キューブの正体
いおにあ
第1話
火曜日の朝、ロボット研究所に出勤した
何かの取材かな。だったら他の連中に任せておこう。そう思い、水野博士はその人だかりを通り過ぎて、玄関を抜けようとしたのだが、同僚の
「おー、水野博士。ちょっとちょっと」
「どうしたんですか、墨田博士」
水野博士はやや顔を曇らせる。お世辞にも社交的とはいえない彼は。取材などは極力受けないようにしているのだ。
だが、そんな水野博士の懸念も、墨田博士の次の言葉で払拭される。
「博士も是非ご一緒に、この謎を解明しましょうよ」
謎?どういうことだろうか。
「まずはこちらを見てください」
墨田博士は、人混みをかき分けて、
そこにあったのは――ひとつの箱だった。
一辺の長さが約一メートルといったところの、立方体。色は白。素材はプラスチック。
「これはなんですか」
疑問を口にする水野博士に、墨田墓が説明する。
「これはですね・・・・・・
「え?アメリカからですか」
水野博士は首を
「なにか、メッセージとかなかったのですか」
「ありましたよ。はい」
墨田博士は、ポケットから紙を一枚取り出す。そこにはたった一文、ワープロの文字が印字されていた。
「この試作ロボットを起動させてみよ」
「なんですか、これは」
「知りませんよ。で、今朝からこうしてみんなで、このロボをどうにかこうにか起動させようとしているわけです」
この無機質なプラスチックの立方体が、ロボット?でも見たところ、センサーとかもなさそうだが・・・・・・。
「さっきからみんなで押したり引いたりしたんですが、うんともすんとも言わないんですよね。羽川博士、いったいなにを考えているのかなあ」
こういう人を
「ボタンとかは、ないのですか」
「色々調べましたが、ありませんねえ・・・・・・」
水野博士は考える。となると、この立方体ロボットは、どのようにすれば起動するのか。 ええい、この
「あ、水野博士、何をなさるんです」
バンッ。水野博士は思いっきり、立方体を
「博士、いくらなんでも乱暴過ぎますよ・・・・・・」
「でも墨田博士、こうでもしないと、考えられませんでしょう」
「それにしても、万が一壊れてしまったら・・・・・・」
「説明しない羽川博士がすべて悪いんですよ。ひょっとしたら、ガスバーナーで高温で焼けば、動き出すかも」
「やらないでくださいよ?そんなことやってたら、この変なロボットはともかく、研究所そのものが火事になりますから」
二人の博士のやりとりなど知るよしもないという風に、立方体は静かに床に
「ひょっとして、向きが関係しているでは・・・・・・?」
「そうか。それもあるな」
最近、研究所で働き始めた若手職員のアドバイスを受けて、皆で立方体の向きを変えたり、ひっくり返す。ついでに叩いたりもする。だが、立方体はびくともしない。
「はあ~・・・・・・これ、羽川博士の
「そんなはずはない。とにかく、なにかしないと・・・・・・」
「まったく、
水野博士、不満たらたらの様子で、立方体の近くに行き、つま先でコンッ、とそのプラスチック製の表面を小突いた。こいつめ、どうすればいいのだ。
ところが、そのとき。あれほど押しても引いても叩いても反応を示さなかった立方体が、シュオシュオシュオ・・・・・・と音をたてはじめた。そして側面が開き、中からロボットアームが伸びてきて・・・・・・。
「「「あ、動いた!!!」」」
一同、驚きの声をあげたのだった。
♢ ♢ ♢
一週間後。研究所の近所のカフェにて。アメリカから一時帰国した羽川博士と、水野博士と墨田博士が、コーヒーを片手に例の立方体ロボットについて話している。
「あれは、アメリカで研究しているロボットでしてな。普段はロボットであることを隠して、でもいざというときに素早く起動できるようなのを、というコンセプトで開発しているものなのです」
「でも、それならどうして我々にその説明なしに、いきなり我々のところへと送りつけてきたのですか?」
墨田博士のごく自然な疑問に、羽川博士は
「なにも知らない人たち相手に、どこまで起動せずに済むか、ちょっとテストをしてみたかったのですよ」
「・・・・・・で、起動条件がつま先で軽く蹴る、ですか」
眉をひそめて、水野博士は呟く。
「そうです。中々良いアイデアではありませんかの?」
「そうとも思えませんよ。誰かが間違えて蹴れば、ロボットの正体がいともたやすくバレてしまいます」
「そこにはちょっと工夫していましての。意識的に、つま先で軽く蹴ったときにのみ作動するようにのみ、あのロボットは起動するのです。その角度とか、力の大きさとか、まだまだ課題は多そうですが・・・・・・」
でも確かに、手で強く叩いたときは無反応だったしな。水野博士は、少し納得する。
「コーヒーのお代わりはいりませんか」
そのとき、ウェイターロボットがテーブルにやってきて、博士たちに声をかけてくる。
「ああ。もう一杯もらうよ」
ロボットは、
ウェイターロホットは、タイヤを回しながら、地面を滑るように移動して、店の奥へと消えていく。
確かに「つま先で蹴る」という単純な動作は、意外にロボットで再現するのは難しいかもな。
キューブの正体 いおにあ @hantarei
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