第3話 配信を開始する
「はーい、どうもみなさんこんにちは。俺は、勇者。よろしくぅ!」
俺は今、配信を始めた。
あの後、職員が配信者になるための書類などをくれた。しかし、少し怯えたような目でこちらをみていたのはどうしてなんだろうか?まあいいか。
俺は勇者という立ち位置をたくさんいる配信者の中でも目立つための材料として使うことにした。勇者という立ち位置をネタとして扱うのだ。その動画を見た者はまさか本当に魔物の天敵の勇者が配信しているとは思わないだろう、と想定してのことだ。
そして、人間界の者に憑依するには、本人に大金を払って乗り移る許可をもらうか、こちらの世界で信仰力を得て、強い魂となって乗り移られる者の魂を消すことで乗り移る、という方法があるのだそうだ。どちらにしても、配信者、という職業は信仰力もお金も得られるから、便利な職業だな。
「はい、では今回はこのゲームをプレイしていこうと思います!」
そして俺は、明るいキャラをかぶって配信を始めている。
あれから、地界についての詳しい説明を受けて分かったことは、この地界、というところは人間界よりもかなり技術が進歩しているということだ。この地界には、ゲームやテレビ、パソコンと言った電子機器があるのだそうだ。このゲーム、というものを使って配信者は配信をするのだそうだ。まあ、雑談、というものを慣れてきたらしてもいいそうだが。とりあえず、俺はゲーム配信をすることにした。その、ゲームとやらは思ったよりかなり難しい。
「くっ、こいつ。どうして後ろから追ってくるんだよ!」
:いや、そういう形式のゲームなんだよ。
:説明書読んだか?
:何言っているだこいつ。
と、コメントが次々とくる。
「説明書!?なんだそれは。初めて聞いたんだが。」
説明なんてものは買うときにその店員がするものじゃないのか?
説明を記した書なんてものがあるのか?
初めて聞いたんだが。
:いや、説明書の存在自体知らないのかよ。
:そんな奴初めて見たわ。
そういうコメントがきた。
どうやら、この世界でゲームに説明書があるというのは当然なようだ。
知らなかった。
説明書の存在は、覚えておくか。
「まあ今回は説明書読まずにゲーム始めちゃったし、後で読むか。」
:なんで説明書読まずにゲーム始めてんだよ。
:おもろw
そう言ったコメントが次々とくる。
「仕方ないではないか。」
そう言ったコメントに対して、俺は少しむっとした様子でそう言い返した。
:次から気をつけろー。
:説明書の存在知らなかったのはドンマイ。
コメント欄のやつら偉そうだな。
まあいいか。
この配信を『見てもらっている』んだし。
そんな風に少しやきもきしつつ俺は配信を続けた。
そして配信を始めてから二時間ほどして俺は一度今日の配信を終了することにした。
「では、今日の配信は終了します!皆さんまた次の配信でー!」
そう言って、俺は手を振って配信を切った。
「はあ。疲れた。」
意外と、明るいキャラを演じるのは疲れるな。
まあ、配信者の『勇者』と『俺』は別人だ。
全く違う人間だ。
同じ人間だと思うから演じるのが大変なのかもしれないな。
そういえば、今日は晩ごはん食べていないな。
コンビニに何か買いに行くか。
この世界には、美味しい食事がたくさんあるのだ。
人間界には絶対になかったらーめん、というものや、おでん、というものや、おむすび、というものなど。その種類は本当に多い。
俺はもう死んでいるため、食事は不要なのだが、一応食べることはできるのだ。
俺は、コンビニにつくと、三分でできるラーメン、というものが目に入った。
何だそれは。
美味しいのだろうか。
いや、絶対美味しいに違いない。
食べてみよう。
しかし、国王を早く倒すためにも憑依に使うかもしれないからお金は貯金しておくべきだ。なので、ここでこのラーメンを買うべきではない。
いや、わかってはいる。
ここで、ラーメンを買って食べてはいけない。
そうだ、家に帰るべきだ。
コンビニには復讐のこともあるから来てはいけない。
そうだ、だめなんだ。
いや、でも今回だけ、本当に今回だけなら、良いのではないだろうか。
今後一切買わなければいいのだ。
そうだ、今回だけだ。
俺は自分にそう言い聞かせてラーメンを買った。
そして、帰り道。
「あれ_?あんた、勇者じゃない_?」
背後から声をかけられた。
俺が振り返ると、そこには狐の耳と鬼の角の生えた少女がいた。
「俺のことを知っているのか_?」
「え_?だってさっきまであんた配信していたでしょ?」
「俺の配信を見てくれているのか!ありがとう!」
俺は、配信での明るいキャラでそう言った。
「ああ。面白かったよ。今度からはちゃんと説明書読んでからゲームやりなよ。」
「ああ。もちろんだ。」
「じゃあ、またな。面白い配信をありがとう。」
そう言って、その少女はどこかへ去っていった。
「ああ、またな。」
そう言って俺は手を振る。
しかし、見た目が同じ状態で外を歩いているとプライベートがばれるのか。
外を歩くときは何か上に羽織って誰かわからないようにしなければならないな。
俺は、そう思い、洋服屋さんへ向かった。
洋服屋に、紺色の羽織りのようなものがあった。
少しおしゃれな
動きやすそうだし、これを買うか。
俺はその羽織りを買って店を出ると、早速着てみた。
軽い素材でできていて、動きやすい。
持ち金をすべて使ってしまったが、仕方がないだろう。
俺は、羽織のフードをかぶって家に帰った。
今度、給料をもらったらあの洋服屋にあった動きやすそうなパーカーというものを買ってみよう、と思いながら。
闇落ち勇者は地界に堕ちたので復讐するために配信を始めた。 藍無 @270
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