第2話ガーデン星へ

 アーリアのお小言から逃げ出し、ハクはルディとシャルを連れて戦艦ルーンネトラを飛び出した。

「ふう…危ない危ない。あれは1時間コースだったな」

「もー、ハク様がアーリアを怒らせるから」

「仕事が終わらないんだから仕方ないだろう」

「ハク様、その内過労で倒れてしまいますよ?」

「だろうな」

「だろうな、じゃないんですよ!」

「私はルディにも怒られるのか…?今すぐ逃げようかな」

「に が し ま せ ん よ ?」

「ルディルディ、あんまりハク様をいじめるな」

「なんだ?私は2人にディスられているのか?」

「い、いえ!決してそういうわけでは!」

「冗談だ。ほら、もうすぐグレイシアの城…」

ピタリと、ハクは城の前で立ち止まった。

「ハク様?」

「どうかされましたか?」

「…いや、なんでもな」

ゴッ!!!

急に開いたトビラに思いっきり頭をぶつけ、ハクは尻もちをついた。

「「ハ、ハク様!?」」

「大丈夫ですか!?」

「意識あります!?」

ハクは何も答えない。

ただじっと、トビラを見つめている。

「いってぇ…」

やがて、トビラの裏側に張り付いていた人物が体をはがし、こちらを見た。

明るい茶髪に白の服、青いジャケットを着ている青年。

「あ、もしかしてトビラの前にいたのか?悪い!ちゃんと確認してから開けりゃよかった…。ホントゴメン!ケガはねえか?」

「…あぁ」

「よかった~…。ホントゴメンな!」

「こらー!待ちなさいドロボー!」

中からグレイシアの声がした。

「いっ!だーかーらー!オレは何も盗んじゃいねぇよ!あ、もうあんたでいいや。焦げ茶色の髪の男には十分気をつけとけ!じゃあな!」

青年は走り去ってしまった。

ハクは立ち上がって、閉まったトビラをもう1度開こうと手を伸ばしたその時

ゴンッ!!

再びトビラが勢いよく開き、ハクはまたもや頭をぶつけた。

「「ハ、ハク様!!」」

「あ、あれ?ハク?こんなところでどうしたの?」

「…私は今日、何かしたのか?」

「何かしたとすれば…」

「アーリアの呪い…。恐ろしい…」

「いや呪ってませんから!」

アーリアの声がした気がするのは気のせいだろうか?

「ピュート?何して…ってハク様頭!血が出ていますよ!?い、一体何があったんですか!?」

「この城のトビラとピュートにやられた」

「えぇ!?ぼく!?あ、もしかして、トビラの前にいたのハクだったの?もー!危ないじゃん!」

「なんで私が怒られるんだ…」

「と、とにかく手当てしますから!中入ってください!部下様たちも!」

ランディに連れられて城内に入ったハクたちは、城内の様子を見て絶句した。

「な、何がどうなりゃこうなるの?」

「台風でも通ったのか?この城…」

城はことごとく荒れていた。

「あらハク!来てくれたのね…って、どうしたの、その頭!」

「この城のトビラにやられた」

「だってー!トビラ開けたらハクがいたんだもん!でも、ケガさせちゃったのはぼくだよね…。ごめんね、ハク」

「別に構わない。あんな所で突っ立っていた私が悪いだけだから」

ランディに手当てしてもらいながら、ハクはグレイシアに問いかけた。

「で、一体どうしたんだ?トビラの所で茶髪の青年とぶつかったんだが」

「そいつ!そいつがドロボーなんだよ!」

「ドロボウ?」

「急に現れて話しかけてきて、ビックリして追いかけたら逃げちゃうんだもん」

「そりゃ追いかけたら逃げるだろ」

「焦げ茶色の髪の男には気をつけろ、とかワケ分かんないこと言うしさぁ」

「…とにかく、彼は何も盗んでいないと思うぞ」

「どうしてですか?」

「盗みの割には軽装だったし、出る時何も持っていなかった。それに、彼は私とぶつかったんだが、その時すぐに謝ってくれたんだ。普通ドロボウならぶつかった相手を前にして謝ることも心配もしないだろう」

「確かに…。でも、じゃあ彼は一体誰だったのかしら…?」

「それは分からないが…。?そういえば、ルオンはどうしたんだ?さっきから姿を見ていないが」

「あぁ、ルオンなら、少しおつかいを頼んだの。もう少しで帰ってくると思うわ」

「そうか。…では、今のうちに少し話をしておくか。ランディ、ありがとう。もう大丈夫だ」

「それにしても、ランディ?どうしてこんなに汚れちゃったの?ドロボウさんのせい?」

「いえ、ほとんどはピュートとグレイシア様です。ビックリした2人がこのようなことに…」

「なるほどな…」

「ご、御愁傷様です…」

「ルディ、シャル、グレイシアと少し相談をしてくるから、そうじを手伝ってやってくれ」

「了解です!お任せください!」

「おぉ…ルディからすごいやる気と熱意を感じる…」

やる気満々のルディがものすごいスピードでそうじを始め、グレイシアとハクは別室で話し合いを始めた。

「それでグレイシア、気がかりなこと、とは?」

「えぇ…。ハクに手紙を送る前日に、ガーデン星の重臣のルーテさんって存在から手紙がきたの。庭園の花が枯れてきてるから助けてほしいって」

「…」

「でも、変だと思わない?ガーデン星はこのルナ・ムーンよりももっと都会の星よ。頼みのつてはまだまだたくさんあったはず。どうしてこんな、田舎の星に助けを求めるのかしら」

グレイシアの疑問はもっともであり、ハクの疑問と重なるところがあった。

「実は、私のところにも手紙がきたんだ。私の手紙にも、少しおかしな所があってな」

「おかしな所?」

「あぁ。グレイシアは、私が医師免許を持っていることは知っているだろう?」

「えぇ。一応は医者だ、って言ってたわね」

「そうだ。私は、このことを親しい者以外誰にも話していないんだ。それなのに、このルーテという者は私が医師免許を持っていることを知っていた」

「…それは確かにおかしいわね。…今回の事件…」

「あぁ、何か裏がありそうだな」

ハクは目頭を押さえてため息をついた。

「だ…大丈夫?何だかハク、疲れているように見えるわ」

「…別に、何でもない」 

ハクは息をついて、部屋の外に出る。

室外に出ると、2人は思わず声を上げた。

「おぉ~」

「すごい!ピカピカじゃないの!ルディ君がやってくれたの?」

「みるみる内にキレイになっていって、すごかったよ!」

「いやいや、そんな~」

ルディは嬉しそうだ。

「今度、おそうじロボットと対決してほしいな」

「負ける気しないよ!」

「ただいま~。姉上、言われた矢、買ってきましたよ」

「あらルオン、お帰りなさい。ありがとう、わざわざ買ってきてもらって、ごめんね」

「いえ、姉上は忙しそうだったので。問題ありませんよ」

「帰ってきたところすぐで悪いけれど、すぐに出発するわ。ほら、あなたにも見せたでしょう?ガーデン星へ行くの」

「それは構いませんが、一体どうやって?」

「それは心配いらない。私が連れていく」

「お、ハクも来てたんだな。…そのケガどした?」

「トビラにやられた」

「何があったんだよ…」

「まぁ…ちょっと色々」

「あー…なんか大変だったんだな。聞かないでおくわ」

「助かる」

「とにかく!準備するわよ!ハク、ちょっと待っててね」

「あぁ」

グレイシアたち準備をしている間、ハクたちは壁に寄りかかって待っていた。

「ハク様、今回の事件、ハク様はどのように感じているのですか?」

「まだハッキリとは言えないが…ルーテといい、庭園の花のことといい、妙な病、焦げ茶色髪の男、トビラでぶつかったあの青年…まるで、ピースを失くしたパズルみたいだ」

「その失くしたピースを探すのが、今回の最重要手段ってことですね!」

「そういうことだな」

「ハク、お待たせ」

「早く行こう!ぼく、ガーデン星って初めてだよ!」

「遠いんですか?」

「少しな。だが、ワープを使うからさほど時間はかからない」 

「ハクの船、相変わらずすごくたくさんの機能ついてるね」

「古いけどな」

そんなことを言いながら、ハクたちは戦艦ルーンネトラに乗り込んだ。

頭のケガのことで、アーリアに怒られかけたが…

「いや、アーリア、これはホントにハク様悪くないんだ」

「あれは不可抗力だ」

「い、一体何があったんです?」

「…トビラにやられた…」

「へ?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月世界 ハクと星空の庭園~星涙群の下で~ 狛銀リオ @hakuginrio

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画