月世界 ハクと星空の庭園~星涙群の下で~

狛銀リオ

第1話二通の手紙

 ある日の朝、戦艦ルーンネトラに2通の手紙が届いた。

「あ、ハク様!お手紙が届いてますよ!なんと2通も!」

ハクの部下であり、血の繋がらない娘であるアーリアが、手紙を掲げてロビーに飛び込んできた。

ハクの部下は5人いる。

まずは血の繋がらない娘であり、部下内で一番強いアーリア。

クールなシャル。

掃除が大好きなルディ。

口数が少なく、背が小さいルス。

常に目を閉じている、謎に包まれたワド。

それ以外には船の操縦をしてくれているオクト船長と、医師のナセア。

それにハクを加えた8人で、この戦艦ルーンネトラは大体回っている。

「手紙?一体誰からだ?」

「えーっと、グレイシア様と、ガーデン星の重臣、ルーテ様です!」

「って、ハク様がすごい顔してる!」

「ハク様がこんな顔するってことは…」

「だな…」

ルディとルスが顔を見合せ、肩をすくめる。

封を切り、内容を確認したハクは軽くため息をつき、手紙を机の上に置いた。

「なんて書いてあったんですか?」

「両方、用件としては同じだ。読んでもいいぞ」

グレイシアの手紙をアーリアが、ルーテの手紙をルディが読む。

まずはグレイシアの手紙…

『ハクへ

 この手紙があなたの元に届くのがいつかは分からないけれど、ごきげんよう。突然の手紙でビックリしたかもしれないわね。ごめんなさい。実は、ガーデン星の重臣のルーテって存在からお手紙がきたの。どうやら、ガーデン星の方で大変なことが起きているみたい。もちろん助ける気はあるんだけど…どうしても気がかりなことがあるの。もし今、お仕事が立て込んでいなければ、私に会いに来てくれないかしら?

              グレイシアより』

次はルーテの手紙…

『ハク様へ

 突然のお手紙でさぞ驚かれたかと思います。初めまして。私はガーデン星の王に仕える重臣のルーテと申します。早速本題に移りたいのですが、最近、ガーデン星の3つの庭園の内の2つ、朝露の庭園と、夕暮れの庭園の花が少しずつ枯れてきているのです。このままでは、残されている3つ目、星空の庭園も枯れてしまいかねません。それに最近、王宮で妙な病が流行っているのです。それも診ていただきたいので、ご足労ですが、1度、ガーデン星へのご来星を願います

                ルーテより』

「と、いうわけだ」

「なーるほど…ハク様、また見事にトラブルに巻き込まれてますね…」

「…まぁ、毎度のことだから、最近は慣れてきたんだけどな」

「多分それ、慣れちゃいけない類のものだと思いますけど…」

「それにしても…なんでハク様はそんなに難しい顔をされているんですか?」

「…ルーテの手紙には、おかしな点がある」

「おかしな点?」

「ルス、どう思う?」

ハクに突然話を振られたルスは、驚きながらも言った。 

「そう…ですね…。気になるのは、王宮で流行っている妙な病のこと…。病のことなら、ハク様ではなくもっと別の、有名な医師に言えばいいのに、とは思います」

「そこだ」

「え?」

その時

「ハク様、オクト船長が次の進路をどうするか、と」

ワドが入ってきた。

「ワド、ちょうどいい所に来てくれた」

ハクはワドに、事の経緯を手短に話した。

話を聞き終えたワドは

「それは確かに変ですね」

「ワド、一体どこが変何ですか?」

アーリアが不思議そうに聞くと、ワドは丁寧に説明した。

「ほら、妙な病が流行っている、ハク様に診てほしいって書いてるでしょ?」

「書いてるな」

「でも別に、ハク様は医師免許持ってるし、お医者さんっていうのは間違いないからおかしくないけどなぁ」

「いや、まさにおかしいのはそこだよ」

「?」

ルスが首をかしげる。

「確かにハク様は医師免許を持ってる。でもハク様は、それを公にしていない」

「そうか!ハク様と親しいグレイシア様たちならその事を知っていても何の問題もありませんが、ハク様と会ったことも話したこともないルーテ様がこの事を知っているのはおかしいです!」

「なるほどな。つまりこの者は、ハク様の事を調べたということか」

「それもかなり深く」

「じゃぁ、かなり警戒した方がいいよね」

「そゆこと♪」

「正解だ」

ハクが満足そうにうなづいた。 

「ワド、あの情報だけでよくそこまで分かったな。それに、私が医師だということを親しい者にしか話していないということをよく覚えていた。相変わらず、すごい記憶力だな」

「いえ、そんな…」

ハクに褒められたワドは、照れながらも嬉しそうだった。

「オクト船長に伝えてくれ。行き先はルナ・ムーンだ。グレイシアを乗せていく。まぁ、グレイシアだけとは到底思えないが…」

「いつもの4人な気がしますね」

ルディがおかしそうに笑った。

ワドがオクト船長に行き先を伝えにロビーを出ていくと、ハクはほっと息をついた。

「…ハク様、ずいぶんお疲れのようですが…」

「気にするな。いつものことだ。最近は少し忙しくてな」

「あ!まーた寝てないんですか!?」

「いっ…口がすべった…」

「口がすべった、じゃないですよ!またハク様は無理をして…大体、寝てないことがおかしいんですよ!前にも言いましたが、ハク様は自分のことを大切にしなさすぎです!私たちにしてくれるみたいに、もっとご自身を大切に…」


   

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