いざ、すたみな太郎へ!

「さぁ、準備は万端ですわ!」


 今日は早起きして歯を磨き、ダイソーのコスメで軽くメイクをして準備を整えた。

 最初は抵抗感のあった100均コスメだったが、使ってみれば意外な程悪くなく、スキンケア用品に至っては1つ十数万円の物を数種類使うより、格安大容量のアロエ化粧水とニベア製品、それにダイソーで購入した複数のスキンケアグッズを組み合わせた方が肌の調子が良かった。

 その事実を目の当たりにした時の衝撃は今でも忘れない。


 そんなこんなで準備を整え、車で迎えに来てくれる春香さんを待つこと5時間。ついにその時はやってきた。

 私のスマホからピロンという着信音が鳴り、光の速度でスマホをタップしメッセージを確認する。そこには、アパートの前に到着して待っていると書かれていた。

 私は急いでスマホをリュックに突っ込んで、春香さんの元へと向かう。


「お待たせ致しましたわ!」

「全然待ってないよ。それどころか、メッセージを送った直後にやってきて驚いてるぐらいだから」

「それは良かったですわ。それでは、参りましょう!」

「あはは、エマちゃんは気合い十分だね。……それにしても、今日もジャージにリュックなんだね」


 そう言って春香さんは少し微妙な顔をした。


「この服装こそが効率を突き詰め、その末に行き着いた私の正装なのですわ! 何も恥じ入る部分は一切ありませんの!」

「まぁ、エマちゃんがそれで問題ないのであれば、それでもいいんだけど……。エマちゃんは普通に美少女だから、やっぱり勿体ないって思っちゃうのよね」

「あら、そう言って頂けると素直に嬉しいですわ♪ ですが、見てくれは私のお腹を満たしてはくれなかったんですの。ですから、これで十分ですわ」


 春香さんは「本当にエマちゃんは逞しいね」と笑い、私を車に乗せて目的地へと出発した。


 ◆


「ここがすたみな太郎ですの? あら、すたみな太郎とは焼肉とお寿司の食べ放題店でしたのね」

「他にも色々あるわよ。何と言っても食のテーマパークだからね」

「ほほう、それは胸が躍りますわね♪ それで、味の方も美味しいんですの?」

「……すたみな太郎では色んな物が食べられるわ。何て言ったって食のテーマパークだからね」

「え、あ、いや、ですから味は……」


 春香さんは私の質問に答える事なく、車を降りて店内へと向かった。私は今からでも逃げ帰るべきだろうか……。

 そんな心配をしながら入った店内は、想像していたような恐ろしい場所ではなく、店内を見渡すと様々な種類のお肉やお寿司、それ以外にも色んな料理が並べられていた。

 ここは先払い制のようで、土日祝ランチ料金で支払いを済ませ席についた。


「春香さん、あの子供たちが集まっている所は何ですの?」

「ん? ああ、あれは綿菓子機ね。エマさんは綿菓子って知ってる?」

「いえ、存じ上げませんわ」

「綿菓子知らないんだ……。まぁ、雲みたいにふわふわな甘いお菓子よ。ここでは他にもソフトクリームの機械やクレープ作り体験もできるから、あとでやってみましょう」

「お菓子作りを体験できますのね! 流石、食のテーマパークですわ!」


 それから春香さんは私を席に残し、大皿に複数の種類のお肉を乗せて戻ってきた。


「まずは、すたみな太郎を知る第一歩として、このお肉たちを食べてみて」

「何か含みのある言い方ですわね」


 私は楽しそうに笑う春香さんを警戒しつつ、持ってきてもらったお肉を焼いてパクリと食べてみた。


「か、硬いですわ! それにこちらは、ほぼ脂肪の塊ではありませんの!」

「まぁ、値段相応ってことね。ただ、ちょっとフォローすると、このお店のお肉って日によって当たりはずれがあるのよ。今日はたまたま外れを引いちゃったみたいね」


 週末グルメを楽しみにしていた分、一口目のお肉には落胆が強かった。もしや、この後の食事もこの感じが続くのだろうかと急激に気持ちが落ち込んでいく。


「まぁまぁ、そんなに落ち込まない。それにエマちゃんはまだ、すたみな太郎の神髄を見ていないわ」

「すたみな太郎の神髄ですの?」

「エマちゃん。左後ろに居る、高校生たちのテーブルを見てみて」


 私は春香さんの指示を不思議に思いつつ、指示通り高校生たちの座るテーブルを覗き見た。


「なッ!?」


 そして私は驚愕する。


「ア、アイスを……お肉に乗せている?」

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