03 姉妹の神様


 どれぐらいそうしていたかな。いつの間にか当たりは夕焼けに染まり始めていて。気が付けば、目の前に女の子がいた。

 六歳ぐらいの女の子。いや、この子も神様だから、生まれたばかりの神様なのかもしれない。ならわたしよりも、ずっと格上だ。

 そんな神様がわたしをじっと見てる。どうしよう。すごく怖い。

 その神様が、にっこり笑って言った。


「こんばんは!」

「こ、こんばんは……」


 挨拶だ。神様に挨拶してもらった。すごく嬉しい。


「おねえちゃん、ここで何してるの?」

「え、あの……。その……。ちょっと、落ち込んでいるといいますか……」

「かなしいことがあったの?」

「そんなところ……です」


 ただ自分がバカなだけ。ただそれだけ。あまり言えないけれど。

 神様は不思議そうに首を傾げていたけど、すぐににぱっと笑って言った。


「あそぼう!」

「え?」

「おねえちゃんがね、かなしいことがあったら、いっぱい遊んでわすれたらいいよって言ってた!」

「忘れる……」


 それは、不敬じゃないかな。神様の世界に勝手に来て、勝手に落ち込んで、最後は忘れる。なんて失礼な……。


「せなかおすよー!」

「え、わ、わ……」


 神様がわたしの背中を押した。ブランコがゆっくり揺れる。自分で空を飛ぶ方がずっと速い……のだけど。


「えい! えい!」

「わ……」


 なんだか、背中を押してもらって揺れるというのがとっても新鮮で、不思議と楽しかった。


「あは……」

「えい! えい!」

「あはは……あはははは!」


 ああ、こうして笑ったのは何時ぶりかな。あの世界で、自分は一人だと思って、それからもう遊んで笑うなんてことはなかったかもしれない。笑ったのは……転移前のあの時ぐらい、かな……?

 なんだか、とても楽しい。


「おねえちゃん! わたしも! わたしも!」

「分かりました!」


 今度は小さな神様がブランコに座って、わたしがその背中を押す。もちろんわたしがやってもらった時と同じように、加減はする。速すぎないように、揺れを楽しめるように。


「わあ!」


 神様の歓声。喜んでくれたみたい。今はそれが、とても嬉しい。

 そうして、神様とブランコで遊び続けて。


「なにこれ……?」


 そんな声に、我に返った。


「あ、おねえちゃん!」


 そこにいたのは、黒を基調とした不思議な服……セーラー服、だっけ。それに身を包んだ少女。多分十代半ばぐらい。この子も神様だ。わたしよりもずっとすごい。平伏した方がいいかな?


「あなた、もしかして……ティルエル?」

「え……!?」


 わたしの名前を知ってる!? すごい、さすがは神様だ!

 わたしが感動に打ち震えていると、その神様は困ったような笑顔を浮かべた。


「フェイク動画とかそういうのかと思ってたけど……。まさか、本当にいるなんて……」

「おねえちゃん、このおねえちゃんのこと、知ってるの?」

「うん……。まあ、うん。知ってる、かな」


 その神様は小さくため息をついて、わたしに言った。


「行くところ、ないよね?」

「え、その……。はい……」

「じゃあ、うん……。おいで」


 かえるよー、と言いながら、その神様は小さな神様の手を取って歩き始めた。わたしは……どうしたらいいんだろう? おいで、と言われたけど、本当についていっていいのかな。

 わたしが逡巡していると、その神様が振り返った。


「来ないの?」

「…………。行きます!」


 悩んでいても仕方ないし、行く当てがないのも事実。ここは、この神様の好意に甘えようと思う。


「よろしくお願いします、神様!」

「ぶっ……」


 なぜか神様が噴き出した。どうしたんだろう。


「神様はやめてね? えっと……。私はサキ。サキだよ」

「サキ様、ですね! わたしはティルエルです!」

「うん。知ってる。この子は、ハナ」

「ハナです!」


 小さい神様はハナという名前らしい。なんと神様二人の名前を聞いてしまった。なんてすごい一日だろう。考えられないぐらいだ。


「とても……とても良い名前です! 教えていただき、感謝の極み!」

「敬語やめなさい!」

「無理です!」

「無理なの!?」


 神様に対しての会話だ。敬語に決まってる。神様が言おうともそれは譲れない。絶対にだ!

 サキ様は小さくため息をついて、仕方ないと肩をすくめた。


「まあ、いっか。とりあえず、黙ってついてくること。その間は魔法も禁止。いいね?」

「了解しました!」


 神様が……サキ様が言うならそうしようと思う。

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