無法者は聖女様が大嫌い
左投げ右打ち
第1話 無法者は領地を欲しがる
──人は生まれながらに平等じゃない。地位のある家庭に産まれればその地位で学や剣術を学べられる。
平民に産まれても才能に恵まれていればそのなりの成功を納めることができるだろう。
逆にも持っていない者は自らの命を掛けるしかない。
孤児院育ちである俺ことスレイブは傭兵冒険者としてそれなりに成功をしている。
これまで様々な戦場や危険区域に赴いて生き延びてきた。
だが、傭兵冒険者は命を賭けるわりに稼げない。
「──
ため息まじりの俺の言葉に丸テーブルの対面でジョッキ樽を片手の話を聞く傭兵仲間である人狼族のヴェルナーが耳を動かす。
「資金ってお前が世話になった孤児院のか?」
「ああ、領主と教会が援助を打ち切りやがったよ」 「それは仕方ねぇよ。この浮遊島は金ならねぇ土地だしな」
俺ら暮らしている世界では浮遊島と呼ばれる島が空を漂っている。島を浮かせている
──中にはダンジョンを保有している島もある為に傭兵冒険者はその領主に雇われてダンジョンを踏破や他国との戦争の際に雇われるための
俺もヴェルナーも傭兵冒険者ギルドに登録しているがそういったダンジョン攻略には国の騎士団が攻略をする決まりがある。
傭兵冒険者である俺達の主な仕事は魔の大陸があると呼ばれる【竜の巣】から現れる魔獣の討伐や敵対国との戦争に駆り出される。
そこでそれなりの武功を上げても傭兵冒険者ギルドに何割か持っていかれ手元に残る金は僅かだ。
そのため傭兵冒険者ギルド内にある酒場で安い
愚痴をこぼしながらジョッキ樽の
すると、ヴェルナーは苦笑いしながら話し始める。
「まぁ、この前の戦争でお前やり過ぎたからな…」
「あー、ブタ軍師のことか?」
「貴族相手に殴るか?普通よ? せっかく敵将捕らえたのにそれで手柄パーにしたのお前じゃねぇか?」
「それで仲間が何人死んだと思ってんだ?首切り落とさなかっただけ褒めて欲しいぜ?」
「確かに【首斬り】スレイブが首切り落とさなかっただけ儲けもんか?」
ヴェルナーが固いパンを指でちぎり口に放り込む。
十歳という若さで戦場にでて数々の死線を越えてきた。
理由は単純に首さえ持ち帰れば証拠として十分な報酬が貰えるからだ。魔獣だろうと人だろうと容赦なく首を落として献上した。その手柄ゆえについた異名が【首斬り】だった。
「つーか、スレイブよ?孤児院の寄付続けるのはいいが仕事はどうするんだよ?飛行艇の工場の仕事も続ける気か?」
「いや、実は工場の仕事の傍らで小せぇ飛行艇を造ってたンだよ。それで…」
ヴェルナーに今後の計画を話そうとした矢先扉が慌ただしく開きその場にいた傭兵冒険者達が視線を向けた。
二人の甲冑を纏った美女。この辺りを警護している第二騎士団のメンバーであり顔見知りである。
「ゲッ…」と体格の良い傭兵冒険者のおっちゃんの影に隠れるようにしたが、ヴェルナーが呆れた。
「スレイブ。それは隠れたうちに入らねぇぞ?どうせ、アレはお前への勧誘だろ?」
「第三騎士団か第二騎士団に入れてぇらしい」
「あー、なるほどな。けど、したっぱって確か…」
「今の俺の収入より給与が低い」
「そりゃ断るわな…」
「まぁ、理由は他にもあるがな…」
「見つけました!スレイブさん! 孤児院の寄付の話なんですが…あ、お肉食べさせて下さい!」
「クラリス!スレイブに失礼だろう!?」
「喧しいのが来たな。あー、ネェチャン、悪いけど、二人分の酒と肉四人前追加で…」
近くに来ていた給仕のお姉さんに追加で注文をする。
「…金ねぇんじゃ無かったのか?」
「しゃーねぇだろ?コイツらは手の掛かる姉みたいなもんだからな…」
ヴェルナーが呆れた様子でため息をついた。この二人は孤児院にいた頃に出会ったクラリスとビアンカ。俺が傭兵冒険者ギルドに登録する前はよく三人で働いていた。
まぁ、その後に二人に回復魔法の適正があってこの国の教会の一つであるミリア教会に引き取られた。そして、今や第二騎士団の騎士様だ。
「スマン。ミリア教会の孤児院の寄付の件だが…」
「ある程度は事情は聞いたよ『聖女争い』だろ?」
「その通りだ。最近、聖女を名乗る者が他国に現れてな…」
「信憑性あるのかよ?前のも偽物で晒し首にしたんだろ?」
「んー【聖女】その者の価値がありますからねぇ。因みに私も【鉄拳の聖女】として祀り上げられそうになりましたからねぇ」
「…それ聖女としてどうなんだよ?」
話を聞いたヴェルナーが顔を
隣国のルミリアナ聖王国は【慈愛の女神・ルミリアナ】を進行している宗教国家。
この二人が所属しているミリア教会は【勇猛の女神・ミリア】を信仰しる。
──無宗教の俺からすれば女神の教えが違うだけの話だ。
パンをちぎってクラリスを餌付けしているとヴェルナーが呆れた様子で
「で? スレイブ。さっき何を言おうとしたんだ?」
「ああ、造ってた飛行艇で浮遊島を探すつもりだ」
「ブッ!?お、お前マジなのか!?」
ヴェルナーが口に入れた酒を吹き出して噎せる。クラリスが背中を擦るとビアンカが見つめると不安そうに訊ねてきた。
「…本気なんだな? 命の保証はないぞ?」
「このままじゃガキどもが飢えて死ぬのが早い。それに『何ももってねぇ』傭兵は命を掛けるしかねぇだろ?」
「そりゃそうだが…」
「王国の大型飛行艇でも成功率は低いのだぞ?こういったらあれだがスレイブが造った船では…」
「その辺りは考えがある。俺が目指すのは場所は【竜の巣】の浮遊島だ」
「……俺も付き合い長いから何となく分かったが、ムチャすぎやしねぇか?」
「それってどういう意味ですか?それに【竜の巣】って…?」
「…【竜の巣】は強風が吹き荒れる空域でドラゴンが目撃されている危険区域なんだ。どの国の飛行艇艦隊でも未だに浮遊島を持ち帰ってきた者はいない」
傭兵冒険者も資金を集めて飛行艇を購入して未開の浮遊島を求める者も少なくはない。
──が、魔獣が飛び交う縄張りや急な悪天候などが襲いかかり無事に浮遊島を発見したとしても無事に帰還した者は片手で数える程度しかいない。
給仕のお姉さんが追加の料理とエールを運んで来るとクラリスが肉にかぶりついた。
ビアンカが謝罪をしてくるが実際に旨そうに肉を食べるクラリスは見ていて微笑ましい。
できることなら孤児院のガキどもにも同じ思いをさせてやりたい。少なくともこの領地や教会の寄付頼りでは食わせてはやれないし、仕事も満足にない。
「孤児院のガキどもを安定して食わしてやりてぇ。そのためには土地と環境がどうして必要なんだ」
「それはいいですねぇ~子ども達にはたくさん食べて成長して欲しいですから」
「だろ?俺も飢えに苦しんだ経験もあるからな。聖女の救いより俺たちみたいな連中は明日食える飯とそれを買う仕事のが重要なんだよ」
「わかりますよ。ただそれってスレイブが無事に帰ってくる保証はないですよね?」
クラリスは食べていた骨付き肉を皿の上に奥とジッとこちらを見つめてくる。
確実に生きて帰ってこれる保証はない。──だが、冒険者は危険を置かしてこその冒険者だ。
「どうせ、暫くは傭兵として派遣される現場もねぇから冒険者として活動するだけだ」
「わかりました。ただし絶対に帰ってきてまたご飯を一緒に食べましょうね?」
クラリスはそういって笑みをこちらに向けた。ビアンカとヴェルナーは顔を見合わせるとジョッキを持ち俺に向けてきた。
「なら、私もスレイブの悪運に賭けるとしよう」
「俺もだ。お前がいない間は孤児院は俺に任せろ」
「……悪いな。頼むぜ?──戦友」
ジョッキを取り二人のジョッキに当て中身のエールを飲み覚悟を決めた。
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