キャンプ場に殺し屋?!

 これで良し!

 我ながらよく出来たわ。

 やはり、キャンプと言えばカレーよね。


「う~ん。いい香り~」


 ではでは、初キャンプカレーいただきます!

 

「おいしい~」


 声に出さずにはいられない!

 家で食べるカレーの十五倍はおいしいわね。


「おいしかった~。満足満足~♪」


 話し相手が居ないと独り言が出ちゃうのかしら。

 まあ、誰も聞いてないからいいか。

 さて! お次は寝転がっての星空タイム!

 都会じゃ見られない天体ショーの始まりよ!


「うわぁ~綺麗~……」


 心が洗われるわね~。

 煌めく星たちが私の心を照らしてくれてるのね。

 眩しいくらい……本当に眩しいわね。


「お姉さん独り~?」


 眩しいと思ったら、懐中電灯かい。

 洗われた心が汚れていくわ。

 昼間のナンパ野郎じゃないですか。

 もしかして昼間のこと覚えてないのかしら。


「黙ってないで何とか言ってよ~」


「すいません。もう寝るところですので」


「そうなんだ~。じゃあ、僕も一緒に寝ちゃおうかな~」


 ウザーい! 消えろー!


「いや、私は一人で寝ますので」


「そんな事言わないでさ~。夏でも夜は冷えるよ~」


「大丈夫です。寝袋ありますので」


「寝袋いいね~僕も一緒に入っちゃおうっと」


 あっ、キレた。もう無理。


「いいかげんにしてください! 私は一人で寝るんですっ!」


 思わず叫んじゃった。

 ヤバい。さっきまでのヘラヘラ顔が脅し顔になってるわ。

 ちょっと怖いかも……。


「俺が大人しくしてるうちに言うこと聞きなよ」


「な、何するんですか! 離してください!」


 ヤバいヤバいヤバい。

 凄い力で腕掴んできた。

 怖い……怖い怖い怖い……。


「またお前か」


 あぁ~無愛想なイケメンくんだ~。

 色んな意味で泣きそう。

 いや、少し泣いちゃってるわ……。


「何だてめぇは~?」


「さっき覚えてろって言ったのはお前だろ。何でお前が覚えてないんだ」


「はぁ? ……あぁっ! てめぇは昼間の!」


「やっと思い出したか。低能」


「んだとコラぁ! 昼間は見逃してやったが、今度は逃さねえからな!」


 うそ?! あいつ、ナイフ出してきた!

 これはマズいってば!


「ふぅ~ん。そんなもん出してくるって事は、覚悟はできてんだろうな」


 イケメンくんが懐から何かを……銃? 何で銃が出てくんのよ!


「な、な、なんだよ。どうせオモチャだろうが! 撃てるもんなら撃って――」


 今、パシュッ!って音がした……。

 低能くんの足元にあった空き缶が、カラカラって転がった……。

 えっ?! 本物の銃なの?!


「ご要望どおり撃ったぞ。サイレンサー付きだから周りには気付かれない。安心しろ」


「ば、そ、そんな……日本に銃なんかあるわけ……」


「そんな事はないぞ。非合法で持ってる奴は居る。俺みたいな殺し屋とかな……」


 はい? サラッと危険なキーワードが聞こえた気がする。


「こ、殺し屋だと……」


「幸いここは山の中。近くには湖もある。消すには持って来いの場所だな」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! ナンパしてただけで消されるって何だよ!」


「ここでのナンパは重罪だ。消されるには十分な理由だろ」


 映画のワンシーンみたいだわ。

 あんなに賑やかだった低能くんが静かになってる。

 そうかぁ。おでこに銃突きつけると、人は大人しくなるのね。


「か、勘弁してくださいよ……もう、もうしませんから……」


 ありゃ~目から鼻から垂れ流しじゃないの。

 あっ、ズボンから湯気が……。


「信用できないな。免許証持ってるか?」


「は、はい! ここに!」


「そこに置け」


 うん? 何すんのかな?

 あっ、スマホで撮影してるわ。


「その言葉が嘘だったら……後は言わなくても解るな」


「はい! もう二度といたしません!」


「もういい。消えろ」


「失礼します!」


 靴に溜まってたのね。

 走るたびにピチャピチャいってるわ。


「大丈夫か?」


「はい。大丈夫です……」


 ちょっと待って。

 この人、殺し屋なのよね。

 もしかして、顔見たからって私も消されちゃうんじゃ……。


「この事は誰にも言うな」


「え? あっ、は、はい!」


「良い返事だ」


 すっごいドキドキしてる。

 このドキドキは……恋?!


「あっ、あの!」


「どうした?」


「私と付き合ってください!」


 勢いで言っちゃった。

 殺し屋相手に告白とか……どうかしてるわね。

 そりゃ~殺し屋さんも無言になるわよね。


「無理だな。彼女、家族、殺し屋には不必要なものだ」


「そうですか~……」


「じゃあな。もう会うこともないだろう」


「そうですね……ありがとうございました」


 あぁ~行っちゃったぁ~。

 これは、夏の夜の夢だったのよね……。

 

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