僕のおはなし

@nakamuramikel

第1話

彼は小さな時から泣かなかったんだ。

転んでも、悪口を言われても、注射をされても

泣くことはなかったんだ。

でも…ある時、彼は一粒…涙を流したことがあったんだ…そう、彼が父親になった時さ。

いい人だろう?感動で泣ける男なんて、かっこいいじゃないか。憧れるだろう?

…でもね、彼は父親になってすぐ、死んじゃったんだ。…いや、正しくは「父親の彼」は死んだんだ。

なぜって?一人になったからに決まってるじゃないか

彼の父親としての人生は…まぁ、そこまでだったんでしょ。

皆数ヶ月前は彼の前に笑顔で「おめでとう」を言ってたのに、今はみんな黒い服で顔をハンカチで拭いてばかり…つまんないねえ。

彼はね、またしても泣かなかったんだ。悲しみって、そういうもんでしょ?

でもあの時の彼はね、滝のように汗をかいていたよ。暑すぎたのか、ずっと声を漏らしながね。大きな部屋の中にただただ、彼の声が響くだけ。

え?ほんとに彼は汗をかいていたか?うーん、多分ね。

でも彼は最後まで「彼」であろうとしてたんだ。子供のように泣く人間は、彼自身が許さないだろうね。

でも、泣けない自分を恨むことしかできなかったし。

どっちにしろ…彼が大きなベッドにたくさんの写真立ての広がる家に帰って…ゆっくり休んだよ。


さあ、君ももう寝る時間だろ?話しの続きはまた明日してあげるからね、僕はいつでもここにいるから…え?会えるかは別だよ。さあさあ、僕のことはいいから寝なさい。彼のように汗をかいてしまうよ?

寝て起きれば元気になるだろ?ほらほら、寝た寝た。


…眠くなってきたかい?そうか、じゃあ、ゆっくりと


「おやすみなさい」

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