島家の名を汚さぬ内に役立たずとバレる前に、とっとと戦場での名誉の戦死くたばることだけだ。


 目の前に並ぶ親族にしても、第四階柢4ランクなのは、第五階柢5ランク目前の兄と従兄弟の内の若い幾人かだけで、ほとんどは第五階柢5ランク、伯父の何人かと祖父は第七階柢7ランクだと言う。但馬の宗家の第十階柢10ランクにはくらぶべくも無いが、前線では十分な実力者に数えられるだろう。


 第三階柢3ランクの道士で、ろくな道術も修めていない私は、我が一族ではみそっかすの落ちこぼれだ。


「わかりました。この田島賢二、お国のため、微力を尽くして参ります」

 粛々と家長に従う素振りを見せれば、祖父も伯父達も疑う様子も無い。父と兄が、素直に従い、反論も抵抗も試みない私を少し拍子抜けしたように見ていた。


 トントン拍子に話は進められ、但馬本家に縁のある山伏の修験道場、九州は英彦山ひこさん術院霊山で修行に入り、促成栽培の胡瓜かピーマンよろしく、数週間で術者として前線へ向かうこととなる。


 伯父と従兄弟達から、代々の先祖による手書きの写本らしきもの、そのコピーの束を一冊に綴じた、家伝の道術と霊術の本がそれぞれ一冊づつ来る。伯父達からは新品が、従兄弟達からは従兄弟達の細かい書き込みの入ったモノが。


 血が繋がっているだけに、従兄弟達の、勘違い、読み違いをしそうな所の注意書きは参考になった。

 道術も霊術も第五階柢5ランクまでの術と習得法が書かれている。

 学ぶ時間と魔力/霊力があれば、念のためということなのだろうが、今の私には都合がいい。


 第三階柢3ランクの道士の私の意識の裏から、もう一つの我が意識が浮かび上がって来る。


「賢二よ、但馬流の道術と霊術、第五階柢5ランクまでは思い出した。これで、お前も使いこなせるようになったはずだ」

「わかってる。イメージできるよ。本当にご先祖様だったんだな、見ただけで術をまるごと思い出すとか」

「むしろ、何か取っ掛かりになるモノが無いと思い出せないのが、もどかしいくらいだがな」

 百年ほど前のご先祖・但馬兵衛と、私は一人で会話する。脳内で会話すると、頭痛がするようになったので、便宜的に口と耳を使って、人格を分けて脳内ではその整理だけ行っている。

 これから数週間の修行は、兵衛の実戦の勘の戻りと私の学習を兼ねていくことになるだろう。今の私の身体には、実戦はもちろん、術の実践の経験すら欠けている。


 帰る場所は自分で確保する。そのための術も力も蓄える。後少しだ。

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