恋した彼は殺し屋らしい

かいんでる

憧れのソロキャンプ♪

 ついに! ついにこの時がやってきました!

 上司の冷たい視線に耐えて勝ち取った平日の有休!

 その有休を使って、やってきましたソロキャンプ!

 アニメで観てから、一度はやってみたかったのよね。

 うん。夏はキャンプよね!



 

 

「う~ん、気持ちいい風~」


 新品のテントに新品の道具たち。

 緑を揺らす夏の風。

 少し騒々しい蝉の声。

 湖で跳ねる魚の音。

 光のシャワーを撒き散らす太陽。

 みんなが私のソロキャンプデビューを祝福してくれてるわ!


 さて、いつまでも浮かれてるわけにはいかないわね。

 夏とは言え、この辺の夜はかなり冷えると聞いたわ。

 料理にも必要なので、まずは火を起こさねば!


 

 


「説明書通りにやってるんだけどなぁ……」


 どれだけやっても火がつかない。

 そりゃ独り言も言いたくなるわよ。


「それ、逆だと思うよ」


 なに? 逆? って言うか貴方だれ?


「貸してみな」


「あっ、はい」


 うそ?! あっさり火が……。


「これで大丈夫。もしかして、キャンプ初めて?」


「は、はい! 初めてです」


「そうか。困ったことがあったら聞いて」


「あ、ありがとうございます」


 助けてもらって何だけど、無愛想すぎる。

 歳は私と同じくらい、二十代後半ってとこかしら。

 イケメンと言えばイケメンよね……。

 何かあったら聞きに行こう!

 何かが起きる予感。だって夏だもの!


「お姉さん独り~?」


 起こらなくていい事が起こってる気がする。


「他にも仲間が来てんだけど、もし良かったら、僕たちと一緒にどうかな~?」


 チャラい! ウザい! キャンプ場でナンパすんな! あっち行け!

 と言えればいいんだけど……。


「ご、ごめんなさい。今日はソロキャンプって決めてるので」


「そんなこと言わないでさ~。大勢のほうが楽しいよ~」


 消えろー! 私はソロキャンプやりたくて来てるのよ!

 大勢で騒ぎたかったら友達とカラオケでも行くわよ!


「ごめんなさい。知らない人たちとはちょっと……」


「えぇ~これだけ話したら知らない人じゃないっしょ」


 んな訳あるかー!

 その理屈が通るなら世の中知り合いだらけだわ!


「いや、でも……」


「お前、何やってんだ」


 あっ、無愛想なイケメンくんだ。


「何だ~お前は~。邪魔だからあっち行ってろよ」


「邪魔なのはお前らだろ。この娘が嫌がってるって解らないのか」


「カッコつけてると痛い目見るよ~」


「まだ続ける気なら通報する」


「ちっ、覚えてろよ。夜の闇には気をつけな!」


 何か、助かった。

 あっ、お礼言わなきゃ!


「あ、あの、ありがとうございました」


「たまにあんなのが来るんだよ。気をつけて」


「は、はい。助かりました……」


「何かあったら大声で叫びな。じゃあ」


「わ、わかりました」


 無愛想だけど良い人よね。

 イケメンだし、強そうだし、イケメンだし。

 うん。何かあったら迷わず大声で叫ぼう。

 

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