帰る場所のない私

ソコニ

第1話 帰る場所のない私



引っ越しの段ボールを開けた時、不思議な写真が一枚出てきた。家族で写った集合写真だ。両親と私、そして見知らぬ少女が写っている。


「誰だろう、この子」


黒いワンピースを着た少女は、私と同じくらいの年齢に見える。しかし、記憶にない。写真は確かに我が家のリビングで撮られたものだ。背景の家具の配置まで覚えている。でも、この少女のことは...。


私は写真の裏を見た。日付が書いてある。私が小学校六年生の時だ。確かにその頃の私の髪型や服装とも一致している。でも、なぜだろう。この少女の存在だけが、霞がかかったように曖昧なのだ。


その夜、不思議な夢を見た。


「由香、私のことを忘れちゃったの?」


黒いワンピースの少女が、私の目の前に立っていた。顔は写真と同じなのに、目だけが異様に黒く、深い闇のように見える。


「私たち、約束したでしょう?永遠の親友になるって」


少女は一歩ずつ近づいてくる。その足音が、まるで地面に染み込んでいくような不気味な音を立てていた。


「由香は私を置いて、先に帰っちゃった。でも私は、ずっとここにいたの」


目が覚めると、冷や汗で背中が濡れていた。枕元には、あの写真が置かれていた。確かにリビングに置いていたはずなのに。


次の日から、私の周りで奇妙なことが起き始めた。


スマートフォンのギャラリーに、見覚えのない写真が次々と現れる。全て、黒いワンピースの少女が写っている。教室で、公園で、自分の部屋で。そして私は、少しずつ思い出し始めた。


美咲。


そう、彼女の名前は美咲だった。


転校してきて、すぐに親友になった。いつも一緒にいて、秘密の約束もした。でも、あの日...。


「思い出したの?由香」


振り向くと、美咲が立っていた。十二歳のまま、少しも変わっていない姿で。


「私たち、約束したよね。誰が先に死んでも、必ず迎えに来るって」


そう、あの日。私は美咲を置いて、先に逃げ出してしまった。廃ビルの探検中、床が抜けて...。私は必死で這い上がったのに、美咲の手を掴むことができなかった。


そして私は、全てを忘れることにした。美咲のことも、約束のことも。


「もう逃げられないよ、由香」


美咲の姿が、徐々に変化していく。黒いワンピースが影のように広がり、部屋中を闇で満たしていく。


「私がずっと待っていた場所に、一緒に帰ろう?」


私は動けなかった。美咲の闇が、ゆっくりと私を包み込んでいく。


写真が一枚、床に落ちた。


両親と私が写った集合写真。今度は、私の姿が霞のように曖昧になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帰る場所のない私 ソコニ @mi33x

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画