第2話 ハンカチ屋
ある日の退勤中道に迷った。
もう大人なのに何度も通っている道なのに何故だかどこに進めば良いのか分からなくなった。
都会だというのに辺りは暗かった。
すると前方に温かい光がぼんやりと見えた。
アンコウの光に寄せられた餌の様に私は光の方へ進んでいった。
そこには
「ハンカチ屋」
と書かれた看板が。
明らかにおかしい状況の筈なのに私は特に何の疑いも持たなかった。
ギィィ
古びた木製の扉を開けるとどこか懐かしい香りが鼻に吹き抜けていった。
そこには沢山のハンカチが置いてあった。
色々な色、形、大きさ
何一つとして同じハンカチはなかった。
そしてハンカチには値札が付いていなかった。
私は心に留まったハンカチをレジに持っていった。
「これください」
レジにはおかっぱの目が大きくて肌が浅黒い
若い女の人が立っていた。
店長の様だ。
「はいどうぞ」
「えっ?値段は」
「ないですよ。いらないので」
戸惑いを隠せないまま私はハンカチをポケットに入れた。
「あの大丈夫なんですかここの店」
「お金ですか?大丈夫ですよ。」
店長は笑顔でそう答えた。
そしてその時私は何故だかこの言葉を口にした。
「何でハンカチ屋なんてやってるんですか?」
失礼で不躾な言葉を吐いた自分に驚いた。
でも何故だか聞きたくなった。
店長は特に怒りもせず言った。
「私の夢だったからですよ。」
「夢?ハンカチ屋が。」
「はい。誰でも夢の一つや二つあるでしょう。
私はそれがハンカチ屋だったんです。」
「そうなんですか。
夢が叶って良かったですね。」
私の口調はどこか皮肉めいたものになった。
すると店員が言った。
「諦めなければ誰でも叶えられますよ。
夢ってそういうものでしょう。」
気がつくと私は家にいた。
もう道には迷わないだろう。
短編集 再々試 @11253
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編集の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます