●第4章:『大地の囁き ~生きることで見える世界~』
季節が移り変わり、私はこの時代の暮らしにすっかり馴染んでいった。毎日の営みの中で、前世では想像もできなかった多くの学びがあった。
特に印象的だったのは、狩りの技術を学んだ時のことだ。
「息を殺して。風の向きを感じて」
父のガルーが、低い声で指示を出す。前方には、カンガルーの群れが見える。
現代の狩猟は、多くの場合、スポーツや趣味として行われる。しかし、この時代の狩りは全く異なっていた。それは生存のための必要不可欠な営みであり、同時に深い精神性を伴う儀式でもあった。
「獲物の命をいただくということは、大きな責任を負うということだ」
ガルーの言葉は、現代社会が忘れかけている大切な真実を含んでいた。
投槍器を構えながら、私は獲物との間に不思議な一体感を覚えた。これは単なる「狩る者」と「狩られる者」という関係ではない。同じ大地の子として、命のバトンを渡し合う神聖な出会いなのだ。
槍が放たれ、一頭のカンガルーが倒れる。
「ありがとう。あなたの命を無駄にはしません」
ガルーが詠唱するように唱えた祈りの言葉に、私も心を合わせる。
その日の夕暮れ時、部族の人々が集まって獲物を分け合った。肉は余すことなく使われ、皮は衣服に、腱は道具の材料になる。現代社会の無駄の多さを思うと、胸が痛んだ。
「ワイラ、あなたの目が悲しそうね」
イラーナが私の横に座る。
「お母さん、人間は本当はもっと自然と調和して生きられるはずなのに……」
言葉に詰まる私に、イラーナは優しく微笑んだ。
「それを知っているあなただからこそ、ここに来たのよ」
その言葉は、私の使命について考えるきっかけとなった。私は単に過去を観察するために来たのではない。何か、未来に伝えるべきメッセージがあるのだ。
夜、たき火を囲んで部族の人々が集まった。今夜は満月で、特別な物語を語り継ぐ日だった。
ジャガラが口を開く。
「大地には記憶がある。私たちの祖先の記憶が、岩にも、木々にも、風にも刻まれている」
その言葉を聞きながら、私は現代の環境問題について考えていた。人類は開発という名の下に、この大地の記憶を消し去ろうとしているのではないか。
月の光が赤土を銀色に染める中、私は決意を固めた。この体験を、何らかの形で未来に伝えなければならない。それは単なる学術的な記録ではなく、魂の記憶として。
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