異世界召喚されたけど俺は元の世界に帰る!

よし ひろし

異世界召喚されたけど俺は元の世界に帰る!

 こんな世界、クソだ!


 異世界? 知らないうちにこんな世界に連れてこられたけど、いい迷惑だ。


 コンビニもないし、ネットもテレビもない。マンガや小説、アニメやドラマの続きが気なってしょうがないけど、どうしようもない。

 多少チートな能力が使えたからって、元の世界のような便利さがここには皆無だ。生活のありとあらゆる面が不便でしょうがない。


 勇者? 知らないよ、そんなの。


 何かというと戦いだ。日本の平凡なサラリーマンが、特殊能力があるからといってすぐに戦闘のスペシャリストになれるわけないだろうが。クソが!


 まあ、いいことがないわけではないよ。ヒーロー気分にはなれたし、可愛いおねえちゃん達と色々できたし、珍しいものも色々見れたからね。


 でも、やっぱりダメ。


 俺はもっとのほほんと生活したい。身近に戦いがある生活なんてやってられない。


 それに何もよりもイヤなのが――臭い。なんていうか、日本は清潔な国だったんだよなぁ、と強く認識させられる。アニメなどの異世界では全く伝わらないのが、この匂いだろうな。ごみ処理も下水処理も整備されていない世界では、生臭い匂いが世界に満ちている。

 戦闘になれば、血も飛び散るし、肉を裂けば内臓も飛び出す。臭い。

 魔法でどうにか――出来ればよかったね。そんな便利な魔法はなく、せいぜいが香水をまく程度。でも、その香水もきつくて……

 だから、人も臭い。


 もう、ダメ。耐えられない。こんな世界で死にたくない。

 そういうことで、俺は元の世界に戻ることにした。


 自らに与えられたチート能力を最大限に活かして、異世界転移の秘密を知る巫女様をたぶらかし、寝物語にその秘密を聞きだした。その情報を基に、王宮の地下にある『門の間』へと忍び込み、巫女様から聞きだした方法で、元の世界へのゲートを開くことに成功した。

 今、目前にそのゲートが開いている。


「よし、帰るぞ俺は、元の世界に!」


 俺は自らに強く言い聞かせ、光り輝くゲートの中に飛び込んだ――



☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「……ここは?」


『三番ホーム、急行電車が通過します。危ないですから白線まで下がってください』


 駅員のアナウンスの声。周囲から伝わる人ごみのざわめき。


「ああ、帰ってきたんだ、日本に……」


 左右を見回し、確認する。

 朝の通勤ラッシュ。ホームには溢れんばかりの人。でも、あの世界程臭くない。みな身綺麗だ。


「俺は――」

 自分の姿を確認する。出社時のダークグレーのスーツ姿だ。先程までの勇者の恰好ではない。


 朝のラッシュ。いつもと同じ、駅のホーム。


「そうだ、あの時も――」

 記憶が戻ってくる。そうだ、異世界に飛ばされる前も同じようにこの駅のホームにいた。

 会社に行こうと、いつも通り家を出て、この駅でいつもの電車を待っていた。

 そして――


「あっ!」


 誰かに突き飛ばされた。

 体がホームから飛び出す。この駅にはまだホームドアなんてない。


 近づく急行。通過するのでスピードは落ちない。


「そうだ、思い出したっ!」


 俺は、異世界に飛ばされる前にも同じように電車に――


「何故だ、何故忘れていた――!」


 全身に衝撃。そして、光が――



☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「うっ、ここは……」


「ようこそ、勇者様。我が世界へ」


 その声に顔を向けると、白い巫女風の服を着た愛らしい女性がそこにいた。


「勇者…? ここは――」


「ここは、あなたのいた世界とは別の世界。勇者たるあなたの力を借りたくて、召喚いたしました」


「別の――異世界か!」


 どうして、こんなことに……

 確かいつも通り朝家を出て、駅で電車を待っていたはずが――


「どうしたんだっけ、思い出せない。でも、何か、光が――」


「色々戸惑うこともあるでしょう。しかし、これからゆっくりと説明していきます。とりあえず、参りましょう、勇者様」


「勇者……」


 あれ、なんだ、この感じ。前にも……


 ダメだ。思い出せない。既視感デジャヴュって奴か? 異世界アニメの見過ぎかな。


 まあいい。異世界か。勇者というからには、何か特別な能力があるのだろう。

 平凡なサラリーマンの生活には飽きてきたところだ。


 楽しむとしようか、異世界生活を――



おわり(永遠に続く)


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