ダンジョンおたすけ隊のお店を開店しました。

@paztaroimo

第1話 開店準備

俺の名前はエルド。

この度多くの方々のご助力を得て自分の店を持つことができた。当店はダンジョン内での問題を解決するためのレスキュー隊を派遣する。困った時はいつでも相談してくれ、相談料は無料だ。

きっかけはこの城塞都市モンデリングに存在するダンジョン、アストラム星刻塔に10年以上挑戦し、遂には最上階まで辿りついた経験を活かして、若者の挑戦に手を貸したいと思ったからだ。

ちなみに俺自身冒険者としてはもう満足している。

最上階での敗北が俺の冒険者人生を完結させてしまったからだ。

いつかあの竜を倒すことができる挑戦者の助けになることが当店の目標だ。


店の立ち上げにどうしても必要だったのがスタッフだ、俺はダンジョンの知識には自信があったが経理などの知識はない。

一人でできる事に限りがあった為、ギルドに頼みスタッフの募集をかけたのだ。

冒険者ギルドには冒険者のセカンドライフの為の相談窓口というものがある、そこでうちの店を働き先として紹介してもらえるように依頼した。

店は徐々に大きくしていけば良い、とりあえずスタッフ2名の募集をかけ

その間に買い取った古宿を改築をしていく。

来月には開店予定だ。

ちなみにこの古宿はダンジョンの入り口に近く、大きな風呂もある。風呂は俺の趣味だが、好立地なため少々高値だったが購入を決めた。

冒険者としては結構稼いでいた方で金ならある、店内の内装に拘るのも楽しく、ついつい浪費してしまう。

椅子も机も照明も拘りたい、実はインテリアが好きなことに気づく。都市内の家具屋を巡り歩く日々、昔ダンジョン内で手に入れたあの豪快な猿の置物も受付に飾ってみようか…なんてことを考えていたところ、求人に応募があったとの連絡を受け応募者を店に案内してもらう事になった。


なんか緊張する!面接なんてした事ないからな。

でも店長である俺がしっかりとした態度でいないといけないよな、

できたばかりの新店だ、働く人が不安になることのないように。

気合いを入れ直し、面接の時間を待つ。

しかし種族くらい聞いておけばよかった…なんて思っていた頃。


「失礼します、本日面接でやってきました、モノズ・ベリルです」


おっ、人族の女性だ!

「お待ちしていました、店長のエルドです。本日はお忙しいところありがとうございます。」


「…」

あれ、なんか黙って立っているぞ


あ、そういうことか

「すみません、それではこちらにおかけください。」


「はい、失礼します。」


「すみません、この店これからオープンでして私もまだ慣れていないもので、でもしっかりと安心して働ける環境を用意していきますからね!」


「いえ、私も冒険者以外のことは分からないことが多く、至らぬ点も多いかと思いますが本日はよろしくお願いします。」


良い人だぁ、結構若いよな、しかし女性の年齢はわからないからな。


「こちらこそよろしくお願いします!それではまず当店での業務内容をお話しさせていただきまして、それからベリルさんに色々と質問などさせていただきますね!」


「承知しました、よろしくお願いします。」


「それでは当店の主な業務としてはダンジョン内での困りごとの解決です、救助依頼があれば助けに行き、物資を届けてほしいという依頼があれば届けにも行きます、貴重な素材を受け取り、持ち帰るなんて依頼もあるかもしれませんね、後は上に向かうにつれ危険も増えていきますが、上層は私が向かいますのでご安心ください。無理の無い依頼からお任せしたいと思います。」


「はい、ギルドでも救助依頼はあると思うのですが、どう違うのでしょうか?」


「大きな違いはありませんね、強いて言えば金額でしょうか、駆け出し冒険者はお金がありませんからね、近年冒険者が増えているので救助依頼を受けてくれるのはありがたいとギルド側からも言われましたね」


「ありがとうございます」


「次にやっていただく事になるのは受付、事務作業です、元冒険者という事で慣れない作業だと思いますが、私もそうです、全然分からないので外部の力も借りつつ少しずつ覚えていければと思いますが、抵抗はありませんか?イメージとしてはギルドの受付嬢のような感じかと」


「はい、そういう業務もあるとギルドでの紹介の時に聞いていましたので承知して来ています。」


ちょっと堅いけど真面目そうで良いよな


「ありがとうございます。それでは条件面のお話になります

まず給料は固定で月に25万G 業務の難易度によるインセンティブも用意しますが、まだ適正な金額を設定できる経験がない為、最初の1年間は3ヶ月毎にあるボーナス月に固定で30万Gを給料に上乗せさせていただきます、残業が発生した場合、しっかりと残業代をお支払い致します。」


「次に休日ですが、この店の定休日を月に2日作ります、それに合わせて休んでいただくのと週に1日は自由に休めるようにシフトを組みたいと思います」


「営業日は7時から22時までいつでも依頼を受ける予定でいますので、残業やダンジョン内での宿泊なんかも発生するかもしれません。ここは古宿を改築していますのでスタッフ各々に部屋を割り当て宿泊できるようにもなっていますので、もし朝が苦手だったり疲れて帰ってきた時にはご利用ください。そしてここには大きな風呂もあります、男女分かれていますのでご自由にご利用ください。」


「わかりました、住み込みで働くことができるのはとてもありがたいですね」


風呂は響かなかったか。


「業務上での怪我などが発生した場合はお店負担でリーチェ医院の治療を受ける事が出来ますので、安心してください。」

「今の所、何か質問はありますか?」


「いえ、特にありません。しかしリーチェ医院と提携しているんですね、ここらでは1番腕の良い医療機関だと思うのですが」


「あぁ、私の冒険者時代のコネで今の医院長とは知り合いで、頼んでみたら快く引き受けてくれたんですよ」


「そういう事でしたか、ダンジョンで人との繋がりが生まれるなんて羨ましいです」


「冒険者時代、人には恵まれていた気がします。」

あんまり誰かと助け合った経験はないのかな?


「あっ、それではベリルさんの事についてお話し聞かせていただきますね。」

「冒険者としてどのくらいの期間活動されていたのか、ダンジョンの階層はどこまでいかれたのかお聞かせください。」


「はい、冒険者としては2年前から1週間前まで活動していました、階層は最後に到達したのは55階層です」


何っ!たった2年で50階層越えとは相当強い人だな

パーティに恵まれていた可能性もあるが、それでも自分を守る力がないと到達できないぞ。

「2年で55階層ですか!それは凄い経歴ですね。パーティではどのような役割をしていましたか?」


「すみません、私パーティを組んだことがなくて、基本的は一人で何でもしていた感じで」


マジか!一人で55階層まで到達したのか!?

逸材すぎて冒険者続けた方が良いんじゃないか

俺はこういう冒険者もサポートする為にこの店を開業したんだけど…


「あのー、その話が本当なら、冒険者を続けた方が良いと思うのですが、何故冒険者を辞めたんですか?」


「その、苦しかったからですかね」


苦しいか、真っ当な理由だな


「そうですか、確かに一人での冒険は苦しいことが多いと私も思います」


「ダンジョンに潜っている間は、ずっと心も休まらないですし、お金が沢山欲しいわけじゃ無いのにこんな危険な事をして、でも私は戦うことしかできなくて、実は人との関わりも苦手で」


相槌を打ちながらベリルさんの話が尽きるまで好きに話させる事にした。


「50階層を一人で踏破することで、多くの人に認められて、必要とされる人間になれるんじゃ無いかって、55階層まで行ったのは念の為ですけど…」


「でも、ダメでした。ソロで55階層から帰ってきた私についたあだ名は、狂気のアウトサイダー・ベリル 

一人でそんな高い所まで昇って帰って来れるなんてやばいヤツだって。

そんな私に近づく人は誰もいなくて… いても同じくヤバイ集団の冒険者達で、私怖くて」


あー狂気のアウトサイダーさんかー、聞いたことあるぞー

付けてるマスクも呪具で、外せないから誰も顔を見たことが無いとか噂あったよなぁ…


「そんな変な噂を払拭できるような明るい振る舞いできないし、冒険者辞めても、そんな変な二つ名を持った人を雇ってくれるお店は無くて、そもそも狂気もアウトサイダーもダサいし、全然かっこよく無いじゃないですか、人に対してそんなダサいあだ名つける人しかこの世にいないんだと思ったら辛くて、でもギルドの受付のリースちゃんだけが本当の私のこと解ってくれて、それでリースちゃんに相談したら、このお店の求人教えてくれて、ここの人強いから大丈夫って」


おぉ、喋るぞこの人、他人事ですまないが涙ぐみながら頑張って話しているけど内容は面白いんだよな


「リースさんは良い人だよなぁ、俺もお世話になっていたよ」


「はい、それで受けに来ました。」


「なんだか志望理由まで答えてもらいましたね、リベルさんがどういう人なのか何となく分かりました、ありがとうございました。」


「一応聞きますが、冒険者に未練は?」


「無いです。」


「仕事をしていく上で人との関わりは確実にありますが、不安ですか?」


「不安ですが、仕事上の処理として頑張ろうと思います…」


「そうですか…まぁ何事も経験ですからね、業務中に気の合う冒険者との関わりが生まれて、その積み重ねで苦手な人付き合いも改善されていけば、この店で働いたメリットになるかもしれませんね!」


「はい、頑張りたいと思います!」


しかし何故冒険者を始めたのだろうか

あまり詮索すべき部分では無いか


「それでは少し実技というか、どのような力を持っているか見てみたいのでちょっとダンジョンに行きましょう」


「使っている武器は何ですか?」


「えっと、大鎌です!」


狂気のアウトサイダーっぽいじゃん

人としては採用したい。苦手なコミュニケーションだって何とでもなるさ

あとは腕だけだ、危険の伴う仕事だからこそ、この目で確認しなければいけない。55階層到達の力を見せてくれ。

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