05 神様の食事(カレーライス)
「お風呂……ですか……!」
お風呂。もちろんわたしも存在は知ってる。でも、入ったことはない。わたしの世界では、風呂は貴族が入るものだったから。
平民はどうやって体の汚れを落としていたかと言えば、汚れを落とす魔法というものがあったから困らなかった。だからお風呂には入ったことはない。気にはなっていたけど。
「あとでいっしょに、入ろうね?」
そうハナ様が笑顔で言ってくれる。まさか、神様と一緒にお風呂にだなんて……。い、いいのかな? あとで怒られたりしないかな?
「ゆ、許してもらえるなら、是非!」
「うん!」
にぱっと笑うハナ様はまるで天使のようでした。いや、神様なんだから天使は失礼か。
サキ様が大きめの鍋をかき混ぜている。わたしに手伝えることはないみたいだから、ハナ様に連れられてテレビというものを見ることになった。
さっきの広い部屋には大きなテーブルが置かれていて、椅子も四つ用意されていた。その側の壁には大きな黒い板が設置されている。テレビ、というものらしいけど、あれを見て何が楽しいんだろう。
そう考えていたら、ハナ様がテーブルの上にあった細長い何かを手に取った。なんだろう。なんだか、ボタンがたくさんあるような……。
ハナ様がボタンを押す。するとテレビにとても現実的な絵が表示された。しかも、動いてる!
「な、なにこれ!?」
「テレビだよ?」
「て、てれび……!?」
これが、テレビ……! よくよく見てみると、どうやら遠くの風景を投影しているみたいだ。魔力も使わずにこんなことができるなんて……。信じられない。
「アニメ、やってないねー」
「あにめ?」
「えっとね……。うーんと……。動く、絵?」
「動く絵……?」
なにそれこわい。そんなものがあるの……? こういう現実的な絵じゃなくて?
テレビというものが、次々に映像というものを流している。本当に、すごい。
どうやら今は、あちこちで起こった出来事を伝えるニュースといものをしているらしい。ハナ様はあまり面白くなさそうにしているけど、わたしにとっては興味深いものばかり。
神様の世界でも、いろいろあるみたい。神様にもきっと、良い神様、悪い神様がいるんだろう。悪い神様が何かをして、それを捕まえた、という内容が多い。
興味深くそんなニュースを眺めていたら、それが流れ始めた。
「これは視聴者さんが撮影したものです」
そんな前置きがされて流れたのは。
「あー! 魔女のおねえちゃんだ……!」
「わ、わたし!?」
わたしだった。間違い無くわたしだった。空を飛ぶわたしを、地上から撮影、というものをした映像らしい。いろんな神様がわたしのことを目撃して、そしてこうして動画に残していたんだとか。
神様には驚かされてばかりだ。まさか、こんな簡単に記録を残せてしまうなんて。
「あー……。やっぱりニュースになってるよね……」
サキ様が戻ってきた。その手には、湯気の立つお皿。なんだか刺激的な香りが鼻をくすぐってきて……。お腹の音がなった。
「あ……」
「あは。お腹の音はかわいいね。きゅるる、だって」
「や、やめてください……!」
我慢できなかった私の自業自得だけど、口で言われるととても恥ずかしい……!
サキ様はニュースというものが気になるみたいだけど、わたしの興味はもう完全に料理だ。早く、早く食べてみたい……!
「さ、サキ様……!」
「ああ、うん。ごめんね。どうぞ」
そうして、わたしの目の前にそれが置かれた。
見た目は、なんだろう。はっきり言って、排泄物のようにも見えて、あまりよろしくない。でも香りは暴力的だ。食欲をそそる香りが鼻をくすぐって……。なんて料理なんだ!
「ほらほら。どうぞ」
「で、では……!」
わたしがスプーンを手に取ると、ハナ様が叫んだ。
「だめ!」
「え?」
「いただきます! するの!」
「い、いただきます……?」
なんだろう。神様の祈りかな? わたしが困惑していると、サキ様が教えてくれた。
なんでも神様たちは、料理を食べる前に手を合わせて、いただきます、と言うそうだ。食べ終わったら、同じようにしてごちそうさま、と。
「いただきますは、これからいただく食べ物に感謝をこめて。ごちそうさまは、料理を作ってくれた人に感謝をこめて。私はそう教わったかな」
「なるほど……!」
確かに、食べるということは命を頂くということ。お肉なら動物の命を奪ったものだし、野菜であっても野菜の命を奪っている。そうしたものに感謝をこめて、いただきます、と。
ああ……。素晴らしい。さすがは神様。慈悲深い。わたしも、この気持ちは大切にしないと。
しっかりと手を合わせて、感謝をこめて、いただきます。
「よし!」
「ハナは何目線で言ってるの?」
改めて、カレーライス、というものを頂く。スプーンで謎の液体とお米をすくい、口に入れた。
「こ、これは……!」
確かな辛さの中に野菜や肉のコクが合わさって、なるほどこれは美味しい。この液体だけだと味がきつすぎるかもしれないけど、それをご飯がほどよく中和してくれていて……。
とても、美味しい!
「はぐ……あぐ……もぐ……」
「さすがカレー。異世界の人にも通用するんだ……」
「カレーおいしいよね!」
「んぐ……。美味しい、です……!」
まさしく……至高の料理……! わたしの世界のご飯もまずいわけじゃなかったけど、これと比べるとカスだね! カレーライス、美味しい!
恥知らずにもお代わりを頼んで二杯目を頂いていたところで、ハナ様が言った。
「おねえちゃん、ハナたちのご飯、どうするの?」
「んぐ……!?」
待って。待ってほしい。まさか、これ、サキ様とハナ様のご飯だったの……!?
わたしが凍り付いてしまったのに気付いたのか、サキ様は笑いながら言った。
「出前……ピザでも頼もうか」
「ぴざ! すき!」
「うんうん。だからティルエルは気にせず食べてね」
ちゃんとお二人にもご飯があるようで、とても安心した。わたしのせいで晩ご飯がなくなった、なんてなったら、どう罪を償えばいいのか分からなくなるところだから。
ところで。
「ぴざ、とは……?」
そう聞くと、サキ様はにやりと意地悪く笑った。
「ティルエル。まだ食べられるかな?」
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ゲーム魔女の現代観光 龍翠 @ryuusui52
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