第2話 とにかくモテない!
「貴様なぜそれを知っている・・・?」
俺は敵愾心を体中から溢れさせ、射殺さんとトモを視線で穿った。しかし、トモは余裕そうな表情で不敵に笑っていた。
「ふふふ・・・よしくん、そういえば伝わるかな」
「よ、よしくん?!」
うそだろっ・・・よしくんが俺の秘密を喋ったというのか・・・っ?!
「ちょっとお話したら、自分から嬉しそうに話してくれたよ」
「そ、そんな馬鹿な・・・よしくんは絶対に喋らないって・・・あの時っ!」
夕焼けの中。ブランコを乗りながら隣で笑ったよしくんの笑顔がよみがえる。
あの笑顔は全部偽物だったってのか・・・
俺が絶望に打ちひしがれている中。ただ一人マルはついていけてなかった。
「あの・・・よしくんって・・・?」
「あー、よしくんってのは小学四年生の男の子の名前だよ」
「えっ?! 小学四年生?!」
マルは驚きに声を上げると、考え込むように顔を伏した。
「そうなんだ、てっきり中学生の頃の同級生かと・・・ん? 待って。ってことは、小学生に今の話をしたの?」
マルが困惑げに俺を見てくる。視線は「何故?」と俺に質問しているようだった。
俺はその視線に小さな声で答えた。
「・・・話に流れで仕方なく」
「どういう話の流れ・・・それ」
「もうこの話はいいだろ。ほらほら、次の」
俺は無理やり体を起こし、会話の流れをぶった切った。
このまま放置していたら、トモがよしくんから仕入れした情報をここぞとばかりに開放するだろう。それは避けたい。俺の良くない印象が広まってしまう。
「しかも、そのよしくんからは『まま』って呼ばれてんだよな」
「え」
「もういいって言ってんだろ! こいつ!」
マルが驚愕に目を見開いて、硬直する。
「健太からそう呼んでほしいって頼まれたんだって」
「え?! そうなの?」
「んなわけあるか! よしくんが勝手に」
ついに、真実の中に嘘まで混ぜ込みやがった。俺の悪いイメージをどれだけマルに植え込むつもりだ。
「えっと・・・僕たちも『まま』って呼んだほうがいい?」
「や、やめろ! 何言いだすんだ、マル!」
それはなんの気づかいだよ、マル!
俺が慌てて弁解する横で大笑いしているトモ。こいつはいつか殺す。
「だ、だけど・・・モテることによしくんは今関係ないだろ?!」
「いや、大ありだろ」
俺が抗議すると、急に真面目トーンになるトモ。えっ、嘘。俺の女子からのモテ度合ってよしくんの有無によって決まるのか?!
「てかお前、それがモテない最たる理由じゃん」
「よ、よしくんが諸悪の根源っていうのか?! おい、それは違うだろ!」
「うん、それは本当に違くて。それに諸悪の根源はお前自身だから」
まさかのよしくんが裏ボスだったという線が浮上したが、違うかったらしい。しかし、俺自身が問題なら、よしくんは関係あるのか?
俺は疑問に悩んでいると、トモが「まだわからないのか」といった様子でため息をついた。
「お前・・・母親すぎるんだよ」
ハハオヤスギル・・・・・・母親すぎる? 真剣な顔でなに言ってんだこいつ。俺はいったいいつ子供を産んだっていうんだ。
俺はさっぱり理解できなかったが、二人にとっては共感の嵐だったらしい。
「まぁフツー考えて、他人の小学四年生と定期的に遊んだりしないよな」
「うん。まず小学生とどうやって関わりを持つのか、謎だよ」
お互いに頷いて「やっぱそうだよな」と、俺がいかに母親すぎるか談義していた。
「小学生を引き付けるくらい無意識に出ちゃってんだよ、母性」
「母性ってなんだよ! 俺、出産なんてしてねぇし! まず女じゃねぇよ!」
「出産なんて些事些事。女の子は年を取るといつの間にか母親の顔をしてるもんなんだよ」
「いやだから俺、女じゃねぇよ! 女の方も否定しろ!」
俺は不満を机を何度も両手で叩いて表す。
「俺のどこが母親なんだよ、小学生と定期的に遊ぶだけで母親は早計だろ!」
「母親じゃなきゃ懐かれても小学生に『まま』なんて呼ばれないだろ。てか、そのレベルは懐かれすぎて逆にキモいぞ。母親通り越してロリコンだろ、お前」
「ちげぇよっ! なんで母親通り越すとロリコンなんだよ!」
「すまん、ショタコンか」
「そういうことじゃねぇよ!」
そんなに俺は変態に見えるのだろうか。母親通り越してロリコンってなんだよ、純正ロリコンのほうがまだ清楚だろ。母親がロリコン、ショタコンに変異は事件性がある。
「マル、なにかこの馬鹿に言ってやってくれ! ショタコンやらロリコンやら俺はそんな変態じゃねぇって!」
俺は救いのオアシスを求めて、マルに目を向けた。しかし、マルは申し訳なさそうに頬をぽりぽりと掻いてつぶやく。
「うーん。でも、僕もどっちかっていうとトモの意見よりなん・・・だよね」
・・・なんだ・・と。
「俺は変態だって、マルもそういうのか?!」
「まぁ」
「否定しろよ!」
まぁ、ってなんだよ。まぁって!
俺は衝撃の真実に項垂れる。もしかして、カップルよりも先に檻に入るべき存在は俺だったのか・・・
すると、マルは俺の肩にぽんっと手を置き、励ましの声をかける。
「僕はロリコンとまでは思わないよ。予備軍だとは思うけど。なんというか、健太は内面がお母さんすぎるんだよね」
予備軍・・・? 聞き捨てならないような言葉が聞こえた気がしたが、俺はそれをとりあえずなかったことにした。
「いやでも、それが事実かどうかは置いといて。お母さん過ぎるって要するに包容力があるってことだろ?」
むしろプラス要素だ、と抗議する俺に対して、マルは残念そうに言った。
「ちょっとだけならね。でも、それがお母さんの領域にまでなってくると、マイナス要素だよ」
「なんで?!」
俺の驚愕にニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべるトモが答える。
「健太、早い話だな・・・お前、自分の母親に恋愛的な好意を覚えるか?」
「お前・・・何言ってんだ? おぞましいことを言うーーーーはっ?!」
「わかったか。つまりはそーゆーことだ」
なんてこった、俺だいぶ絶望的じゃないか・・・
俺は将来の絶望的な展望を想像し、歯ぎしりが止まらない。そして、その俺の姿を見て楽しそうに笑うやつが一人いた。トモだ。
「まぁ、そういうことで健太は彼女作りはをあきらめて、スーパーウーマンにでもなるんだな、独り身の」
「このヤロウ・・・! 調子乗んなよ、非モテイケメンが! お前こそ、アイドルグル―プにも入ってすらないのに、なんで進んで恋愛禁止してるんだ? あっ、違うか。ただモテないだけかぁ!」
「「なんてこと言いやがる、こいつ!」」
俺たちはご飯を二の次に、お互いに取っ組み合いを始めた。こいつだけは許せん、顔をぐちゃぐちゃにして、中身にふさわしい見た目に改造してやる!
すると、マルがその取っ組み合いの間に仲裁に入ってきた。
「あー! もう二人ともやめて。ほら、ほかの人たちも見てるから・・・!」
必死に仲裁に入るマルを見て、俺は握った拳をほどいた。奴は帰りに始末するか。
俺はすっかりぬるくなったきつねうどんをすすりながら、ふと思った。
「あーそういえば、マル。お前はどうなんだよ」
マルだけ何もこの話の中心になっていない、そう思った俺は何とかなしにマルに尋ねた。
「どうって?」
「マルはモテたいとか、思うのか?」
俺が聞くと、トモのご飯を食う箸が止まる。どうやら、トモもこの話題が気になるらしい。
マルも箸を止めると、少し考えた後に言った。
「僕はモテなくてもいいかな」
その言葉は池に落ちた雫のように波紋を広げ、俺たちの脳髄に届いた。その瞬間、俺とトモは目を合わせて気持ちが通じ合う。
「うわ、来ましたよ奥さん。聞きましたか、今の一番だめですよねぇ」
「いや、もうほんとよ! してはいけないこと第一位じゃない?」
「自分は恋愛に興味ない恋愛第三者視点で見てるやつが一番、タチ悪い」
「そういう人たちに限って、裏で彼女作りに必死なのよ」
「・・・急に仲良くなるね」
マルは呆れたように言った後、弁解をしてきた。
「違うよ、僕はそういうんじゃなくて」
そして、言葉の続きを喋ろうとマルは苦とを開くが、どうやら躊躇しているようだった。しかし、マルは目を見開くと、小さな声で言葉を紡いだ。
「好きな人がいるから・・・・・・」
「「え?」」
その瞬間、俺たち二人の素っ頓狂な声が食堂に響いた。
好きな人って・・・―――初耳なんですけど。
非モテ男子三人衆は美少女たちの好意に気づかない。 わをん @asahaiiyo
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