砂漠の狐『関ヶ原大作戦』

船越麻央

『砂漠の狐』、関ヶ原に乱入!

 慶長五年九月十五日、午前八時。関ヶ原に立ち込めていた霧がようやく晴れた。東西両軍の軍勢の陣立てがはっきりした。


 東軍大将、徳川家康。桃配山に布陣。

 西軍大将、石田三成。笹尾山山麓に布陣。

 東西両軍緒将、それぞれ所定の陣地に布陣。


 当然、西軍小早川秀秋は松尾山に陣取った。はずだった。

 しかしそこにいたのは……『砂漠の狐』ロンメル将軍指揮下のドイツ機甲師団!


「霧が晴れてきたわね。ジブさんもナイフのオヤジもさっさと始めなさいよ!」

 金髪碧眼のオンナ将軍ロンメルがわめいた。『砂漠の狐』と恐れられるこの超美女は相変わらず元気である。松尾山頂から双眼鏡片手に関ヶ原を俯瞰していた。 


「お、おい、なんだあれは! ロンメルではないか! 小早川秀秋はどうした! なぜドイツ機甲師団が松尾山にいるんだ⁉」

「殿、小早川軍はロンメルに追い払われたようです。さすがは『砂漠の狐』とドイツ機甲師団ですなぁ。評判通りの強さのようです。それにしても小早川秀秋、あまりに不甲斐ない。やはりバカ金吾……」

 狼狽するジブこと石田三成に対して島左近は冷静だった。


「な、なぜだ! 松尾山には小早川の小せがれではなかったのか! ロンメルは西軍に味方するつもりか⁉」

 こちらは桃配山のナイフこと徳川家康。石田三成同様にあわてていた。小早川秀秋は機を見て東軍に寝返る手はずになっていたからだ。まさか『砂漠の狐』ロンメルが松尾山を占拠するとはさすがの家康も想定外だった。


「ふーん、まずは宇喜多隊と福島隊かしら。この陣立てだとフツーは西軍の勝利だけど。でも南宮山の毛利隊は動きそうもないわね。そいなると……ウフフフ」 

「閣下……またですか。悪いクセですぞ。しかし小早川秀秋、ああも簡単に逃げ出すとは。どうしようもありませんなあ」

「ホントお馬鹿さん。この松尾山の重要性がわかってなかったのね。さあて何をグズグズしてるのかしら。霧は晴れたでしょ、ビビッてないで突撃よ突撃。こっちもティーガーとパンターいつでもいけるように準備して!」 

「それと……例のアレもすぐに使えるようにしといてね。ウフフフ」

「はっ、かしこまりました……」

 上機嫌のロンメルに対して、副官ベッケンバウアーはうんざりした表情で返事をした。


 さて、いよいよ戦機は熟してきた。まずは血の気の多い、東軍福島正則が西軍宇喜多秀家隊に攻撃を開始した。宇喜多隊も負けてはいない。両隊正面からぶつかりあった。


 ついに天下分け目の関ヶ原の戦い、幕が上がった。


 東軍、約七万人。西軍、約八万人。この両軍が関ヶ原にひしめきあっている。小早川隊こそ戦場から消えてしまったが、まさしく大会戦である。

 この戦場に乱入してきたのが『砂漠の狐』ロンメル。神出鬼没の超美女、金髪碧眼のオンナ将軍である。その目的はいったい何なのか。何をたくらんでいるのか。東西どちらの陣営に加担するつもりか。それとも……。


「やっと始まったわね。あら宇喜多隊が優勢よ。ふーん、西軍やるじゃない。ジブさんガンバッテるわ。ナイフのオヤジどうしてるのかしら。そろそろアタシ達の出番みたい。今こそ例のアレを試す時! さあ行くわよ、レッツゴー!」


「松尾山はどうなっている? 『砂漠の狐』はどうするつもりだ! 今こそ我が西軍に味方してくれ! 何をたくらんでいるのかドイツ機甲師団!」  


「松尾山は動かない? 『女ギツネ』め何を考えている? ドイツ機甲師団、小早川の小せがれの代わりに西軍に攻め込め!」


 それぞれの思惑とは関係なく戦場は乱戦になっていた。戦車対戦車、装甲車対装甲車、装甲歩兵対装甲歩兵、両軍死力を尽くして戦っている。戦況は一進一退だが西軍やや優勢である。このまま西軍が押し切るか予断を許さぬ状況である。


 その時遂に松尾山で動きがあった。山頂からおびただしい数の飛翔体が飛び立ったのだ。その数およそ二百機。


 ロンメルの新兵器ドローンがベールを脱いだ!


 そのドローンの大群は一気に松尾山を下り、激戦中の戦場上空に到達した。そして飛び回りながらぶら下げていた箱から何かを放出した。


 それは……それは怒り狂ったスズメバチの大群! ドローン一機につき二千匹以上のスズメバチが一斉に解き放たれたのだ。

 五十万匹近い狂暴なスズメバチは戦闘中の両軍に襲い掛かった。東軍も西軍もお構いなし、戦車や装甲車は隙間から車内に侵入されてひどいことになった。


 両軍とも戦闘どころではなくなった。なにしろ相手は小さいが獰猛なスズメバチである。しかも怒りに燃えていた。遠慮なくだれかれ構わず嚙みついたり刺そうとする。兵士たちは躍起になって振り払い逃げ惑った。


「な、何だあれは! 宇喜多も小西も何をしている! ハチごときであのざまか!」


「ハチだと! た、たわけっ! さっさと追い払わんか!」


 石田三成も徳川家康も周囲を怒鳴り散らしていたが、どうにもならない。


 しかしこれだけだはなかった。松尾山頂からさらに二機の大型ドローンが飛び立った。一機は笹尾山山麓へ一機は桃配山へまっしぐらに飛んで行く。


「おい、こっちに来るぞ! 早く撃ち落とせ!」

 ジブとナイフが同時に同じセリフを叫んだ。


「さあ行くわよ! ティーガー隊、パンター隊、前進開始! 目標は中山道! 一気に山を下るからね!」

 ついに松尾山のロンメル軍が動き出した。戦場に殺到するドイツ機甲師団。先頭に立つのは……キューベルワーゲンに乗った『砂漠の狐』金髪碧眼のオンナ将軍ロンメル! 髪をなびかせGOGOGOGOである。


 さらに石田三成と徳川家康の陣地の頭上に到達したドローン。そのドローンのタンクから大量の冷水が双方の陣地に浴びせられた。

 「おのれ! ロンメル!」ジブもナイフも『頭を冷やせ』とばかりにずぶ濡れになったのである。


 そして中山道に到達したドイツ機甲師団、二手に別れた。笹尾山山麓方面と桃配山方面へ砲撃を開始し進撃した。もはや行く手を阻む部隊は存在しなかった。


「もうダメだ、いったん佐和山城に退く。『砂漠の狐』にしてやられた!」


「こたびはここまでだな。江戸に帰るぞ。『砂漠の狐』め大したオンナだ」


 こうして、天下分け目の関ヶ原の戦いは幕を閉じた。両軍の消えた戦場には大量のスズメバチがブンブンと飛び回っていた。

 勝者も敗者もない、痛み分けとなったのである。


「終わったわね。ドローン作戦大成功だったでしょ。お二人さん少しは懲りたかしら。頭を冷やして話し合う気になればよし、態勢を立て直して再戦するならご勝手にだわ」

「……閣下……もういい加減に……」

「さあ引き上げましょう。アタシ達を必要とする所へ!」


 金髪碧眼のオンナ将軍ロンメル。この神出鬼没の超美女は今日もキューベルワーゲンを駆って戦場を駆け回っている。




 


 












 

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砂漠の狐『関ヶ原大作戦』 船越麻央 @funakoshimao

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