絡み酒

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

ダメ男

「だからな! 家っていうのは帰る場所じゃないといけないんだよ!」


「あーそうですね」


 深夜、飲み屋街の路地にある居酒屋で酔っぱらいが若者に管を巻いていた。


「若いお前さんにはわからないだろうけどな。俺だって若い頃は独り身がラクだと遊び回っていたからわかる。わかるよ〜……でもな。この年になって痛感するんだよ。俺の家は寝る場所であって帰る場所じゃないって……ヒック」


「まあそう言われると確かに寝る場所感覚かもしれないですね」


「だろぅ! でもそんなのビジネスホテルと変わらないんだよ! 一人はラクだ! 気ままな一人旅は最高だ! でもな……そう思っている間に帰る場所なんてなくなるんだよ! 一人旅をしているつもりがただのひとりぼっちの根無し草だ! わかるか!」


「はいはい」


「俺だって昔は女房も子供もいた。……いたんだよ俺にも。でも遊び癖が抜けなくてな。女房は愛想を尽かして出てっちまって」


「ご家庭を大切になさらなかったんですね」


「……ああ……子供のことがよくわからなくてな。どう接すればいいのかもわからず遊んでた。人間のクズだった……今はゴミだけどな」


「本当ですね」


「グズ……別れてから数年後再婚したらしいし。今頃なにやってんだろうな。あいつも子供も」


「会いたいんですか?」


「俺に会わせる顔があると思うな!」


「本当にそう思います! もう閉店時間一時間も過ぎているんです! いい加減帰ってください!」


「俺に帰る場所はこの居酒屋しかねえんだよ! 二十年来の常連客だぞこっちは!」


「いくら常連さんでも限度があるんですよ! こっちはバイトなんです! もう終電もないんです!」


「終電がないぃーーー! なら泊めてくれ!」


「お願いだから帰ってくれ!」


 若者は酔っ払い客を見せから追い出した。

 あの様子では朝までやっているスナックにでも流れていくだろう。

 店の片付けをしていた店長から声をかけられる。


「いつも済まないな。あの親父の相手させて。普段は悪い客じゃないんだが。この時期になると悪酔いして店から出ていこうとしなくてな。ちょうど離婚届けともに出ていかれた時期だから」


「いいですよ残業代出ますし、家も歩いて帰れる距離なんで大丈夫です」


「はぁ……俺から言うことではないが言わなくていいのか? お前あの親父の息子なんだろ?」


「……顔を見てもわかってもらえない息子ですけどね。あのクソみたいな親父を見て、母さんは正しかったと思うくらい幻滅してますし」


「そっか。大変だなお前も……人生色々あるさ」


 店長に肩をポンポンと叩かれた。

 ちなみに若者はこの店でバイトして一年過ぎている。

 人生は色々とあるのだ。

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