エピローグ
私の恋が実るだなんて、夢にも思っていなかった。
あの夜、私は彼の手を取った。そしてすぐ医者に連れて行かれた。思っていたより私の足は重症だったようで、数日間の休養を命じられた。
休養している間、彼は毎日私に会いに来た。彼から見たジョアンナ様の企みについてや、これからの生活のこと。そして、様々なことへの謝罪。私は謝ってほしい事なんて何も無いのに、彼は必要以上に自分の行動に責任を感じているようだった。
そして、ジョアンナ様が居なくなった踊り子の団は廃団が決まった。どうにか続けられないかと話し合ったが、彼女が運営と管理の全てを担っていたので引継ぎなしでは難しかったのだ。現在、かつての仲間たちはノアの紹介もあって貴族の家や孤児院で働き出し、お互いに頑張ろうと鼓舞し合っている。
そして私は、ノアの家で暮らすことになった。
彼が連れてきたメイドさんの「花嫁修行をさせる」という発言で、彼との関係が今の時点で既に結婚を見据えたものであると知った。彼は私を逃がす気は絶対に無いらしい。
私は今、彼の家に向かうための馬車に乗っている。向かいの席に座る彼は、初めて見た時と変わらず綺麗なままだ。
「今日から君と俺は婚約者として、同じ家に住むんだ。何か分からないことや不安なことがあれば、遠慮なく相談してほしい」
「は、はい! これからよろしくお願いします!」
これから始まる想像もつかない新生活に、私は胸を高鳴らせた。
***
目の前の愛しい少女に、俺は微笑みかけた。
やはり、マリーにはジョアンナのことを教えない方が良いだろう。
死に絶えた彼女は老婆の姿であったことも、名前と容姿の条件が80年前に森に捨てられた孤児と一致したことも。その少女は迫害されて捨てられた孤児たち数名で森に小屋を作り暮らしていたが、当時の街の若者のいたずらを引き金にその少女以外の孤児全員が死に絶えたということも。
きっとジョアンナのマリーに対する愛は本物だったのだろうし、マリーだってもどかしさはあるだろうがジョアンナをとびきり恨んでいるようには見えない。これ以上深い話をするのも、彼女たちの関係には野暮に思えた。
今はただ、これから始まる新生活に心を躍らせる。悲惨な運命を辿った老婆への餞としても、彼女が愛した少女を絶対に幸せにすると誓って。
運命よ、必然的な奇跡をおこせ 霧切酢 隼人 @kirigirith_sp_2
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