不消の呪いで不死屍累々

アスパラガッソ

第1話 ~不死の国の近くの村の青年~

 この世界では、様々な者や物が様々な形で不死ふし、または不壊ふかいとなる、不消ふしょうの呪いが蔓延っていた。そして、人々が一部の壊れない物や、死なない者を迫害し和解を経て数十年が経った。


『―――る。未だに不死や不壊に偏見を持つ者や、迫害を繰り返す者はいるが、主要都市である四ヶ国の【ヒューラル】【エプゼン】【マーロット】【ガロリンデ】が、不死者、不壊物ふかいぶつで構成された国【フリーデス】との和解した際に、和解の条件として四ヶ国の代表であるデラス・モーガニック氏は―――』


「さて、そろそろ行くか!」


 寂れた道具屋の奥の部屋で、一人の青年がテレビを消し、斜め掛けの鞄の紐を掴み部屋を出た。名前はエラウィン、不死者であり不壊物の鞄を持ち、フリーデスから数十キロ離れた【バーウィス】という村に住んでいる青年である。

 エラウィンは生まれながらの不死者であり、本人はまだ死んだことはないが、15歳を境に身体的成長が止まり、既に30年が経っても老いた様子がないため、村の人やエラウィン自身はそう思っている。

 昨日エラウィンの下へ手紙が届き、不死者の国と言われているフリーデスに招待された。だが、村にいる馬はほとんどが老馬で、長距離をこなせる足が無かった。その時丁度村に交易に来ていた商人がフリーデス出身と聞いたので、その商人に話を聞いてみたところ、明日の明朝商品を補充するためにフリーデスへと帰ると言っていたので、それに乗って行けないかと聞いた際に、商人の護衛を条件に許可してくれたのだった。


「では……じゃあエラウィンさん!今日は私の故郷であるフリーデスまでの道のりの護衛よろしくお願いします。ここへ来る際も護衛を一人雇ったのですが、その人は金をくれるならどこの仕事も受ける方でして、私の行商の仕事が数日かかると知るや否や、昨日まで隣で商売していた……まぁ商売を邪魔……いや行商の邪魔……何て言いますでしょうか」


「商売敵じゃないですか?」


「あぁ、そうそう。商売敵のような人の方の護衛に行ってしまってて、いやはやたいへん困っていたところでしたよ。こういうのを利害の一致って言うんですかね……」


「あ~そうですか」


 エラウィンは、行商人は商売の話しかしないと聞いていたので、この人は良く無駄話をたくさん喋る人だなと思いながら、護衛の準備をしていた。準備と言えど、エラウィンは基本的に腰の短剣と、持ち前の不死を信用して思い切り行動しているため、他人のことを考えることが少ないので、馬車の周りをどう護衛や警護をしたらいいだろうかと考えるぐらいの、心得のようなものを考える準備をしていた。


「では、そろそろ行きましょう。明朝に出ると言いましたがもうすぐで太陽が完全に登ってしまいますね。うっかりしてました……これだと眠っている魔物に見つからないように気を付けていかないといけなくなりましたね。私としたことが、よく他人から作戦を立てるのは上手いと言われますが、やはり行動力がないですね……情けないです」


 道中も行商人の話を聞き流し、ラジオを聞いているような感覚で頭にぼんやりとループする言葉に気を散らしながらも、周囲の警戒を怠らずに順調にフリーデスへと近づいていた。


「行商人さんってこの仕事を始めて長いんですか?」


「うーん……あ、そういえばエラウィンさんってもしかして不死者ですか?」


 村人以外の人からそう聞かれる機会が少ないせいか、妙な冷や汗をかきながら、エラウィンは行商人がフリーデスの出身だと聞いていたので、不死者だと言っても軽蔑や差別は無いだろうなと思いながら正直に答えた。


「まぁ一応そうですね」


「一応、ですか?確信は無いというわけですか」


「……恥ずかしながらまだ死んだこと無いんですよね。ただ長い時間生きていてもほとんど外見やらが変わらなく、老いなどを感じないのでそう思ってるだけです」


「あぁ、確かに不死だとしても死ぬのは怖いですからね。なんらかの事故などで知るのが大半だと聞きますよね」


「そういえば行商人さんはフリーデス出身っていうことは、そういうことですよね?」


「そうですね。私の場合は少し不死の条件が違いますが、普通に死ぬ人類から見たら不死者でしょうね。あ、それと行商人さんってのはなんか堅苦しくてよそよそしいので、ぜひディス・カルディ……そうですね、気軽にカルディと呼んでください」


「分かりました。カルディ……じゃあ俺のこともエラウィンと敬称は要らないです」


 カルディとの会話に盛り上がり、近くまで忍び足で近づいている魔物に気付かなかず馬車を進める二人の会話を遮るように、狼の魔物がカルディに飛びかかった。そして狼に押し倒されるカルディは驚きながらも、腕で牙をガードして致命傷を防いでいる。


「カルディ!……離れろ!」


「キャン!?ガルルル……」


「コホッ、ゴホ」


 カルディに襲い掛かった狼を追い払おうと、エラウィンは腰の短剣を引き抜いて斬り掛かった所、致命傷は外したようで少し腰の辺りから出血しながら、狼はカルディから飛び退き着地をした。


「あぁ、ありがとうございます……ただ、少し……ゴホッ、キツイですね」


「カルディ?不死者じゃなかったのか?かなり出血でキツそうに見える……」


 狼はまだ警戒しているようで、エラウィンは短剣を前に突き出して牽制をしながら、カルディの身体の状況を確認する。


「いえ、不死者ではあるんですが、まぁさっき言った不死の条件ってのが肝なんですよ」


「条件ってなんですか?」


「私の、ゴホッ……不死の条件と言うのは、私自身が死ぬと感じなければ発動しないというもので、これが結構厄介なんですよ。まだどこまで死ぬ……ゴホッ……と感じないと発動しないのか把握していなくて、自主的に出せないのと瞬殺系は……ゴホッ……多分完全に死ぬと思うんで……ゴホッ……中々めんどくさいでしょう?まぁ時期にこの傷もサラサラ治って加勢すると思うんで、その間馬の防衛を頼みま……」


 エラウィンはカルディの不死の条件を聞きながら、確かに今朝見ていた不死者、不壊物特集の番組で同じこと言ってたなと呑気に思い出していた。すると狼側がしびれを切らしたのか、お喋りなカルディが回復のため黙った瞬間に飛びかかって来た。

 エラウィンの住む村は元来魔物が良く襲撃に来る場所だったので、正直油断をしなければ負ける相手ではない、だが村の周りに生息している狼とは様子が違ったのでエラウィンは慎重に横に飛び退き、その際に飛び込んできた狼の腹に刃を当てて、その慣性を利用して切り裂いた。


「ガ、ガフッ……グルル……」


「ふぅ……初めての護衛で少し緊張してるのかな、意外と精神的に疲れるもんだ」


 エラウィンは倒した狼の魔物の引き裂かれた腹を更に引き裂き、心臓の近くで紫色に光る臓器を、心臓から伸びる太い血管を短剣で斬り裂きながら取り出した。すると後ろから物音がしてエラウィンが振り返ると、そこには自分の血をべっとりと付けた服を着たカルディがいた。


「お疲れ様ですエラウィン」


「いや、こっちのセリフですよ。すいません護衛がヘボで」


「いや、良いんですよ。私の能力の都合上一人じゃ危険なので、ヘイトを分散させる目的で雇ったんで、そこまで戦力とかは気にしてないんですよね実は」


 エラウィンはカルディの言葉に少し引っ掛かるも、自分があまり戦闘面では役に立たないのは知っていたので少し苦笑いをしながら、特段何事もなくフリーデスへの馬車旅が再開したのだった。

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