04 神様の住まう家(マンション)
サキ様に案内された場所は、十階建ての大きな建物だった。横に広い建物で、大きな入り口がある。ドアノブはないみたいだけど……。魔法で開けるのかな。
「ここが私たちの家……」
「こんな大きな家……! さすがです、サキ様!」
「全部じゃないからね!?」
話を聞いてみると、この大きな家にたくさんの神様が住んでいるらしい。わたしの世界にも同じ建物に複数の人が住んでいるというのはあったけど……。こんな大きな規模だなんて、信じられない。
さすがは、神様の家……! どうやって作ったのが、想像もできない。
神様と一緒に建物の中に……。ドアが自動で開いた!?
「す、すごい……! 魔力を感じなかったのに、開いた!? これが、神様の魔法……!」
「いや、魔法じゃないんだけど……」
「魔法じゃない……? どのように動いているのですか!?」
「電気の力だよ」
「電気……? それが、神様たちが使う魔法の正体……!?」
まさか魔力も使わずに物体を動かすことができるほどだなんて……。あの世界での魔法は極めたと思っていたわたしだけど、やはり神様の世界から見ると児戯も同然だった。
しかも魔法みたいに特定の個人しか使えないというわけじゃない。このドアは誰が近づいても勝手に開くらしい。仕組みが……仕組みが知りたい!
「か、神様! サキ様! 調べてみたいです!」
「うんうん。後にしようね。ちょっと目立つからね?」
「くっ……。了解、しました……!」
「そこまで悔しそうにされるとは思わなかったよ……」
改めて、勝手に開くドアをくぐった先は、さらに同じようなドアが待っていた。私の目には透明な壁のようにしか見えないけど、これはさっきと同じドアなんだと思う。けれど、今回は近づいても開いてくれなかった。
サキ様がドアの隣にある小さな何かに触れる。なんだろう。数字の書いたボタンに、他にもいくつかのボタンがあって……。
サキ様が数字のボタンをいくつか押してさらに別のボタンを押すと、またドアが開いた。
「まさか……今のは、鍵か何かだったのですか!? 番号の……? 魔法も使わずに!? ああ……未知が……未知がたくさんだ!」
「あはは! おねえちゃんおもしろーい!」
ハナ様が笑っているが、わたしには気にする余裕がない。ああ、こんな、建物一つだけでこんなにたくさんの未知が……!
「はいはい。さっさと行くよ」
サキ様に手を引かれて歩き始め……。手を引かれ?
「さ、さささ、サキ様!?」
「え、どうしたの?」
「て、手が……手を握られ……!」
「あ、ごめん。嫌だった?」
「わたしのような薄汚れた魔女の手に触れては、サキ様が汚れます!」
「卑屈すぎない?」
サキ様は笑うだけで、手を離してはくれなかった。
ああ……これが、神様の手……。やわらかくて、温かくて……。いいなあ……。
「うーん……。ティルエルの手はちょっと冷たいね」
「も、申し訳ありません!」
「怒ってるわけじゃないからね?」
違ったらしい。けれど、サキ様は嫌じゃないんだろうか。こんな手に触れるなんて……。
そう考えていた間に、とても広い部屋を抜けて、またドアを抜けた。今度はとても小さな部屋だ。人が十人と少し入れる程度の部屋。まさかこの部屋が……。
そう思っていた間に、部屋が動き出したのが分かった。これは……もしかして、上に動いてる……? 部屋ごと、移動してる!?
「さささサキ様サキ様これはなんですか!?」
「これはね……」
「えれべーたーだよ! 上とか下に運んでくれるの!」
ハナ様が答えてくれた。えれべーたー……。なるほど、一人が自分の魔法で飛ぶよりも、部屋ごと大人数を運ぶ方が効率がいい……。その発想は理解できるけど、実現するなんて。
「おねえちゃん、魔女のおねえちゃんが震えてる」
「感動に打ち震えるってやつ、初めて見たよ……」
エレベーターはあっという間に目的地についたようで、ドアが開いた。そこからの景色は、さっきまで見ていたものとは違うものだ。
少し広めの部屋の両端に、廊下が繋がっている。その廊下の片側は外で、なかなかの見晴らしだと思う。もう片方の壁側には、いくつかドアが並んでいた。
「このドアのそれぞれに人が住んでるんだよ」
「なるほど……。宿屋みたいなものですね」
そう考えると、なんとなくしっくりきた。宿屋を家だと考えて、それぞれの部屋に住む……。素晴らしい考えだと思う。
そう考えると、それぞれの部屋はあまり広くないのかな? 一部屋か二部屋があって、そこで生活している、みたいな感じかな。神様であっても、居住スペースの確保はやはり難しいのかも……。
サキ様がドアを開いて、わたしを中に通してくれた。
「あれ……?」
思っていたよりもかなり狭い。狭いというか、生活できるスペースとは思えない。神様たちは、こんなに窮屈な生活を……。
「当たり前だけど、廊下だからね、これ」
「あ、はい」
なるほど廊下。ということは、もっとたくさんの部屋が……?
神様の家は、どうやら最初に靴を脱がないといけないらしい。靴を脱いで、廊下へ。短い廊下で、奥と左右にそれぞれドアがあった。
「あのね! ここがおといれ!」
ハナ様がそう言って右側のドアを開けた。覗いてみると、見慣れない椅子のようなものがある。なにこれ? これが、トイレ? つまり、あそこに座って、出せばいいと?
「これを押すと水が流れるんだよ!」
ハナ様がトイレの横のボタンを押すと、水が勢いよく流れ始めた。
なにこれ。まさか、自動で流してくれる、と……!?
「ど、どうやってですか!?」
「え? んと……。お、おねえちゃん……!」
「あー……。排水管を流れていくんだけど……。分かる?」
「分かりません!」
「だよね」
これもあとで是非とも知りたい。神様の世界は、本当にすごい……!
ああ、なんだろう。ちょっと童心に返りそうになるよ……!
「向かい側の部屋とか、聞いてみても……?」
「んー……。私とハナの部屋。私がゲームをする部屋でもあるんだけど……。それは、あとで教えてあげる」
「はい! 楽しみです!」
「楽しみにされるようなものはないんだけどなあ……」
では今度は、突き当たりのドアへ。そこのドアを抜けると、とても広い部屋が広がっていた。私の世界の宿よりもはるかに広い。さらに驚いたのが、そんな広い部屋の左右の壁にはさらにドアがあったこと。あちらはサキ様のご両親が使っているのだとか。
「神様のお父様とお母様……。どのような方なのでしょう……!」
「…………。ティルエルからすれば、神様、かな……」
「はい?」
もちろん神様だろうけど、それを言うならサキ様もハナ様も神様だ。サキ様は何を言っているんだろう?
わたしが首を傾げていると、サキ様は苦笑いして手を振った。
「それよりも。ティルエル、お腹減ってない? 昨日の残りのカレーライスでよければ温めるよ」
「神様のご飯をわたしが食べてもいいんですか!?」
「いちいち反応が大げさだなあ」
大げさとは思わない。だって、神様のご飯だ! とても、とても気になる! きっと天にも昇るような味のはずだ。ああ、楽しみ……楽しみだなあ……。
「本当に頂いてもいいのなら、是非……!」
「あはは。じゃあ、用意するね」
サキ様が入ってきたドアの左側に向かった。そこはどうやら炊事場になっているみたいで、調理器具などが置かれているみたいだ。さらにその炊事場の奥にもドアがあって、そこはお風呂になっているのだとか。そうハナ様が教えてくれた。
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