食のテーマパーク
驚愕する私を見て笑っていた春香さんは、満足そうに解説を始めた。
「エマちゃんは子供の頃に、親から『食べ物で遊ばない』とか『行儀が悪い』とか怒られた事ない?」
「いえ、ありませんわね」
「そ、そう。……まぁ、下々の者は少なからず幼少期にそういった経験があるわけよ」
「ほほぅ、家庭の所得によって食事マナーに違いが出るとは、中々面白いですわね」
豆知識が増えたとばかりに頷く私を見て、春香さんは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、それは置いといて。でも、食べ物で遊んじゃいけないってのはわかるでしょ?」
「それは勿論当然のことですわね」
私がそう断言すると、春香さんは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。
「そう! でもね、エマちゃん。ここでは違うの。ここはね……遊びながら食事を楽しめるのよ!」
「な、なんですって⁉」
春香さんの言葉に驚愕する。
その言葉は、私の常識をいとも簡単に打ち壊してみせたのだ。
「ただし、これにはたった1つのルールを守る必要があるわ」
「たった1つのルールですの?」
「そう、たった1つのルール。それは『取ったら責任を持って全部食べる』という事よ」
「遊びながら食事を楽しむ。そしてそれには責任が伴う……。何とも深い話ですわね」
私はすたみな太郎の奥深さに圧倒され、すたみな太郎にある種の真理を見出した。
そう、行動とは責任なのだ、と。
「さぁ、エマちゃん。あなたは今、すたみな太郎の深淵を覗き見たわ。あとはそこに飛び込み……支払った料金以上に楽しみ尽くすだけよ!」
「ええ、勿論ですわ! 春香さん。どうか私を導いて下さいまし!」
そうして私は春香さんの手を取り、すたみな太郎の深淵へと飛び込んだ。
春香さんに教わりながらの綿菓子作りにクレープ作り、パフェ作り。それら手作りデザート類ばかりではなく、既製品の料理にも色々と手を出した。
食事の順番やマナーなど、ここには存在しない。ドリンクすら機械から出てくる様々な種類のドリンクをブレンドして、まずい物ができたと笑いながら飲み干すのだ。
そうして時間は、食事を楽しみ尽くしていく代償としてどんどん溶けていった。
「ふぅ、なかなかに食べましたわね」
「一度にいろんな種類を攻略しようと二人でシェアしながら食べてたけど、流石に食べ過ぎたわね」
テーマパークの制限時間が迫り、胃も心も満足して店から出る私たち。
だが、すたみな太郎はこれで終わりではない。
「春香さんがおすすめしていた、お肉に綿菓子を乗せて醤油を垂らして焼く『すき焼き風焼肉』は美味しかったですわね」
「でしょ♪ それにあれも美味しかったよね」
食事後の帰り道、すたみな太郎での思い出話で盛り上がる。
これも食のテーマパークの楽しみ方だった。
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