君のために
鳴宮琥珀
あなたに会いたい
お金を稼ぐ、その行為に一体どんな意味があるんだろう。
どうして人はお金を稼ぐのか。
生活するため、自分の趣味に費やすため、家族のため……理由は人によってさまざまだ。
そして私は………
「はい、今日の分。」
「ありがとうございます。」
封筒の中身を確認してほっと一息つく。現金を見ると安心してしまう。お金だけは、私を裏切らないから。
外に出て空を見上げると、もうすっかり暗いのに、周りの建物の明かりが眩しいせいで、夜っていう感じが全くしない。明るくて星も見えない。口から白い息が漏れ出し、空気に溶けていく。
あの人は、星を見ることが好きだった。この都会の空は、あまりにもあの人に不相応で、私はすっかりその色に染まってしまっていた。
(帰ろう…。)
騒がしく鳴り響く夜の街から抜け出して、静かな場所に行きたい。明日は朝も早い。ちゃんと大学に通わないと、怒られてしまう。
あなたに会いたい。もう一度……私に笑いかけて欲しい。
「今日も…来たよ。」
消毒液の香る部屋。広くはない個室。腕に繋がれた管。
それを辿ると、点滴にいきつく。
見慣れたはずの顔、でも…その顔が私に笑いかけることはない。私の声に反応することはない。
どれくらいそうしていただろう。
大学の講義を終え、こちらに着いてから数時間が経過している。夕焼けのオレンジ色が部屋の中まで入り込んでいた。
(綺麗……。)
まだ自分の中に、汚れきった私の中に、この景色を綺麗だと思える心があってよかった。彼が目覚めた時…顔向けすることが、まだできるだろうか。
彼の家庭は片親で、あまり裕福ではない。それでも母親が一生懸命働いているのを、私は知っている。朝早くから夜遅くまで働いて、ここに顔を見せに来ることすら中々できない。
でもあの人の稼ぎじゃ…それだけじゃ全然足りないのだ。だから私が……
彼の母の代わりに、こうして毎日あなたの顔を確認しに行く。というのは口実で、本音は私が毎日会いたいから。
あの日からもう二年。ずっと忘れられない。忘れることなどできない。不運な出来事だった。
あなたのために生きている。
そして、今日も私は自分を売る。
あなたが目覚める日を…ずっと待っている。
君のために 鳴宮琥珀 @narumiya-kohaku
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