●第5章:『虹蛇の系譜 ~受け継がれる魂の記憶~』
時が流れるにつれ、私は部族の中で重要な役割を担うようになっていった。特に、若い世代への知恵の伝授において、二つの記憶を持つ私ならではの貢献ができた。
「ワイラ姉さん、この模様には何か意味があるの?」
小さな妹分のキラが、洞窟の壁画を指さして尋ねる。それは、渦巻状の模様で、私は前世の研究でその意味を理解していた。
「これはね、時の流れを表しているの。でも、私たちが考える時間とは少し違うのよ」
私は、現代的な時間概念と、アボリジニの循環的な時間観を、子供にも分かるように説明しようと試みた。
「見て、この渦は終わりがないでしょう? 始まりも終わりもない、ずっと続いていく輪のよう」
キラの瞳が輝く。
「じゃあ、私たちも、この輪の中にいるの?」
「そうよ。過去も未来も、全て今この瞬間の中にある。だから、昔の人の知恵は、今を生きる私たちの中にも息づいているの」
その言葉を語りながら、私は自分の存在がまさにその証明であることを実感していた。
ある日、ジャガラが私を呼び出した。彼の容態が悪化していたのだ。
「ワイラ、お前に託したい物語がある」
それは、部族に伝わる最も神聖な物語の一つだった。気候の変動と、それに適応してきた祖先たちの知恵を語り継ぐ重要な内容を含んでいた。
「でも、長老。私にはその資格が……」
「お前こそが最適任だ。お前は二つの目を持っている。過去を見る目と、未来を見通す目を」
ジャガラの言葉に、私は深く頷いた。この物語は、現代社会が直面している環境問題への示唆を含んでいた。気候変動に対する伝統的な知恵は、科学技術だけでは解決できない問題への、貴重な指針となるかもしれない。
その夜、満月の下で特別な儀式が行われた。私は部族の歌い手としての資格を正式に認められ、神聖な物語を預かる役目を託された。
「大地の声を聴き、星々の導きを信じ、風の言葉を理解する者として、ワイラを認める」
長老たちの声が夜空に響き渡る。私の心は、感謝と責任感で満ちていた。
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