第4冊目 秘伝!おばあちゃんのクッキーレシピ

「あの…ここって本の買い取りもしてるって聞いたんですけど…」


ある日の昼下がり、閑古鳥が鳴き叫ぶ僕の古書店『星の栞』に若い女性がやってきた。


栗色の髪にパッチリとした瞳、透き通るような美少女か…なんでこんな店に。


「値段は期待しない方が良いかも知れないけど買い取りはしてるよ。どんな本?」


「あ、あの…絵本なんですけど…」


少女が取り出したのはボロボロの絵本、かなり読まれているな、お気に入りの絵本なのでは?


「この本を売ったお金でレシピ本を買いたいんですけど…どこも買い取ってくれなくて…」


それはそうだろうなぁ…、実際僕も読んではみたいけど値段を付けろと言われたら少し悩む。


「おばあちゃんが最近病気がちで…大好物のクッキーを食べたら少しは元気が出るかなって…」


まあ孫が作ったクッキーなら喜ぶだろうけど病気かぁ…。


「じゃあお店の掃除してくれたら一冊好きな本あげるよ。掃除苦手なんだよね」


「え?やります!掃除しちゃいます!!」


そして少女が掃除をするのを横目に持ってきた絵本を読む僕。中々面白いなこれ…。


内容はおばあちゃんの魔法のクッキーで色々な問題を解決していく話だった。


病気の動物を助け、隣の村まで風に乗って飛んでいき、魔獣もクッキーの力でぶっ飛ばす。


チートクッキーだな。チッキーだ。


本は何回も読まれたのだろう、ボロボロだが愛情みたいなものを感じる。

ところどころ補修されており、本当に大事にさていたんだと思わせる。


これを売ってまでクッキーを食べさせたいって結構病状は深刻なんじゃないか?


しかし高いところも掃除してくれているわけだが…なんというか…絶妙な長さのスカート…見えそうで見えないのが気になって仕方ない。


本棚の上の掃除が終わったのかピョンっと飛び降りる少女、その際スカートがフワッとめくれ…慌ててスカートを押さえた少女と目が合った。


「あの…見ました?」


「うーん…見えてない気がする!」


「そうですか…黒は似合わないですよね…」


「え?白じゃないの?」


「やっぱり…次からは気をつけます…」

こんな古典的な手に引っかかってしまうとは…。しかしこの流れまで含めて満足だよ。

それから少女はスカートを気にしながら掃除をするようになった。


なってしまった!


「あの、終わりました」


「おお!綺麗になったね!ありがとう!」


「それで、掃除中に見つけたんですけど、この本貰ってもいいですか?」


その本かぁ…。


「まあ読めたら良いんだけど?」


「そんなに難しいんですか?ちょっと見てみます」

本のページをパラパラとめくってみる少女、まあ読めたらラッキーだよ。


「普通に読めますよ?これなら安く作れそうです!ただ分量が細かすぎる気がするんですが…」


「まあお菓子作りには大事な事だよ。きっと美味しいクッキーができると思うよ」


僕は少女から一旦本を受け取ってまた渡す、譲渡完了だね。


譲渡をしないと文字は読めるが失敗する。魔導書はとても面倒な仕様なんだ。


「本を開きながら作ってね、そうしないと失敗するから」


「え?はい、分かりました」


「じゃあおばあちゃんに宜しくね、今度一緒に来ると良いよ」


「えーと…おばあちゃんはもう歩けません…。おばあちゃんのクッキーは魔法のクッキーで私はいつも元気を貰っていて…せめて最後に私がクッキーを食べさせてあげようって」


少女は悲しそうに、泣きそうになりながら思い出を語る。まあなんとかなるよ。


「大丈夫だよ、君が作ったクッキー食べたら元気になるって」


「ミリアです。私の名前、ありがとうございました。帰ってクッキー作ります!」


「僕はリオだよ。頑張ってね、あと僕は黒も似合うと思うけど」


「ちょ!からかわないで下さい!!」


そしてミリアはパタパタと帰って行った。

大丈夫だろ、あの本があれば。


『秘伝!おばあちゃんのクッキーレシピ!』

伝説の大魔女アルヴェリウスの秘伝のクッキーレシピ。

分量と順番を間違えずに作るとあら不思議!

見た目はクッキー、性能はエリクサーのお菓子が出来る!

正に魔法のクッキーだ!


…………


「こんにちわー!!」


数日後、ミリアが再度店を訪れた。

「おばあちゃん!ここがあのクッキーのレシピをくれた古書店だよ!」


「ほぉ!こんな場所に本屋なんてあったんだね、店主も良い男じゃないか。どれ、お礼に何冊か買って行こうか」


随分と元気になったもんだね。流石エリクサー、もう寿命まで絶対死なないんじゃない?


「お客さんなんて珍しいわね!しかもこんな可愛い子なんて…。アンタ何もしてないでしょうね!」


おまえは帰れよ…古書店で大声出すな。

エリーゼはまたコーヒーを飲みながらダラダラと本を読んでいる。こんだけ本読んでるのになんでバカっぽいんだコイツ。


「あの…夫婦とかですか?」


「ふ、夫婦!?ちが、違うわよね!?」


「なんで僕に聞くんだよ…違うに決まってんだろ。この女は本も買わずにダラダラしていく客もどきだよ」


「買わなくても読めるんだもん!」


「限度があるだろ!一丁前に感想とか語りやがって!」


「なんか仲は良さそうですけど彼女とかでも無さそうですね」

まあ仲は悪くは無いけどね、軽く迷惑な客って感じ。


「良かったねぇ…ミリアにも付け入る隙はありそうだよ、がんばりな」


「うん!がんばるね!おばあちゃん!」

ん?何の話?


「リオさん!この間はありがとうございました!リオさんの言った通りクッキーを食べたらおばあちゃん元気になったんです!リオさんのおかげです!」


「別に僕のおかげじゃないよ、ミリアが一生懸命作ったクッキーの力だね」


「それであの…お礼といってはアレなんですけど…今日はリオさんの言った通りに黒いのを履いてきてて…」


ん?そう言ってスカートの裾に手をかけるミリア…。


「いやいや大丈夫!掃除してもらったし本当に大丈夫だから!でもどうしてもって言うならまあ減るものでは無いしね!」


「ミリア、一気にはダメだよ、焦らしておくのも大事だからね」


おばあちゃん元気になったみたいで何より!でも孫が何かイケナイ事をしようとしてるよ!止めないなら止めないでも僕は構わないけど!


減るものじゃないしね!


「うーん…じゃあたまにお掃除に来ますね!期待しておいて下さい!」


「わ、私だって可愛いのいっぱい持ってるし!」

なんなのエリーゼ君…もう少しみんな恥じらい持とうよ。


閑古鳥が鳴き叫ぶ古書店はこの瞬間だけ賑やかになった。


たまにはこんなのも良いかも知れないな…。

しかし期待かぁ、まあ期待して待ってるかぁ…。

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元英雄の古書店スローライフ~魔王は倒したのでもう使わない禁書と魔導書売ります~ 自来也 @POMESU3129

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