距離〜二人の距離はつま先分〜

赤坂英二

距離



 マナが初めてユウタに会ったのは、寒くなり始めた頃。



 マナの友達を介して出会った二人。



 マナのユウタに対する第一印象は控えめの一言。



 別に悪い印象はなかったが、特別良い印象もなかった。



「はじめまして」



 そう言ってはにかむユウタに人慣れしていない印象も受けた。



 だからマナの方から連絡先を聞いた。



 恋愛経験も少なそうだったから。



 そういうマナ自身も恋愛経験は豊富ではない。



 とりあえず連絡先を交換してみたというわけだ。



 マナは雪国に住んでおり、ユウタとは住んでいる地域が違う。



 直接会う機会は限られているので、初対面以降対面することなく電話を通してのコミュニケーションを取っていた。



 メッセージ上でも真面目な彼に今までの経験が通用せずに戸惑うこともあったが、彼が誠実なのはわかった。




 それからも二人はメッセージで時間を重ねた。






 季節は冬になり、マナの住む町に雪が降り出した。



『今度雪かきしないといけないんだけど、来ない?笑』



 そう送ってみた。



 もちろん冗談のつもりで。



 すると、

『いいよ、週末行くね』



 ユウタは二つ返事でそう返してきた。





 その週末本当に彼はマナの町まで来た。



 マナは車で迎えに行って駅から家まで向かう。



「新幹線混んでた?」



「ううん、そうでもない。ホテルも普通に取れたよ」



「ていうかホントによく来たね」



「えぇ? 来ないって言うから来ちゃったよ」



「冗談だったのに」



「そっかー」



 車中ではそれなりに盛り上がる会話。



 ユウタは窓から見える雪景色に夢中になっていた。



 そんな姿を見てマナもクスリと笑ってしまう。



 久しぶりに会った二人。



 ぎこちなさ、感じる緊張感も、悪くない。






「さ! 雪かきしようか!」



 マナはユウタにスコップを手渡す。



「うん」



 経験したこともない量の雪と、やったこともない運動に苦戦するユウタ。



「もっと腰入れてー! ファイト!」



 ヒイヒイ言いながら作業している後ろ姿に、イタズラ心が刺激されてしまった。



 マナは雪玉を投げて当ててみた。



 雪玉は彼の背中でバフと弾けた。



「うわ!」



 驚くユウタ。



「へへへ!」



 逃げ出すマナ。



「ちょっと、こっちは真剣にやってるのに!」



 マナの背中を追いかけるユウタ。



 急に追いかけっこが始まった。




「きゃ!」



 滑って転んでしまったマナ。



「大丈夫⁉」



 ユウタが駆け寄ってくる。



「大丈夫」



 フカフカの雪がクッションになったおかげでけがはない。



「良かった、イタズラするからだよ」



 ユウタがマナの体を起こす。



 二人の目が合う。



「……」



 お互いそらせないまま時が過ぎる。



(ちょっと、距離が近いかも)



「さ、雪の中に倒れたんだから、家入ってシャワーでも浴びないと」



 唐突にユウタは早口で言う。



 立ち上がった二人。



 背が高めな彼と、背が低めな彼女。



 二人の距離は少し遠い。



「ねぇ?」



「ん?」



 かかとをあげて、つま先立ちになる。



 彼の顔が近づいていく。



 彼女の唇が彼に触れる。



「!」



 驚いて固まる彼。そして触れられた箇所を触る。



「……え?」



 じっと彼女のことを見つめ返す。



「……驚かせたかっただけ」



 そう言って彼女は彼を追い越し家に入っていく。



「あぁ、驚いたよ」



 彼はそう言って笑いながら彼女の背中を追いかける。







 触れたのは彼の顎。



 彼の唇には届かなかった。



 もう少しだけ……。



 もう少しだけの距離。



 その距離がもどかしい。





 ちょっと控えめで、人見知りで、不器用な彼。





「ホント、ずれてるんだから」



 そんな彼女のつぶやきも降り積もる雪に消えていく。



 しんしんと降り積もる雪。



 夕方も雪かきをしなければならないだろう。

 


 少しそれも楽しみにしている二人である。

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