第12話 ゴブリン殲滅


 洞窟の中を松明の明かりを頼りに進む。



 ジメジメとした空気が肌にまとわりつく。



 新たな目的地は、この先に巣くうゴブリンたちの巣窟だ。



 これまで、この収奪スキルのおかげで、いろいろなスキルを奪い、俺の力は飛躍的に向上している。



 そのため、ゴブリンの集団程度はスキルアップの糧にしたいところだった。



 ゴブリンの巣窟が近づくにつれ、空気中に独特の臭いが混じり始めた。



 獣臭いような、土臭いような、不快な臭いだ。



 同時に、微かな物音も聞こえてくる。



 カサカサという足音、低い唸り声、そして時折聞こえる甲高い叫び声。



 間違いない、ゴブリンたちがいる。



 危機察知スキルが急に赤く光る輝点を浮かび上がらせ、警告音を鳴らす。



 急になんだ? どうした? 足元に赤い輝点が出てるな?



 警告音によって、足元に注意を払いながら進むと、地面に隠された落とし穴を発見した。


 

 枯れ葉で巧妙に隠されているが、注意深く見れば不自然な盛り上がりがある。



 これが、隠蔽されてるってやつか……。危機察知スキルが低いままなら、見つけられずに踏み抜いてたな。



 危機察知スキル、本当に助かる。



 落とし穴の罠を慎重に避け、さらに進むと、今度は頭上に赤い輝点が灯った。



 吊るされた網だ。また、隠蔽された罠か。



 ゴブリンだって油断して突っ込んでたら、罠に捕らわれて逆に餌になるってパターンか。



 これもまた、危機察知スキルがなければ見過ごしていたやつだ。



 ここの洞窟に巣くうゴブリンたちは、なかなか油断ならない罠を仕掛けてくる連中らしい。



 隠蔽された罠を一つ一つ回避しながら、俺はゴブリンたちのいる場所へと近づいていった。



 そして、開けた空間に出た瞬間、目の前に広がった光景に息を呑んだ。



 そこには、数十匹ものゴブリンや数名のゴブリンファイターが集まっていた。



 焚き火を囲んで騒いでいる者、武器の手入れをしている者、寝転がっている者。



 巣窟内で思い思いに過ごしているようだ。



 俺は、すぐに松明を消して岩陰に身を隠す。



 まだ、黄色表示だ。どうやら、ゴブリンたちは、まだ俺の存在を認識してないようだ。



 岩陰に身を隠しながら、ゴブリンたちの状況を静観する。



 連中は完全に油断している。今がチャンスだ。



「火球」



 俺はターゲットマーカーをゴブリン集団の真ん中に合わせ、意識を集中させた。



 魔力が右手の指先に集まり、熱を帯びていく。すぐに赤々と燃える炎の塊、火球が現れた。



「ギャギャッ!?」



 集団の一匹がこっちの存在に気付き、他のゴブリンたちも黄色から赤色へ一斉に変化していく。



「気付くのが遅せえんだよっ! 死ねっ!」



 まごつくゴブリンたちの集団に向け、弾道を計算し、火球を放った。



 轟音と共に、火球は山なりの軌道を描き、慌てふためくゴブリンたちの真ん中に炸裂した。



 爆風と炎が周囲を飲み込み、悲鳴と絶叫が洞窟内に響き渡る。



 一瞬にして、数匹のゴブリンが黒焦げになって絶命した。



 他のゴブリンたちも炎に炙られ、全身火だるまの者が大量に発生している。



「ギィイイッ!」



「もう一発、火球!」



 新たな火球を作り出し、先ほどの着弾点から少し奥へズラした。



 2発目の火球が飛び出していくと、疲労感を覚えた。



「魔法は、これでしばらく撃ち止めだ」



 再び着弾した火球から発生した爆風と炎が周囲を飲み込む。



 新たに爆風の直撃で絶命した者、火だるまになる者が現れ、ゴブリンたちは右往左往しながら、未だに混乱し、甲高い叫び声を上げている。



 絶命した者から収奪したスキルが俺の身体に取り込まれた。




【スキル名】投擲 LV1


【効果】投擲可能な物を投げた際、飛距離と物理攻撃力の向上。




【スキル名】狂化LV1


【効果】自身のATKを一時的に上昇させる




 すぐさま、奪った狂化スキルを意識して発動させた。



 身体中の細胞が活性化したように血が沸き立ち、筋肉が肥大していくのを感じる。



「全員、逃さねえぞ! 俺の糧だ!」



 錆びた剣を握り、近くに落ちていたゴブリンたちが使う粗末な槍を拾うと、火球の惨事に巻き込まれずに残っている連中の掃討に入ることにした。



「ギィギィイイイ!」



「ああぁ? 何言ってるのか分かんねえわ。死ね」



 狂化によって増大した攻撃力を乗せた粗末の槍の一撃で、ゴブリンの顔面を貫く。



 ビクビクと痙攣したかと思うと、ゴブリンは動かなくなった。



 頭蓋骨を貫通した粗末な槍は抜けなかったので、倒したゴブリンの持っていた粗末な斧を手にする。



「ギギィイ!」



「だから、分かんねぇつってんだろがっ! 餌ごときが喋るな! 俺の成長のため、糧になりやがれ!」



 混乱から立ち直ったゴブリンファイターが、槍を手に飛びかかってきた。



 その一撃をかわすと、そのままゴブリンファイターの背中に錆びた剣を突き立てる。


 

 ゴブリンファイターの身体に突き立った錆びた剣は、狂化スキルで向上した力に耐えられず粉々に砕け散った。



 二〜三歩ほどよちよちと歩いたゴブリンファイターが、傷口から血の噴水を吹き上げて地面に倒れ込んだ。



 仲間が惨殺されたことに怖気づいたゴブリンが、俺に背中を見せて逃げ出そうとしているのを見つけた。



「そこのゴブリン! 逃げ出そうなんて許されるかよっ!」



 手にしていた粗末な斧を思いっきり投げつけると、投擲スキルの力で威力が増し、逃げ出そうとしたゴブリンの背中に突き刺さると、その命を奪った。



 奇襲による混乱で、巣窟内にいたゴブリンたちは混乱したまま、狂化した俺によって、次々と家畜のように処理されていく。



「ギギギィ!!」



 死の恐怖に怯え、腰を抜かしたゴブリンが、命乞いをするような声をあげる。



「言葉が分かんねえっての。だから、命乞いなんてしても無駄、無駄。大人しく命とスキルを差し出せ」



 手近にあった粗末な槍を手に取り、腰を抜かして後ずさるゴブリンの胸に思いっきり突き立てた。



 噴き出したどす黒い血が、俺の身体に降り注ぐ。



 同時に、俺のいた場所を爆風と炎が駆け抜けた。



 爆風で骨が軋み、皮膚が焼け、痛みが身体を駆け巡る。



 だが、すぐに自己再生が始まり、痛みは急速に和らいでいった。



「いてぇ……。けどな。俺はそんな火球じゃ、倒せねえっての」



 焼け焦げたゴブリンから槍を引き抜くと、杖を構えていたゴブリンシャーマンに向けてぶん投げる。



 投げた槍はゴブリンシャーマンの右肩を貫く。



 杖を取り落としたゴブリンシャーマンに向け、一気に駆け寄ると、頭を鷲掴みにして地面に思いっきり叩きつけた。



「お前のも寄越せ!」



 何度か固い地面に叩きつけたことで、砕けた骨の音がして、皮膚が裂け、血と内容物が混じったものが飛び出し、絶命する。



 絶命したゴブリンシャーマンの持っていた火球スキルを身体に取り込み、俺は深呼吸をし、周囲を見まわす。



「ふぅ、これで全部だな」



 奇襲によって短時間で、ゴブリンたちは全滅した。



 巣窟内には、焦げ臭い臭いと、静寂だけが残っている。



 倒した魔物に対し、罪悪感などは一切感じない。



 この洞窟内では、喰うか、喰われるかしかない。



 俺はこの世界をぶっ壊すまで死にたくないから、目の前の敵を倒し、スキルを喰らう。ただ、それだけだ。



 近くにあった水場で、身体に付いたゴブリンの血を洗い流すと、巣窟内を改めて見まわした。



「武器になりそうなものと、食いもんと、何か掘り出し物ねえか、漁るか」



 俺は無人になったゴブリンの巣窟を漁る。



【名前】粗末な石の槍


【種類】武器(刺突)


【魔法効果】なし


【効果】物理攻撃力の向上。投擲可能。強度が低いため破損確率(大)



【名前】鋭利な石の斧


【種類】武器(刃物)


【魔法効果】なし


【効果】物理攻撃力の向上。投擲可能。強度が低いため破損確率(大)



【名前】木の棍棒


【種類】武器(鈍器)


【魔法効果】なし


【効果】物理攻撃力の向上。



【名前】木の盾


【種類】防具


【魔法効果】なし


【効果】物理防御力の向上。



【名前】毒薬(弱)


【種類】薬物


【魔法効果】なし


【効果】摂取者が毒ダメージ状態になる。武器に毒属性付与可能。



【名前】魔力回復薬(小)


【種類】薬物


【魔法効果】なし


【効果】摂取者の魔力回復速度がわずかに上がる。即時効果なし。




 大したものはなかったが、武器はいくらあっても困らない。



 強度に不安のない木の棍棒と木の盾を装備することにして、残りの武器は巣窟内にあった毛皮で包み、身体に巻きつける。



 魔力回復薬の小さな瓶を開き、中身を飲み干す。



 無味無臭な青い液体が胃の中に落ちると、身体に魔力が満ちていく速度が上がった気がする。



 残った魔力回復薬4つと、毒薬3つは、音がしないようゴブリンファイターが使っていた皮のベルトポーチを拝借して差しておいた。



 着ていた服も、もうボロボロに破れ、血の汚れが取れないため、着るのを諦めた。



 今はゴブリンたちが加工した魔物の毛皮を身体にまとっている。



 まだ出口らしい場所は見つからないが、ここから出るには進むしかない。



 この先には、もっと強い敵が待ち構えている。



 俺は気を引き締め、次の目的地を目指すことにした。

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2025年1月11日 18:00
2025年1月11日 20:00
2025年1月12日 18:00

収奪の魔王 ~俺だけレベルアップする最強スキルを手に入れたので、クソッタレな世界を滅ぼすことにした~ シンギョウ ガク @koura1979

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