第2話 無法者は旅立つ
ヴェルナー達と別れた後、孤児院に入ると椅子に座ったシスターが寝ずに待っていた。
「シスター、寝てなかったのか?遅くなるから先に寝てていっていたのに…」
「スレイブ。お帰りなさい。少しだけあなたと話したくて…」
シスターは隣の椅子に座るように言われ丸椅子に腰かけた。表情が暗く暫くの沈黙のちでた言葉は謝罪だった。
少なくともこの孤児院には数十名の子どもがおりそれを食わせるだけの経済力がない。そのために教会や国からの支援金と俺の寄付金でなんとか経営できていた。
──だが、教会側が聖女争いのために資金を回すために当分の間は打ち切りになってしまう通達が先日届いたばかりだ。
俺自身も傭兵として報酬でそれなりの額を稼いでいるが暫く前にあった隣国との小競り合いの戦争で敵将を撃ち取ってきた。暫くはこれで運営も大丈夫だろうと思っていた。
だが、指揮を取っていた貴族の言動に腹を立ててぶん殴りそのまま大暴れしてしまい傭兵としてのギルトからの傭兵活動の禁止令を出されてしまった。
自業自得なのは理解している。──だが、年端もいなかない子どもの命を、傭兵の命を蔑ろにする言動が許せなかった。
あの時近くにいたヴェルナーや他の傭兵仲間が止めなれば、首を斬り落として貴族殺しの罪で処刑されていたかもしれない。
まぁ、そうで無くても俺が棲んでいる浮遊島の領主は民からかなりの税を取っているために孤児院の運営は苦しい。
そもそもこの浮遊島自体が豊かではないからだ。ある程度は田畑もあるが痩せこけた畑しか育たない。
俺らが暮らしている浮遊島自体に魅力がないために無茶をしてでも自由に扱える土地が欲しいのだ。
冒険者としての得た所有物は発見した冒険者にけんりがある。実際に浮遊島を発見して持ち帰ってきた冒険者自体がここ数十年いないが…。
「本当に行くつもりなのですか?いくらスレイブでも危険な旅になるのでありませんか?」
「…危険もクソネェよ。傭兵冒険者なんて魔獣討伐や戦場での使い捨ての駒だぜ?タダで死ぬつもりはねぇしこの孤児院や他のガキどものためでもあるんだぜ?」
シスターは暗い表情のまま再び謝罪をするが、実際のところ問題があるのは領主と教会側だ。
そもそもの教えとしてどちらも弱者を救うと教えにあるのに聖女争いのために助けれなければない弱き者を見捨ててなる聖女に存在価値があるのか?
──そんな
金ばかり掛かって支援を滞らせる聖女争いが起きている時点で
それで孤児院のガキが飢えて死んだらどうなるんだって話だ。
聖女も女神も綺麗事ばかり並べて救ってくれねぇまやかし物に過ぎない。
必要なのは食うために必要な安定した食料時給と安定した仕事を与えられる秩序を造る必要がある。
だが、上の連中が学があっても平民の暮らしをわかっていない。
いや、そもそも生活そのものが違うのにわかるはずがないのだ。
そのせいでシスターが必死に金銭を工面したり少ない食料をガキどもを食わせるために工夫をしている。
──そして、自分がそうさせたと罪悪感から謝罪をするシスターを見て聖女や女神という存在を認めたくないという想いがある。
身寄りのないガキを集めて育ててる優しいシスターに俺は救われた。国が教会が支援してくれないなら俺が金を稼いで支援すればいい。
聖女や女神が助けてくれなければ俺が力で助ければいい。
「シスター。謝らないでくれ。俺はアンタに助けられた。助けられた筋を通せない野郎は玉を取られるからな…」
「そんなことはないですよ。スレイブはずっとこの孤児院のために身を削って稼いで支援してくれたのを私は知ってます。けど、スレイブ。もう貴方は自由に生きていいのですよ?私たちのことは…」
「…それをやったら教会や国のクズと同類になるからヤダ。俺はシスターに言われた『
シスターは申し訳なさそう顔をするとテーブルに置いていた右手を両手で掴むと無事に帰ってきて欲しいと涙ながらに言われてしまった。
◇◆◇◆◇
次の日の朝、孤児院の自室で目覚めると身支度を整えて孤児院のガキどもに理由を説明すると話を理解しているヤツと余りわかっていないヤツらの半々だ。
シスターがせめて見送りをしたいというので孤児院のガキどもを造れて副業で働いている飛行艇の工場に向かう。
この浮遊島で安定した職場であり職人達が慌ただしく働いている場所で唯一この地でマトモな職場でもある。
工場に着くと既にビアンカ、クラリスが待っていた。
「小僧!!テメェこんな小舟で竜の巣に挑むつもりなのか!?」
大柄な体格でハゲ頭で顎髭を蓄えたこの飛行艇の工場の親方であるダングがヴェルナーから話を訊いたようだ。
親方は俺に死ぬ気か訊ねてきたが死ぬ気はねぇよと軽口を叩く。
「…ある程度メンテナンスはしておいてやった」
「…青二才が造った小舟の手入れはしねぇんじゃ無かったのか?」
「男が覚悟を決めて挑むっつってンのに協力しねぇ男は職人じゃネェからな。生きて帰っていい酒飲ませろよ?」
そういって軽く胸を叩いてきた。少なくとも孤児院時代から働かせてもらってる職場で傭兵冒険者ギルドに登録してからも仕事をさせてくれている場所だ。
そして、ガキの頃から世話になった一人でもある。
「一流の職人のダングの親方がメンテしてくれたなら竜の巣も踏破できるだろ?後は傭兵冒険者としての腕の見せ所だ」
「はっ!小僧がいうようになったな!」
「少なくともガキどもに少しでもマシな飯や仕事が与えられる場所見つけねぇとならねぇからな…聖女や女神は信じてねぇけど親方の職場としての腕は信じてるよ」
「ふんっ ──なら、無事に生きて帰ってこい。その時は取って置きの酒で祝ってるわい…」
ダングの親方にそういうと一隻の小さな船を見つめた。廃材を集めて試行錯誤しながら部品を作り組み立てたものだ。
そして、一流の職人であるダングの親方がメンテナンスしたしっかりした小型の飛行艇だ。
プロペラのエンジンが取り付けられ、操作もしやすいようになっていた。
大型の飛行艇のように内部はない。
外にずっといるために直射日光を避けるためにローブと積めるだけの水と食料積み込む。
武器である片刃剣を腰に着けて船に乗り込んだ。
動力源である魔石に自身の魔力を送り込むことでエンジンが始動しプロペラが旋回し始める。
浮遊島から徐々に離れていく。ふっと、下を見るとシスターやガキどもが手を振り、ヴェルナーとダンクの親方が拳を向けていた。
──俺は大空への冒険への一歩を踏み出した。
必ず生きて帰ってガキどもが飢えないような土地を持ち帰ると心に近い舵を握り締める。
無法者は聖女様が大嫌い 左投げ右打ち @tmo09580712
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