口封じされちゃった……

 もうすぐ夏も終わりだねぇ~。

 今年の夏も平々凡々な夏だったわぁ~。

 キャンプの夜を除けば。

 いま思い出しても刺激的な夜だったわね。

 イケメンの殺し屋さん……。


「もう一度逢えないかしら……」


 休みに家でゴロゴロしてるのも飽きたわ。

 こんな事してるから思い出しちゃうのかしら。

 よし!

 新たな出逢いを求めて街へ繰り出すわよ!




 

「あっついわね……」


 夏も終わりだって言うのに、何でこんなに暑いのよ。

 太陽さん頑張りすぎよ。

 いや、太陽さんは真面目に働いてるのよ。

 私も頑張らなくちゃ!


「誰か捕まえてー!」


 騒がしい街中に響き渡る女性の声!

 これは事件の予感!

 鞄抱えて走ってくる男が見えるわ。

 ひったくりね。

 ごめんなさい。私では力になれそうもないわ。


「子供の大事な積立金なの! 返してー!」


 むむっ。微力ながら力を貸します!

 え~っと、道端にある自転車をお借りします。

 自転車の持ち主さん、ごめんなさい!


「とりゃー!」


「うぉっ?!」


 成功!

 ひったくり犯の足元に自転車放り投げ大作戦!

 見事にすっ転んでくれたわ♪

 おっ、ナイスタイミングでお巡りさん!


「お巡りさん! ひったくり犯はこっちです!」


「ご協力感謝いたします。お怪我はございませんか?」


 ん? どこかで聞いたことのある声……。


「よろしければ少しお時間いただけますか。事情をお伺いしたいので」


 無愛想でイケメン……殺し屋さん?

 何で?! 何で殺し屋がお巡りさんやってるの?!

 いや、お巡りさんが殺し屋をやってるのかしら?

 それはどうでもいいわ。どうでもよくはないか……。

 とにかく! 彼に間違いないわ。


「あ、あの~殺し屋さんですよね……」


 あっ、ビクッてなった。

 めっちゃ見つめられてる……照れちゃうじゃないの~。


「もしかして、キャンプ場の人?」


「はい! そうです! あの時はお世話に――」


「それ以上喋るな」


「は、はい」


「今晩時間あるか?」


 えっ、何々? 誘われてるの?!


「はい! ありまくりです!」


「今晩七時に駅前の喫茶店まで来てくれ。話はそれからだ」


「行きます!」


「じゃあ」


 再会できた!

 しかも誘われた!

 これは期待大だわー!




 

 待ち合わせ時間まで後少し。

 一時間ほど早く着いたけど、そんなの苦にならないわ!

 あっ、扉が開いたことを知らせるベルの音。

 教会のベルの音にも聞こえるわね♪


「待ったか?」


「ぜ~んぜん。いま来たとこよ♪」


「そうか」


 あいかわらずの無愛想。

 でも、それがいい!

 

「それで、話って何かしら?」


「あ~キャンプ場での事は忘れてくれ」


「嫌です。私の夏の思い出は永遠に消えません」


「……じゃあ、殺し屋だってところだけでも忘れてくれないか」


「やっぱり、バレるとマズいんですか?」


「マズい……あれは全部うそだから」


「はい? 全部?」


「口からでまかせって奴だ。警官があんな事したってバレたらマズいだろ」


 うん? 本職がお巡りさんで、裏で殺し屋とかじゃないんだ。

 普通にお巡りさんってこと?


「殺し屋さんじゃないんですか? 銃も持ってましたよね?」


「違う。あの銃はエアガンだ」


 え~っと。

 それが本当なら、あれは厨二病的設定全開ってやつかな?

 なんか、可愛く見えてきた。


「警官だって名乗ると後々面倒なんだよ」


「お仕事になっちゃうから?」


「……そんな感じだ」


「ふぅ~ん。そっかそっか」


「何だよ」


「じゃあ、私は消されたりしないんだね」


「当たり前だろ。あの日の記憶は消したいがな」


「だめ! あの日の記憶は殺し屋さんでも消せないんだから」


「まあ、誰にも言わないならそれでいい」


 ちょっと困った顔もいいわね。

 イケメンだし。

 でも、このままじゃダメね。

 これで終わりになっちゃうわ。

 そうはさせない!


「ねえ。殺し屋さんじゃないなら、彼女や家族は居てもいいよね?」


「ん? まあ、そうだが」


「私と付き合ってください!」


「は? いきなりだな」


「いきなりじゃないですよ。二度目です」


「それも覚えてたのか」


「で、どうなんですか?」


「……まあ、あんたの事は気にはなってたんだ」


「うそ?! 本当に?!」


「あの場で付き合うって返事するのは違うかなと思って断ったんだが」


「何で?」


「いや、ナンパ野郎と変わりないんじゃないかと思ってな」


「な~るほどね~。さすがお巡りさん! 真面目なんだね」


「茶化すなよ……」


日向ひゅうが百合ゆりです。よろしくお願いします」


「そうか、お互い名前も知らなかったな。はぎ陽介ようすけだ。よろしく」

 

 やったー!

 夏の終わりに始まりが来たー!


「付き合うことにはなったが、口封じはしなきゃな」


「えっ、なに? うぅ~むぅ~」


 喫茶店でいきなり口封じ!

 って、これはキスって言うのよ!


「ちょ、ちょっと……こんな所でいきなり……」


「殺し屋の武器は銃だけじゃないぞ」


 ハートを撃ち抜かれたわ。

 周りから見たらちょっとイタいけど、全然問題なし!

 私の彼は殺し屋さん。

 ターゲットは私のハート♪

 これからも口封じよろしくね!

 

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恋した彼は殺し屋らしい かいんでる @kaindel

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