第2冊目 魔法は友達!入門編

魔王討伐後に開店した僕の古書店『星の栞』

開店当初は英雄の店という事で客も多かったが、読めない本が多すぎる!という噂が広がってしまい、今では本を買うよりも売りに来る客の方が多くなった。


「禁書と魔導書は読めないのが普通だからなぁ…」


素質がないと内容が頭に入ってこない本、それが禁書と魔導書だ。


素質があり読む事が出来ればあとは譲渡手続きをするだけで済むのだが…まあそうそう読める人もいないんだよね。


しかし本を売りに来る人が多いのは僕からしたら幸いであり、こうしてコーヒーを飲みながらのんびりと読書をする生活。


なんと幸せである事か。


そんな事を考えていると乱暴に扉が開かれた。

「なんだここは、ちっぽけな店だなぁ!おいお前!俺の本買えよ!金貨10枚で売ってやるからよ!」

そんな平穏な日常にもたまにこうやって騒動が舞い込んでくる事もあるんだ。


「どんな本?まさかお前が書いたとか言わないよね?」


「口の聞き方には気をつけろよ?良いから金出せよ」

デカい図体に腕にはドクロの刺青。

ドクロの刺青入れてくださいって言うの恥ずかしくなかった?


「一応本見せてよ、万が一面白そうなら買うからさ」


「ほらよ!俺様が書いたんだぜ!」

出されたのはどこかの広告のチラシ?逆にお前が書いたならそれはそれですごいと思う。


「はい、後ろ向いてドアの方に歩いて」


「な、なんだ…身体が勝手に…」

男はぎこちない動きで出口に歩き出す。


「この店の事は忘れろ、あと二度と認識すんな、ついでに人に迷惑かけんな」


「な、なんだ…俺が俺じゃ無くなっていくような…」


「あとちゃんと扉閉めてけよ」

男は丁寧に扉を閉めて店を出て行った。

全く…せめてまともな本持ってこいよな…。


するとまたすぐに扉が開いた。今日は大繁盛だな。


「あ、あの!今すごい魔力の波動を感じました!一体どんな魔法を使ったんですか!?」

入って来たのは白いローブを着た女の子、魔導士?魔法使い?


「いや別に普通に喋ってただけだよ、物分かりの良い人で助かったよ」


「そんなので騙される訳ないじゃないですか…あの腕ドクロじゃあるまいし…」

アイツ腕ドクロって呼ばれてたの?不憫だ。


「まあ魔法だよ、ただ相手を言いなりにするって言う魔法、耐性が強い人には使えないけどね」


「なんですかその魔法!聞いた事ないです!」


それはそう、禁書の魔法なんだから禁じられてるんだよ。悪い事し放題だから僕みたいな人間の出来た聖人みたいな人以外使っちゃダメ。


「私ルーミエって言います!是非魔法のご指導をお願いします!」


「普通に無理だよ…だって僕古書店の店主だし…。そういうのは魔法使いのおばあさんとかから教わってよ」


「なんでもします!私魔法使いなのに魔法が使えないんです!初級魔法くらい覚えて冒険者になりたいんです!」


「魔法が使えない魔法使いって何!?散歩できない犬みたいじゃん!」


「独特な言い回しで凹ませるのやめて貰っていいですか…結構気にしてるんです…」


「いやごめんね、ギフトは魔法使いなんでしょ?なんで魔法使えないの?」


「ギフトは魔女です…」


えぇ…上位互換じゃん…。


「でも魔力の波動は感じ取れるんだよね?素質はあるんじゃない?」


「魔力感知は得意です!しかし魔法が使えません!」


「まあここは本屋だからさ、魔法に関する本もいっぱいあるよ。少し見ていきなよ。あと面白い本持ってたら売ってくれるとありがたいかな」


「本ですか…結構な量は読んだんですけどどれも理解はできても魔法が使えるようにはならなかったんですよね」


「まあ試しに読んでみたら?」


「うーん…じゃあお言葉に甘えて」

それから数時間本と睨めっこする少女、途中で暑くなったのかローブを脱ぐと豊満な胸が現れた。


魔女ってそういう事?魔性の女の方?


「あの…そんなに見られると流石に恥ずかしいんですけど…」


見すぎた!しかしほら、あの…珍しかったから!そう!珍しい物を見る目だよ!


「あの…私にさっきの言いなりの魔法かけたりしませんよね?」


「無理だね、あの魔力の波動を感じ取れるくらいの人には効かないよ」


まあ信じるか信じないかは勝手だけど本当の事だからね。


「そうですか…あの、この本なんですけど…」


「読めるの?やったじゃん」


「え?読めますよ?夢みたいな内容ですけど…ただ内容は理解出来るんですけどなんかこう、しっくり来ないというか…」


「買ったら分かると思う、値段は任せるよ。本と交換でも良いし」


「お金あまり無いので…これと交換でも良いですか?前に買った初級魔法の本なんですけど」


そう言ってルーミエがカバンから取り出した本のタイトルは…『ご主人様の言いなり、駄目です…こんなところでなんて…』


自分が取り出した本を見て赤面するルーミエ…

「ち、違います!!これは友達から無理やり貸されたヤツで!私は読まないって言ったんですけど!!そう!無理矢理カバンに入れられたんです!参ったな!!本当はこっちです!いやーあの友達には困ったものです!」


まだ何も言ってないが?


「僕その初級魔法の本より友達に無理やり貸された本の方が読みたいんだけど…」


「こ、これはまだ買ったばかりで読んでないから駄目です!」


取り乱しすぎだろ…。友達設定どこいったの。


「まあ読んで飽きたら売りに来てよ、今日はその初級魔法の本と交換でいいからさ」


「なななななにを言ってるんですか!?汚れとか探す気ですね!そうはいきません!しっかりと汚さないように……~~~っ!!」

顔が茹で上がったように真っ赤になったルーミエ。

もう喋らない方が良いよ…。


「じゃ、じゃあ交換ですね!交換しますからね!」


面白いけど流石に可哀想なので僕は魔道書とルーミエの初級魔法の本を交換。

譲渡成立だ。


「もう一回読んでみなよ、きっと魔法使えるよ」


「は、はい…」


照れ隠しもあったのか本を読み始めるルーミエ、徐々に顔が真剣になっていき…。


「なんですかこの本…魔法の知識が流れ込んできます…」


『魔法は友達!入門編』

大魔道ノルウェインが書いた魔導書。

膨大な魔力と魔法適正のある者のみが読む事ができる。

全属性の魔法を上級まで即座に習得可能。

詠唱破棄で好きな魔法をぶっ放そう!

魔法合成でオリジナル魔法も作れるぞ!


………。


「すごいです…今なら魔法が使える気がします!」


「ちょっと待って!一旦外に出よう!ここで使われたらこの街の人僕以外無事じゃ済まない!」


「え?そんな事ありますか?」

あります、上級魔法はそんな威力です。


半信半疑のルーミエを外に連れ出し、空間転移で人がいない荒野に移動する。


「なんですか今の…空間転移もできるんですか…?」


「まあできるね、疲れるからあんまり使いたく無いんだけど、まあここなら迷惑かからないしドーンと上級撃っちゃってよ」


「上級魔法なんて知らないんですけど…」


「うーん…詠唱もいらないから魔力を手から出すイメージで、焼き尽くせ!とか言ったら良いよ」


「はぁ…じゃあ、焼き尽くせ…」

ルーミエはそう唱えた瞬間、巨大な炎の壁が出現、視界は炎に包まれ、全てを焼き尽くしていく。


「ちょ!なんですかこれ!どうやったら止まるんですか!!?」


「ん?水で火を消すイメージで良いんじゃ無い?全てを流せ!とかで良いよ」


「す、全てを流せ!!!」

次の瞬間空から膨大な量の水が降り注ぎ、炎を消し去っていった。


「あの…これはどういう…」


「魔導書なんてこんなもんだよ。禁書はもっとやばい」


「禁書って…一体どんな…」


「じゃあ使ってみようか、戻れー」

僕がそう口にすると燃え尽きて流された大地が元通りになる。


「何したんですか…?」


「時間を巻き戻したよ、そんなに沢山は巻き戻せないけどね」


「はぁ…そうですか…。で、でも!これで私も魔女です!正真正銘の!」


「まず初級の練習した方が良いよ、上級とか最悪地形変わっちゃうからね」


「はい!ありがとうございました!!」

そうして僕の店までまた戻り、ルーミエは大分興奮していたので少しお茶をする事にした。


「こ…これで冒険者に!」


「そういえば冒険者になって何かしたい事あるの?」


「普通に仕事としてですね。お金はあっても困らないですし、冒険者は稼げますからね」


「それであの卑猥な本買うの?」


「ちょ!違います!まあ買う事もあるでしょうが違いますでしょうが!」


「まあ飽きたら売りに来てね、僕じゃ普通に買いにくいからさ」


「うぅ…まあ恩人の頼みですし…仕方ありませんね」


「しかし無理やり系の本だったけどもしかして僕の言いなり魔法で…」


「そそそ、そんなわけ無いじゃないですか!もう!意地悪しないで下さい!!」

まんざらでも無さそうなんだが…


「ありがとうございました!また遊びに来ますね!」


「冒険者頑張ってね!」


結構な時間お茶をしながら談笑したなぁ。

あの魔導書を譲渡したから僕は上級魔法が使えなくなったか…。


まあもう使わないからな…少し寂しい気もするけどね。

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