第3冊目 簡単!聖女のお仕事!

「相変わらず汚い店ね!」


勢いよくドアを明けて入って来たのは一応常連の女、名前はエリーゼ。

この古書店『星の栞』開店当初からの客だが本を買った事は無くダラダラと椅子に座り本を読んで帰っていくだけの女だ。


「汚いと思うなら掃除してけよ、僕はもうお前を客と認識してないんだから」


「だからここで働いてあげるって言ってるじゃない!」


「恩着せがましいな…そんな余裕があるように見えるの?」


「こんな美少女がお店にいるだけでお客さん増えるかもよ?」


「確かに美少女ではあるが本買いには来ないだろ…鬱陶しいヤツが増えるだけだよ…」


「び、美少女だなんて…そんな褒めても何も出ないわよ!」


「はいはい…コーヒーでいいか?」


「もっと褒めないの…?まあコーヒーで良いわよ」


こうして変わらない日常、暇な古書店の時間は過ぎていく。


そうして読書をしていると扉が開き、珍しくお客がやってきた。

「あの、営業してますか?」


「営業はしてますよ、人はいないですけど」


「私はいるわよ」


「“お客”はいないですけど。」


「良かった、少し見させて頂きます」

少女はスラっとした体型にロングの髪の毛、良いところのお嬢さんか?身嗜みがしっかりしている。この辺じゃ珍しいな。


手に取ったのは…禁書かぁ

どうせ読めないと思うけど。


禁書は僕が譲渡して初めて効果を発揮する。そもそも本に選ばれないと読めないし中々面倒な仕様なのだ。

魔導書も同じである。


しかし読んでるな…読めるの?あれって確か…。


「あ、あの!この本っておいくらですか!?」


普通に読めたのか、値段かぁ…。


「いくらなら買いますか?」


「じゃあ金貨一枚で!」

金貨一枚は大体三ヶ月は仕事しなくても良いくらいだ。僕は魔王討伐の報奨金が山ほどあるから別にいくらでも構わない。


「じゃあそれで良いですよ」


「ちょっと!金貨一枚なんてどんな本なの!?私まだ読んでないんだけど!」

うるさいなぁ…どうせ読めないよ君には…


「簡単!聖女のお仕事?ちょっと売る前に中を見させて貰ってもいいかしら?」


「構いませんよ」


エリーゼはウキウキと本のページを捲るが…

「なにこれ、文字が書いてあるのに頭に入ってこないんだけど…」


「頭が足りないんじゃない?とりあえずもう売るから返しなよ」


「なんかすごい悔しいわね…」

不服そうに本を少女に返すエリーゼ。まあ読めたらすごい事になるよ君。読めなくて良かったね。


「それではあなたに譲渡します。頑張って下さいね」


「え?はい、がんばります」

僕は一旦本を受け取りそれを手渡す。これで正式に譲渡完了だ。


「ありがとうございま…え?」

少女が本を受け取ると本が光を放ち、少女を包み込む。光が収まったあと、少女は驚きの表情を見せていた。


『簡単!聖女のお仕事!』

聖女の素質がある者に聖女のスキルが与えられる。

エクストラヒール取得、部位欠損も治す優れもの。

エリアヒール取得、半径十メートル以内の治癒が可能。

リザレクション取得、死亡して五分以内なら蘇生可能、寿命を全うした者は不可。

その他、麻痺や毒も無効化。

これであなたも聖女になれる!


ダンジョン踏破の報酬だったので僕は聖女の素質は無しでこのスキルを持っていたがまあもう使わないしな…。

本当に素質がある人間が使った方が良いというものだ。

中々に使えるスキルだったが僕は他の回復スキル持ってるし問題無い。


禁書や魔導書は譲渡をすると元の持ち主はそのスキルを使用できない。

まあ良いよ、もう魔王とか倒さないし。


「あの…私はマリアと言います。あなたのお名前は?」


「僕はリオ、ただのこの店の店主だよ」


「あの…!また来ても良いですか!?今度は何かお土産を持ってきますので!」


「え?まあ良いですけど…そんな気を使わなくても…」


「いえ!絶対来ます!それではまた今度!」

マリアは足早に店を出て行った。もう少女じゃなくて聖女か。


「随分と好かれたんじゃない?ふーん」


「なんだよ、気に入った本があったってだけだろ?」


「お土産貰ったら私も食べるからね!!」


「いや誰だよお前…まず本買えよお前も」


………。


「ただいま戻りました!!」


「マリア様…また勝手に外出を…お母様の聖女ギフトとまではいかなくても治癒師のギフトがあるのですから軽い怪我人くらいは治して貰わないと…」


「いいえ!もう私は治癒師ではありません!ほら!エリアヒール!」


「それは!お母様と同じエリアヒールですか!?いつの間に?」


「今日天使様に会ったんです!少し気怠い雰囲気の…でも素敵な天使様でした!」


私のお母様は聖女でした。しかし自分の病気は治せなかったので早くに亡くなってしまった。

そんな母の子供の私も聖女のギフトを期待されていましたが…神様から頂いたのは治癒師…。


聖女とは雲泥の差でした。

いくら練習しても軽いヒール程度、私はお母様のように沢山の人を救いたかった。

でも今日からは救えます!


あの天使様に沢山お礼をしなくちゃ!どんなお菓子が好きかな?

格好良かったな…。あの一緒にいた人彼女とかかな…。


また外出して贈り物を買いに行かなくちゃいけませんね!

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