没落お嬢様の週末グルメ

七瀬 莉々子

没落お嬢様のお楽しみ

 私の名前は【如月エマ(きさらぎ えま)】。

 日本人の父とフランス人の母から生まれ、幼い頃から上流階級の生活を送ってきた。パリ郊外の広大な屋敷には、手入れの行き届いた庭園と噴水があり、専属の家庭教師や音楽の先生による英才教育が私の日常だった。

 

 私が10歳の頃、父の事業の関係で私たち家族は日本へ移り住むことになった。

 日本での住居は母が設計にこだわった東京郊外の洋館で、庭には四季折々の花々が咲き、家の中ではフランス語と日本語が飛び交う日々が続いた。母は知人を招いてパーティーを開き、私はその場で言葉の橋渡しをしながら交流を楽しんだ。


 そんな私は今……。


「店長、お疲れ様ですわ」

「エマさん、今日もお疲れ様。それにしても頑張るねぇ。ここ以外にもバイト掛け持ちでしょ?」

「今のところは2つ掛け持ちして、週6で働いていますわ。まぁ、正直慣れですわね」


 スーパーとコンビニのバイトを掛け持ちで働く、貧乏生活を送っていた。

 

 父の経営する会社が倒産してしまい、それから私の生活は大きく変わってしまったのだ。

 両親は再起を狙って母の母国であるフランスへと向かう事になったが、私はそれに着いて行かなかった。私は頑張る両親の負担を少しでも減らすために、日本で自立する道を選んだのだ。

 それからは、バイト三昧の貧乏生活。あらゆることが今までと違い、いくつもの失敗と挫折を味わいながら、時に涙で枕を濡らしながらも歯を食いしばって生きて来た。


 ――けれど、それでも私が耐えてこれたのは、週1で行われる【週末グルメ】のため!

 

 私は店長との挨拶を終えると、取り置きでいつも購入させてもらっている半額シール付きのお弁当をエコバックに詰め、着替えを済ませて更衣室から出る。

 そして私は週末グルメへのプレゼンターのもとへ勇んで向かう。

 

「春香さん! 今週も私、頑張りましたわ! さぁ、明日は私を何処へ連れて行ってくださるの!」


 私はバイトの先輩である春香さんに、流行る気持ちを隠すことなく声をかけた。もう胸が期待でいっぱいなのだ。


「エマちゃんは今日も元気だね。……ふっふっふ。明日はそんなエマちゃんを楽しい所に連れて行ってあげよう♪」

「楽しい所ですの⁉」


 春香さんの言葉に期待感がぐんぐんと上がっていく。


「そう、きっとエマちゃんも楽しんでくれるであろう、楽しい所……。食のテーマパーク【すたみな太郎】にね!」


 明日は私の生きる糧、私の癒し、【週末グルメ】の日だ!

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