あなたはまだ、すき家の深淵を知らない
「ふぅ~、今週も一生懸命働きましたわ」
すたみな太郎での週末グルメを楽しんだ翌日から、私はまた六日間の勤労に勤しむ。
2つ掛け持ちでのバイトは大変だが、今の私にとってはそれすら週末グルメを楽しむ為のエッセンスでしかなかった。
「エマちゃん、お仕事お疲れ様。明日はお楽しみの週末グルメの日だけど、エマちゃんからは何か『こういうものが食べたい』っていうリクエストはある?」
同じバイト先の先輩である春香さんが話しかけてきた。
それだけで私は幸せな気持ちに包まれ、最近ではその週のバイトが終わった後に春香さんの声を聴くと、空腹感を覚えるようになってきた程だ。
「そうですわね~。具体的なリクエストがあるわけではありませんが、偶には『もう食べきれない!』というぐらい食べてみたいですわね」
「量か~。エマちゃん、見かけによらず食べるもんね」
「そう言われると少し気恥ずかしいですが、昔から家族の中で一番食事を楽しむ方ではありましたわね」
基本的にその日の食事はスーパーの半額シール弁当で済ませている私。先日の週末グルメではお腹いっぱいに食べる事はできたが、今でも量への欲求は満たされていないのだ。
「そうだな~。……あ、そういえば。エマちゃんって牛丼は食べた事ある?」
「牛丼ですの? いえ、存在は知っているのですが、食べた事はありませんわね」
「これまでの人生で一度も牛丼を食べた事がないって、本当にエマちゃんは私とは別世界の住人ね……」
「何を言っていますの。以前から同じ世界に生きておりましたし、今では同じ職場の先輩後輩ですわ」
右も左も分からない私に、本当に1から色々と教えて面倒を見てくれた先輩である春香さん。そして疲れ果てて疲弊していく私に、週末グルメの楽しみを与えてくれたのも春香さんだ。
そんな恩人の妄言を、私は一蹴した。
「……そうね。じゃあ、頼れる先輩として、エマちゃんのリクエストを叶える週末グルメへ招待するわ!」
「ええ、是非とも明日も私をエスコートして下さいまし♪ それで、今回は何処に連れて行って下さいますの?」
「今回は有名牛丼チェーン店【すき家】よ!」
「ああ、すき家。以前、CMを観た事がありますわ。確か並盛や大盛りといった量を選んで注文するんでしたかしら?」
すき家。妙に耳に残るフレーズの歌と共にCMを流す、有名牛丼チェーン店。行ったことは無いが、私でもその存在は知っていた。
私の持つ浅い知識があっているか確認するため春香さん質問すると、質問された春香さんはニヤリと笑った。
「ふっふっふ。エマちゃん……あなたはまだ、すき家の深淵を知らない」
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